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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第二章 A steel and a will for a merder
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仕掛騒乱



「………」


城郭都市の名の通り、外壁に覆われた街を出る。

分厚い樹をいくつも使用し、杭を打ち付けて一枚の巨大な板にした城門から出れば、俺と同じように街側から召集を受けたのであろう傭兵たちが集まっていた。戦争が起これば行商人が物を売りに来るように、傭兵たちは己の武力を売りにやってくる。今まで散々手持無沙汰だった彼らは、ようやく稼ぎ時が来たわけだ。

さて。その中央にいるのは、磨かれた鎧を身に纏う、一人の男だ。身長は成人男性としてはやや大柄、ある程度は鍛えられているのか覗く上半身は筋肉が見え隠れしている。


「諸君、よく集まってくれた。私は君たちと同行する騎士のイラグだ。相手が交渉を目的としていた場合、その応対は私がする。だが、相手の目的が仮に戦闘だった場合………私は、それを報告するために離脱することを予め言っておく」

「はん?騎士が逃げんのかよ」

「私の役目は偵察だ。間違った情報を街に伝えるわけにはいかないし、情報を渡す前に死ぬことも許されない。捕虜になるのも当然有り得ん。そして、君たちもあくまでも私の護衛という立場でついてきてもらう。戦争が目的ではないという事を理解した上で行動してもらいたい。なにせ、既に金は払っているのだからな」

「へいへい。了解しましたよッっと………とはいえだ、騎士様よ。最低限の武装はしてもいいんだな?」

「相手を威圧しない程度なら。おっと、だが鞘には仕舞っておいてくれよ。抜き身で行動することは許さない」

「分ぁってるわ」


―――などと、傭兵と騎士がそれぞれ役割等をすり合わせること数分。

傭兵も騎士も戦場に身を置く人間だ、時間がどれだけ有用なものか、貴重なものか理解していないものはいない。無駄口を叩きつつも、かといって余計な論争や指示の繰り返しなどはなく、それぞれが準備を終えるとイラグと名乗った騎士を先頭にして、仮称交渉団に向かって歩きだした。

俺もまた、その一団に加わりその最後尾を歩く。


「随分と小さな傭兵がいたもんだな、ヘヘヘ………」

「………」


歩く俺の横に、体に幾つもの傷をつけ、それを誇るかのように見せつけた衣装を着る傭兵が並ぶ。静かにロリコンが、という目線を向けると、無視して歩く先を見つめた。

俺の身体つきが大人の女性という物からかけ離れていることは自覚している。胸はあまりなく、流石に幼女と呼ぶほどではないがそれでも少女から逸脱することはあり得ないという風貌だ。そんな俺に対し下世話な視線を向けているという時点で、その頭を心配してしまうのは当然の事だろう。


「無視すんなよ、オイ―――ッ!!?」


尻を叩こうとしてきた男の手を交わし、後方に回り込むと逆に男の尻を蹴り上げる。まあ、俺は素足だ。そこまで痛いものもあるまいが、不思議な事に男は顔を真っ赤にして俺を睨みつけていた。

ふむ、やはり傭兵というのはあれだな。基本的に品が悪いものしかいない。一流の傭兵集団ともなれば品格も宿ろうが、個人で武力を誇るだけの存在ではその精神性はたかが知れているという事だろう。

そういえば、かつての日本の足軽も初期はすぐに暴徒化することも多かったという話を聞いたことがある。きちんとした兵士としての足軽が登場するのは戦国時代に入ってからだ。


「テメェ………」

「お前ら、何やってんだ。集団から遅れているぞ?」

「こいつが!!」

「………」


指を差し、喚くことを続けようとする男を放っておき、足を速めて騎士の集団に追いつく。

………成程。あれほどの馬鹿がいれば、種を芽吹かせるのも、炎をより高く燃え上がらせるのも容易だろう。どんな時も現場を混沌に陥らせるのは自分の役割を理解していない馬鹿がいる時だ。余計なことをするからこそ指示系統が混乱し、命令が混ざり、判別を失う。戦場であれば尚更、それによって発生する混乱は大きなものとなる。

