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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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坑道脱出

「ほう」


背後を振り返りつつ、アッタカッラを見る。

まあ、どちらにしても出口までは連れていくつもりだったが――逆に連れていってくれるというのならありがたい。


「では、まかせよう」

「あは、お願いしますね」


即答が意外だったのか――アッタカッラは、目を(しばた)かせていた。





***




「……君は、本当に何も聞かないのだな」


出口までの道を歩いていると、アッタカッラがそう切り出した。


「ああ。興味がないからな」


そもそも、俺から聞くような話でもあるまい。

この男が組織に入った理由も、そこで何が起きたかも、この男だけのものだ。

俺が、奴隷としてこのセカイに現れた事に対し首を突っ込んでほしくないのと同じようにな。

しかしまあ、話したいというのなら別だが。


「なら、これは私の独り言として聞いてくれ」

「…………」


残った目を閉じ、何かを思い出そうとするアッタカッラ。

その合間に、衛利が小声で耳打ちした。


「追跡者の気配、まだありません。……でも、いつまで持ちますかね」

「……まあ、罠も機能している。出口から出てしばらくはもつだろう」


手持ちの暗器をすべて使い果たし、心理的な揺さぶりも利用して構築した罠だ。

相手が人間である以上は、確実と言い切ることは不可能にしても、しばらくの間は持ってもらわなければ困る。


「それに、もうしばらくすれば出口につくだろうしな」

「何故ですか?」

「ふむ……衛利は少し心理的なものも学んだ方がいいな」


忍者は少しばかり脳筋思考すぎる。

まあ、これだけ敵を倒せる実力があれば、心理面など利用しなくてもいいのかもしれないが。

あれば便利なのも事実だ。


「だいたい、話し出すのは気が緩み始めた証拠だ。そして、この洞窟から出るという状態で気が緩み始めるということは――」

「なるほど……出口が近いから、と」

「ああ。話終わるころには出ることができるだろう」


小声でそうやり取りする。

衛利には引き続き警戒をしてもらうとして……さて、俺は独り言とやらを聞くとしよう。

ちょうどよく、アッタカッラが目を開いた。

記憶の整理が終わったのだろう。


「私には……ユランという、一人娘がいた。妻は若くして他界したのでね、その子だけが私の生きがいだったよ」


かつて――アッタカッラという名を、今付けられるまで、ユージガという名を持っていた男は、別の都市にある大きな学舎で、薬学の研究をしていたのだという。


「学舎といっても、その都市はこのフルグヘムよりもさらに国の中心から離れた場所にある……当然、治安も悪く、人が失踪するなど日常茶飯事だった。――まさか、私の娘が攫われるなど、夢にも思わなかったがね」


フルグヘム……マキシムたちが言っていた、ここのあたり一帯を指し示す地名。

ミリィから少しだけ地理の勉学を受けたが、このあたり……フルグヘムは、リマーハリシアという国の辺境に位置しているらしい。

つまりは、リマーハリシア辺境フルグヘム、ということだ。

とはいえ――このあたりは辺境とはいえ、他国と戦争をしているリマーハリシアの、その最前線だ。

戦争特需などで経済的に活発であり、兵士たちも見回っているため、かつて私利私欲の塊であるマキシムが治めていたためにボロボロではあるが……致命的なまでに治安が悪いということもないらしい。


「家に戻って慌てたよ……どんな場所に連れていかれてしまったのかと……だが」


街の隅々を探し回っても、後ろ暗いものたちに金を渡して情報をしゃべらせても、何の情報も出てこない。

失意の中、家に戻ると―――。


「手紙が、置いてあったんだ。娘を返してほしければ、その知識を提供しろ……組織は、私が持っていた薬学知識を手に入れたかったらしい」


なるほど、弱みを手に入れることで裏切れず逃げ出せない状況を作り出す。

厭なまでに的確で正攻法な手段だ。


「知識で娘が助けられるなら、と私は持てる知識のすべてを差し出したよ。強化の丸薬だってその一環だ」


一時的に身体能力を引き上げるあの薬。

あれを作り出せるほどの頭脳の持ち主とは――人は見かけによらないということか。

…………いや、そもそも暗殺者が向いていなかっただけか。


「でも、全てを差し出しても、娘は帰ってこなかった。研究に従事して、最後には暗殺を行う所へ飛ばされたよ……これが、五年も前の話だ」


知らずのうちに、アッタカッラの右目からは……涙がこぼれていた。


「私は研究者だ。暗殺なんて、やったこともない。王は……そこで私を磨り潰すつもりだったのだろうね……だが」


生き残ってしまった。

何度も、何度も。

王とやら……ボスの意に反して。


「私は、こうやって続けていれば、いつか娘が……ユランが帰ってきてくれるのではないかと思っていたんだ……馬鹿だなぁ……娘はとっくにいないと、分かりきっていたのに……」

