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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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殺人試験(前)

「ああハシン、もう演技はいいぞ」

「分かった」


リナの前でわざわざ仮面をかぶるような真似をする気はない。

ハーサの提案を素直に聞き入れる。


「ううー数日ぶり……会えないかもって思ったよー……」

「そんな大げさな」

「でもでも、暗殺者の修行してるんでしょ?だったら危険なこともあるはずだし!」

「おいおい店長、外で暗殺者とか軽々しく行っちゃいけないさね」


といいつつもそこまでハーサが咎めないのは、周りにほとんど(・・・・)人の気配が存在しないからである。

……後部数メートル。壁に隠れていることからおそらくはこちらを狙っているのだろう。

その前に、ハーサに確認をしておかないといけないことがある。


「ハーサ。あれは、お前が招いた客か?」

「まさか、私が招くわけないだろう?おびき寄せただけさね」

「……質が悪い」


気付けば、ハーサの顔は普通に認識できるようになっていた。

つまり、いつからか正体を明かしていたということだ。

俺も気づかないまま。


「顔をさらしていいのか」

「どうせすぐに死ぬさね。このセカイにおいて私の顔を知っているものは極少数だ」

「そうか。では武器をよこせ。どうせそのつもりだろう?」

「……気付いていたのか」


このハーサがただで俺を山から出すはずがない。

未だ未熟な腕しか持たない俺を、顔が知られる危険がある街中に出すのにはそれ相応の理由が必要だ。

ミリィの食料が切れた、などその理由付けの一つでしかないのだろう。

ここまで来て、俺が守る対象であるリナを見せて、さらにそこに俺たちを付け狙う刺客の存在を気づかせた。

ならば、ここにおいて俺が試されていることはただ一つだろう。

すなわち、敵を殺せ―――唯此れだけだ。


「リナ。すこしこのババアと一緒にいてくれ」

「……おいさすがにそれは私でも傷つくぞ」

「大体の事からは守ってくれるはずだ」

「ハシンちゃんは?」

「……仕事だ」


リナの頭を軽くポンポン、と擬音が出るように叩くと、背を向けた。


「殺し装束じゃない、刃を返されるなよ。それからこれを付けろ」


ハーサから渡されたものは二つ。

一つは鋼鉄製のナイフ。

おそらくは安物だろうが、もともと使い捨ての道具である以上、特別な意味合いを持たせない限り質の良いものを使う理由はない。

鞘ごと受け取り、そっと街にはいるときに着せられた、奴隷用の至る所が露出した外套の下にしまい込む。

もう一つは骨製の仮面だった。


「”暗殺教団”の暗殺者はみな独自の仮面を付けるものさね。それが暗殺者の”顔”になるからな」


暗殺である以上、誰がやったのかは不明になる。

しかし、こういった特殊な面があれば、名前や顔を覚えられる代わりとして使えるということだ。

暗殺者の唯一の名上げであると同時に、顔を隠すための大事な手段なのだろう。

俺も顔を覚えられ、復讐されるのは御免だ。

素直に受け取った硬質な仮面のデザインは、ややニヒルな表情を浮かべる髑髏面。

骨だけでできている様に見えるが、その内側には植物などで加工がしてあり、締め紐などがなくても顔に収まるようにできていた。

顔につけると、思いのほか視界は良好。

おおよそ、口当たりまでをカバーしている仮面は、俺の素顔をさらすこともないだろう。


「……ありがたく受け取っておく」

「じゃあ、私からの依頼さね。私たちを盗み見した愚か者を殺せ……報酬はお前の命さね♪」


生きたければ殺せ――――そう言いたいのだろう。


(うけたまわ)った。その依頼(ころし)、叶えよう」


当然殺す。

当たり前のように殺す。

なぜなら俺は未熟だから。弱いから。

俺が助けようと考えるのは手の届く範囲ともう少しだけ。

それ以外は、俺のために、俺の我儘(エゴ)として殺す。

それに対して躊躇いを覚えないというのはやはり――――俺も人間としてどこか異常なのかもしれない。


「では、行ってくる」


ハーサに言わせれば踊るように、舞うように。

そんな足取りで俺は刺客を追っていった。




***




「さて、行ったさね」

「あ、あの……ハシンちゃんは……」

「知っての通りあいつは暗殺者……の卵さね。当然、人殺しだ」

「――――――!!」