故にこそ、無能な働き者は銃殺すべきといわれるのだからな。


「全体、止まれ!!」


騎士イラグの号令によって一団が停止する。集団のうち、騎士の近くにいる傭兵は割と頭が回る存在なのだろう。眼を動かし、情報を貪欲に求めていることから、部下に指示を出す側であることが理解できる。

その頭の回る方の傭兵たちが視線を向けるのは、俺たちの一段の向かい側。川を越えてきたのであろう、装備を水浸しにした戦争相手の使節団だった。


「………目的を聞こうか。我らは戦うことを目的としていない。ただ、諸君らが街に接近してきたことに対する理由を問いたい」

「―――ふむ。理由、か」


騎士イラグが先頭に立ち、使節団と交渉を会話を始める。

使節団の方でそのイラグと言葉を交わすのは、薄くなった髪の上に鉄帽を被った、マスケット銃を持つ壮年の男だった。身体つきはしっかりとしているが、鍛えたものではなく農業をしているうちに勝手に鍛え上げられてしまった形に近いか。つまりは、生粋の兵士ではない。

とはいえ、後方の使節団の構成員は全員その男に付き従っていることから、一定以上の練度の武力を保持しているのは間違いない。

火縄銃の一種である、初期のマスケット銃を武装としているためだろう、腰には短剣が携えられている。その男の後方を見れば、使節団の構成員全員がそのマスケット銃を持っているのが見て取れた。彼らも同じように、腰にはさまざまに刀剣類を持っており、仮に銃を外したとしても、接近戦もできると誇示している。


「俺も戦いが目的ではない。ただ、和平交渉をしに来ただけだ」

「………和平交渉?そちらが戦争を始めておいて?」

「圧政を敷いていたのはお前たちの方だと記憶しているが?飢饉が続いたのだ、税は下げるべきだった」

「だとしても、だ。まず交渉からではなく、あの街を奪い取ることから始めた貴様らには何かを言う権利はない!!」

「………平行線か?」

「このままではな。あの街を開放し、統率者の首を差し出せ」

「それは横暴だろうさ。それに、俺たちの運動は革命だ、ただの暴動ではない。―――統率者も、一人ではない。一人の人間が王となり民を導くのでは、貴族主義と何も変わらんからな」


徐々に険悪な雰囲気へと変じる二人の様子を眺める。

圧政をしたと思っておらず、ただ不当に平民に街を奪われ、戦争に発展したと認識している貴族側の人間と、我らこそが被害者であるという立場を崩さない平民側。当人たちが言った通り、この会話は平行線だ。

それにしても、成程。革命とは面白い。この世界は王制であり王政である国家が多い。その中で革命運動が発生することは、確かに歴史を紐解けば当たり前のことといえる。

………ふむ。だが多少、歴史から見ても展開が早いか。

本来ならば王制は絶対王政へと変わり、やがてフランス革命を始めとした共和主義の台頭へとつながっていく。ヨーロッパ社会からその運動は始まり、徐々に独裁国家や王政、帝政の国が消えていくのが俺の世界の歴史だった。

一方、俺の暮らすこの地域はどちらかといえば中東世界に近い。そこで革命が発生するというのは、普通では有り得ない―――”暗殺教団”が手を出した弊害か。やや歴史の流れが歪になっている。とはいえ、勝手に修正されるだろう。なにせ、この戦争からは革命などという言葉や価値観はすぐさま消えるのだから。


「………」


空を見る。そろそろ頃合いだろう。


「やれやれ、本題に戻ろう。どうであれ、其方も此方も戦争の継続は望んでいないはずだ。故に、停戦と行こう。和解はせず、だが明確に戦争は行わない。これでどうだ―――む、なんだ?」


