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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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潜入開始

「意外と人がいるな」

「警備でしょうね。いや、でも組織の規模を考えると人が少ないような」

「下にいるのだろうよ」

「まあ、そうですよね」


衛利と小声で言葉を交わしながら通路を進む。

無駄に広いと呼称できるほどの教会なだけあって、通路もかなり多いようだ。

おかげで警備員と鉢合わせになりづらくなりやりやすいが。


「上には六人か。先ほどの男はいないようだな」

「全員無力化しますか?」

「それがいいが……さて、どこからとっかかりを作るか、だな」


()を攻めている最中に上からつぶされてはたまらない。

上にいる分にはいくらでも逃げられるが、下で閉じ込められるというのは良作とは呼べない。

何事も、退路を断たれてしまうのは悪手である。

とはいえ、俺の目的が男の排除、衛利の目的が薬品製造手段の収集である以上、結局はこの教会内すべての敵を倒すことになるだろう。

忍者である衛利がいるにしても、正面から常に戦うというのは負担がかかりすぎる。

敵が毒などを持っているという点からも、なるべくなら静かに始末していきたいところだ。


「あはー、で……いつまで鉢合わせないように二階を歩いているんですか?」

「もう終わる。……衛利は忍者にしては落ち着きがないな。隠密には向かないだろう」

「う……いろんな人から言われます……。じっと敵の動きを待つのは得意じゃないんですよ……」


欠点ではあるが、その心持が有利に働くこともあるため、どちらとも言えないな。

確かに隠密という観点では利点になるところなど一つもない衛利の落ち着きのなさだが、落ち着きがないということは逆に考えれば常に周囲に対してのアンテナを立てているということでもある。