「…………」

「とてもいい娘でね……将来は私と結婚するだのと言って……私が買ってあげた指輪を首に提げて、宝物にするだなんて……」

「ついた。独り言はそこまでだ」


アッタカッラの言葉をさえぎる。

こいつが垂れ流したかった罪はもうすべて流し終えただろう。

これ以上は、ただ傷口を膿ませるだけだ。


「――あぁ、すまない……」

「あはぁ……なるほど。井戸の地下に繋がっていたんですね」


洞窟の先……進めば進むほど下に降りていったが、なるほど、井戸に繋がっているというのならこれほど深く下がってもおかしくはあるまい。

浅井戸ならいざしれず、深井戸などはそれこそ40mを超えて掘ることすらありえるのだ。

……まあ、このレベルの深さの井戸となれば、実際に桶を引き上げるのにすさまじい時間を必要とするだろうが。

それも近くの川まで歩いていき、桶に少量汲んで戻るということを何度も繰り返すよりはましだろう。

桶がつながるロープを引っ張る。

強度は十分だ。

同時に俺たち3人が捕まっても切れることはないだろう。


「随分頑丈だな」

「甲鉄蔓ですね。非常に太い蔓草で、巨大な船同士を繋ぐことすらできるとか。このあたりにはあまり生えてないそうですが、キャラバンとかで入手は容易ですし、井戸の桶につなぐものとしてはこれ以上に適したものはそうないですよ」


衛利の解説が入る。

船同士を繋ぐ……あるいは、繋留に使ったりもするのだろうな。

うまくやらないとナイフすら通りそうにない。

甲鉄という名に恥じない頑丈さだ。


「俺が先行する。衛利はアッタカッラを支えてくれ」

「分かりましたー」

「……ぐ……すまない……」


俺が切り裂いたのが一番の原因だが。

まあ、必要なことだ、あきらめてもらおう。


「よっと……」


手早く一番上まで上る。

井戸に掛かる蓋を少しだけ持ち上げ、外を観察する。

ふむ、時刻的にはそろそろ夜が明けるころだ。

暁が昇るまでには少し時間がある。

流石にこの時間に起きている勤勉なものはいないらしい。

衛利に合図を出し、呼ぶ。

俺は素早く井戸から出て、周囲から大量の石を集めてきた。


「むわ!……ふぅさすがに大人は重いですね……」

「苦労を掛けるな」

「お互い様ですよー」

「……その石は、何に使うんだ……?」

「ああ、普通にこうだ」


もう一度蓋を掛け、当然のようにいくつもの重石をおく。

単純明快、これで抜け道から俺たちを追いかけることは不可能というわけだ。

そもそも、この出入口は人の少ない時間帯しか使えないだろうがな。


「いや……ずいぶん使われていない。これは古井戸か」

「ああ……組織が……再利用……を…………」

「む」


緊張が途切れてしまったのだろう。

アッタカッラは地面にばたりと倒れ込んでしまった。

ちょうどいい。

仰向けにして、出血などの確認をする。


「ふ、いい感じに血が止まっているな」

「ハシン浅く切っていましたからね」


当然だ。

深く切りすぎて、死んでしまっても、血が止まらなくても困る。


「さて。行くか」


倒れたアッタカッラを背負い、スラム街を歩き始める。

最初の目的地は、アッタカッラを追いかけまわしていた時に位置を把握している。

俺も半人前の暗殺者だ。地下を経由したとはいえ、街の地形と照らし合わせて今どのあたりにいるかくらいわかっている。


「衛利。もう帰ってもいいんだぞ」

「あと少しくらい、ついていきますよ。行く方向同じですし」


……まったく。

まあ――暗殺を通して友ができるというのも、悪くはない、か。



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