使節団の男が異変を感じ、俺と同じように空を見上げる。

その瞬間、俺は動き出すと………騎士イラグを全力で蹴り飛ばした。


「ぐッ!?!お前、一体何を―――ッ!??!」

「………っ!!!」


………さて。仕掛けた側といえど、気を抜けば死ぬな。少しばかり全力で逃げ(・・)に徹するとしようか。

そう思いながら、上空から傭兵たちも使節団も一切関係なく双方等しく踏みつぶすために降り注ぐ大岩を、騎士を引きずりつつ回避する。


「カタパルト!??!………貴様、何が和解か!!!」

「待て、違う、これは―――ッ!!」

「………」


おっと。それ以上喋られては、困るというほどではないが邪魔だ。余計な頭や思考回路は最初から回させないに限る。勢いよく飛び出すと、投石器(カタパルト)から射出される大岩が地面にぶつかることによって発生する土煙に紛れつつ使節団の男の懐に飛び込み、サーベルを首めがけて振りかぶる。俺の褐色の肌は、本当に土によく馴染む。男は一瞬目を見開いて、そして首が飛んだ。


「頭目がやられた!!?」

「和解なんてただの嘘だ、引け!!投石器に潰されるぞ!!」

「足が、足が捥げた!!!糞、糞糞!!!」

「撃て!撃て撃て撃て!!!!鉄玉全部食らわせてやれ、頭目の仇だ!!!」


混乱の中、落とした首を拾うと投石の落下地点に投げ込む。後々首を拾われて犯人探しなどをされて困るためだ。首がなくなれば探しようもない。鈍い音を立てて肉塊に変わったのを確認すると、騎士イラグの護衛に戻る。

そして、無言のままイラグのほうを向き、首を傾げた。即ち、次はどうするのかと、指示を仰ぐかのように。


「―――紛争?は、大規模な戦争の幕開けだな。そこの少女傭兵、私をこのまま護衛してくれ。街に戻って、奴らは本格的な戦闘行為を仕掛けたという事実を報告しなければならない」

「………」


それに頷く。そして、静かに曲刀を構えた。

さて。流石は暗殺教団の内通者というべきか、いい仕事をしてくれた。共和主義、即ち民主制を採用する多数こそが正義というシステム。そういったものは存外、俺たちからしてみれば操作しやすい類のものでしかないのである。特に初期の民主主義など、情報統制や民意の洗脳等で簡単にその方向性を歪ませることが出来るのだから。

―――先ほど俺が仕留めた使節団の男は、敵対している武装市民の中では穏健派だった。開戦を主張する強硬派からすれば邪魔なほどに、実際に戦う市民のことを考えて奴はいがみ合いつつも本格的な争いだけは起こさないようにしていた。これは暗殺教団の介入など関係ない、男自身の意思だ。尤も、暗殺教団もその意思を利用はしたようだが。

故に、煽ったのだ。穏健派をそのままに、強硬派の方を。ただ細やかに、和解を装って穏健派ごと敵の兵士を殺し、開戦をしようじゃないか、と。

当然ながら向かいの街には俺は行くことが出来ない。逆に向かいの街に潜む仕掛け、根たちは俺の街の人間のことまで操作はできない。

だから互いの行動を嚙合わせるため、複数の指示を飛ばしたのだ。まず強硬派に頑固極まりない意志を暴走させ、独断専行に至らせつつ、さらに穏健派は和解が最も安全で確実な方法だと信じ込ませ、敵側には戦争をしたくないという考えがあるという情報を流した。出所の分からない言葉はそうして、武装市民の集団を暴徒へと変えて、自身の使節団ごと敵兵士を平気で潰すという人道も糞もない手段を取るに至った。

それと同時、俺はこちらの街から傭兵をかき集め、使節団に応対する一団をひねり出した。要は都合よく殺されるための集団を用意したのだ。

最後は俺が護衛するこのイラグという騎士が、俺たちがいる街に本格的に戦を仕掛けてきたという情報を伝えればこの戦は巨大な大火へと転がっていく。

そのついでに、しっかりと未だ頭の回っている人間が運良く死ぬように戦場を弄り回してやればいい。ここまでと比べれば、なんとも簡単なことだろう。


「………」


戦犯という言葉を当てはめるならば。今の俺にこれほど似合うものはないだろうな。まあ、どうでもいいことか。戦が暗殺に必要となればそれすら用意するのが暗殺者というものだ。戦もまた、ただの道具でしかないのだから。

では、残った仕事を片付けるとしよう。








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[一言] 開戦の狼煙が。
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