事実、最初に屋上で鉢合わせしたとき、衛利は背後を向いている状態でありながら、仮にも暗殺者である俺に一瞬で気が付いたのだから。


「……ふむ、まあ隠密スキルはこれから高めていけばいいだろう。俺が手伝ってもいい」

「え、本当ですか?本職の暗殺者さんに指南していただけるとは光栄ですよー」

「俺は見習いだ。……それに、もし教えることになったとしても、それは取引だ。代わりに俺に戦い方を教えるというな」

「互いに強くなろうということですね」

「――まあ、そんなところだ」


正確には。

忍者の戦い方を知ることができれば、相対した際に生存率が上がるから、というだけだが。

俺が教えるのは隠密だけ。教わるのは忍者のすべて、というかなり汚い取引なのだ、これは。


「……あは。ではでは、ハシンの暗殺を見せてくださいね」

「そんなたいそうなものではないが」


敵と鉢合わせないように教会内を歩き回ること数分。

ようやく、敵の巡回ルートと地形を完全に一致させることができた。

大きな通路は三本。

長方形の教会の内長い方角を上に向けた場合に、横に横断するように走っている。

それらを繋ぐ少しだけ狭い通路が四本。

大部屋などは大通路に、トイレや物置といった小部屋は小さい通路にドアがあるようだ。

念のため、古来から使われてる器をあてがうことで中の様子を知る方法を用いてすべての部屋を確認したが、中に人がいる気配はなかった。

忍者である衛利もいないと言っている以上は事実だろう。

全ての通路数は七本。それに対し警備の巡回は六人であり、さらに微妙な距離感を持ったまま移動し続けている。

たとえ一人一つの通路を受け持ったとしても、確実に一本以上の死角はできる。


「まあ、その上に二人一組で行動しているものもいる。事実上はもっと少ないわけだな」


警備の質は、今の俺が正面から一対一なら普通に勝利できるという所か。

二人だときついだろう。

衛利はどうだろうか。

忍者は正面切っての戦闘は暗殺者よりも優れているという。

事実、今この状態でナイフを振りかぶっても、衛利は容易く俺を無力化できる程度の実力は持っていると感じられる。

しかし――いかに目的が一致しているとはいえ、あくまで協力者である衛利を、真表から危険にさらすことはできないだろう。

戦いに身を投じているとはいえ、俺とは違い本当に女なのだから。


「不意を打てば二人。行けるか?」

「余裕ですよ?……忍者、ですから」

「そうか。ならば任せる」


二人が二組。一人が二組。合計六人。

北にあるステンドグラス側を上にしてこの教会を見た際に、尤も下、南に来る大通路、その右端。

確かめた順路の通りならば、もう少しで一人がそこに差し掛かるだろう。

時間は……ふむ。

中途半端な時間だ。この時間にわざわざ交代するようなことはしないだろう。

ならば、このまま同じ順路を辿るはずだ。


「よし、攻めるぞ」

「はーい。暗殺者の動き、参考にしますよ」


瞳を無駄に煌かせている衛利は放って置き、巡回する警備達も大して気に止めない小通路から、派手目の花瓶を拝借してきた。


「何に使うんですか?」

「暗殺の基本は目線を意識することだそうだ。相手の目線、自分の目線、他人の目線。いかに優れたナイフ捌きも、見られていたのでは暗殺として為しえない」


無貌であるミリィや自身の気配、印象を消せるハーサならともかく、そこまでの領域に到達していない俺は当たり前にとりうる手段をもって暗殺とする以外に方法はない。

その”方法”がこの花瓶ということだ。

標的は今中の通路を歩いているところだろう。

小通路から見られないように気配を殺しつつ、標的が来る前に通路右端に設置してある花瓶と入れ替えた。


「あの、目立ってませんか……?その花瓶。無駄に注目を集めるような」

「―――集めるからだ。自分の家のものが若干違っている感覚を、お前は覚えることがないと言い切れるか?」


未視感(ジャメウ)と呼ばれる、既視感(デジャヴ)とは反対の言葉。

これを人間が最も感じやすいのは、緊張感の切れやすい自宅などが多いそうだ。

警備している連中は、あくまでも館の警備兵であり、戦地を警備する兵士とは心持が違う。

その心理には一種慢心とも呼べる安心感が巣くっているのだ。

暗殺者(俺たち)は、そこを狙う。


「少し離れろ。息を殺して、じっと待機だ」

「了解です」


次善の策として、もし俺が失敗しても、衛利が対処できるように。

尤も。失敗する気など毛頭ないが。


「……あ~ぁ、だりぃ……。オレらの本拠地襲うやつらなんていないっつうの……。そもそも、外からみりゃあただの教会だぜ……?」


ああ、なるほど。

スラムの教会ということ自体が隠れ蓑になっているため、組織の隠れ家ということが発覚しづらいのか。

衛利の祖母とやらも、わざわざ忍者を差し向けているのだから。

”暗殺教団”が情報を手に入れているかどうかは知らないが……間違いなくハーサはここを知っている。

そして、そのうえで放置しているのだろう。

何のためかは知らない。

だが、悪趣味なことだ。

さて、それはそれとして――さっさと仕留めるとしよう。

標的の視線が、普段とは違う、異色を放つ花瓶へと引き寄せられる。

――視線誘導(ミス・ディレクション)

バスケの漫画などでも有名になったこの技法は、マジック等においても頻繁に使用されている。

意識を持っていくというだけのこの技術は――俺たち暗殺者の基礎において真理ともいえるものだ。


「…………あれ……」


標的の男の遺言はそれだった。

足音一つ立てず、気配を感じさせず、敵意を見せず。

冷酷に、冷静に、冷徹に。

取り出したのは、針一つだけ。

まず先手。

人工的に作られた意識の埒外から、絶対的な一手を打つ。

――喉。

声を出すための声帯があり、頸動脈の通っているこの箇所は代表的な急所である。

しかし、喉を切り裂くだけが暗殺ではない。血を出したくない場合は、映画のようなアクロバティックな動きが必要になることもある。

……左手に持った針を、気道に正確に差し込む。

気道が人間のどこにあるかは、かつて針を仕込んだ際に深く学習済みだ。

気道に穴をあけられれば、空気は声帯を通らず――声を喪う。

そして、終手。

声を喪い、悲鳴をあげられなくなった男の方へと飛び乗り、そっと右腕で顎を掴み標的に左耳に左腕。そして、左斜め上に捻り上げる。

”縊り殺す”と称される、絞め技。

―――血の一滴のみが、この殺人のただ一つの証となった。


「走るぞ。約五秒後に、最も遠い通路を二人組が曲がってくる」

「分かりました――あは、任せてください」


意思の疎通ができていて結構だ。

……ふむ。落ち着きがないという周囲、そして自己判断のわりに、焦りはないな。

しっかり足音は消しているし、通路越しにほかの巡回に見つからないように気を配っている。

やはり、衛利の落ち着きの無さ、というものは利に転じられるだろう。

しかし、今は関係のないこと。

衛利の……忍者の動きを見届けるとしよう。




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