「リナ、お前に問う。あいつは間違いなく人殺しの人種だ……その事実を前にして、お前はどう思う?」

「どう思う……私の気持ち…………」


パン屋を営みたいという夢を持つ、人並み極まりない少女。

ただの人との縁は、本来ならば暗殺者には不要なものだ。

――――――だが。


「ううん、暗殺者さん。私にとってハシンちゃんは大切な友達だよ。ちょっと暗殺者っていう大変な仕事してるだけの」

「……変な色眼鏡はないと?」

「はい!」


……思わず肩をすくめる。

あいつの因果も絡まっているものだ、よもやこのような友に出会うとはな。

正常に、そして清浄にイかれている。

人殺しの側面を、善しとするその性根は、普通ではないが―――異常でもない。

あいつにとってはいい友になるだろう。

性根的にも、弱み(守るもの)があった方があいつは力を出すだろう。

そっと、出したナイフを仕舞った。

―――――殺す意味はなくなった。


「あのあの……でもその……特訓は、その、怪我させないようにお願いします…………その、あんな口調ですけど女の子ですし」

「……く、くくくくく……そうだな、女子だものな!くはははははは!」

「……??」


本質は、心は男だといったらどんな反応を示すのか。

面白そうだが、今はやめておこう。

さて、ここからは試験だ。

あいつがどれだけ(・・・・)殺せるかという試験。

殺しに才があっても良識に囚われ殺せないものも多いという。

特に、中途半端に若いものはそう言う傾向が多いそうだ。

私は今まで弟子をとったことはないため、詳しい話は知る機会がなかったが。

我が弟子はどれほどの才か――――見極めるとしようか。





***




仮面を付けたあたりから、刺客は警戒をする気配を見せていた。――しかしまだ動かず。

さらに俺が半分ほど距離を詰めると、ようやく刺客は逃げ始めた。

……俺以上の素人か?

思わず疑う。

半分も距離を詰められてからやっと逃走に入るなんて、あまりにも遅すぎるだろう、と。

しかし、気は緩めずに追いかける。

当然相手が相当な実力者という可能性もあるのだから。

無駄な力なく走り、刺客を追走する。

いつの間にかスラム街まで来ているようだ。

街の中でも雑多なスラム街にも、さすがにこの時間には出歩いているものもいない。

乱立する建物の隙間を何とか走りつつ、こちらを幾度となく振り返りながら逃走する刺客。

俺を確認し、その顔を正面に戻した瞬間に行動を起こした。

足取りは軽く――――音もたてずに跳躍。

壁を一度蹴り、比較的低い作りの石造りの建物の屋根へ。

再度振り返った刺客は俺の姿がどこにもないことに驚き、思わず立ち止まった。


「…………」


一度、試してみるか。

いかんせん、動きが素人臭い。

俺以下だ。

石を放り投げる。

当然、普通ならこんなことはしない。

石が突然動くことなどほとんどない、にもかかわらず上から唐突に落ちてくるというのは間違いなく異常だ。

異常が発生すれば、間違いなく普通(・・)の人はそちらに意識が向く。

石が落下する前に、刺客の男を挟んで石の反対側へ静かに降りる。

コツン……意外と音を立てた石に視線が吸い寄せられた男は、そのまま上をぽかんと見上げた。


「………………あまりにも、素人。おまえ、何者だ」


後ろから足払いをかけ、転倒させる。

そして、ナイフを首元に当てながら質問した。


「い、いつのまに……?!」

「答えろ」


少しだけ、ナイフを強く押し込んだ。

首に食い込み、少量の血が零れる。


「くそ……”暗殺教団”はこれほどの暗殺者を持っているのか……!王に報告せねば……」

「………………………は?」


俺を見て、これほど……?

それはあまりにも愉快な冗談だ。

情報をあっさり漏らすということにも、な。

なるほど、暗殺教団以外にも暗殺者の集団は存在しているということか。

いわば、暗殺教団というのは業界最大手の勢力で、全ての暗殺者を味方にしているわけじゃないと。


「く、どけい……!」

「……む」


男が口を覆いつつ投げたものは、液体が入った小瓶。

それが割れた瞬間、霧になって一気に周囲に拡散した。

……毒。

この状況で投げつけるということは、おそらくは麻痺毒か……?

軽く男と距離を取り、同じように口を抑えつつナイフを構える。


「……?!う、動けるのか……くそッ!」


脱兎のごとく逃げ出す男。

麻痺毒という先手を打つには絶好の機会を逃してまで逃げるのか。

――――少し、泳がせてみるか。

気配を殺して、男を静かに追いかける。




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