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オリ短編集  作者: 一夜
5/8

彼の誕生日

執筆遅れまして今日になりました。

 エリザの屋敷に用意された自分の部屋で、布と油で何かの部品の手入れをしていた僕は深くため息を吐く。

 40以上もの部品を拭き終え、組み立てて机の上に並べる。そこには現在自衛隊で一般使用されている89式自動小銃を始め、様々な小銃、拳銃、RPGなどが整備され一列に並んでいた。

 念入りに手入れが行き渡り艶やかに光沢を放つ火器、しかしそれらは皆_____人の命を奪ったことにより血に汚れている物だ。


 「いつまでこんなことが続くのかな……?」


 ぼんやりと呟きながら、それでいて否定するかのように首を左右に振るう。

 そんなことは分かりきっている。きっとこれは死ぬまでずっと続く。

 平和な時代になればそれらを手放す事も出来るのだろうが、世界にそんな時代は愚か、何処にもそんな場所などありはしない。

 これまで通り小を切り捨て大を生かす___そんなことを淡々と機械のように行使していくしかない。

 そこは問題ではない。

 その生き方こそが僕であり、そのあり方こそが僕であることを証明するから。

 問題は……いつまで皆に対して仮面を被り続けていられるかだろう。

 深紅なら掴み所のないマイペースさで、そういった話題は回避し続けられるけど、僕はそこまで強くない。


 隠し通すにはいつか限界が来る 。そうなってしまったらこの街から姿を消すしか無い。

 それが皆を巻き込まず、そして僕も苦しまずに済む最適な方法なんだから。


 「……やめよう」


 今はそんなことを考える時じゃない。小銃と、弾が込められた弾倉を二セット___アタッシュケースに詰め込み部屋を出る。


 「あらおはよう♪澪次君」

 「おはようございますエリザさん」


 台所にはエリザさんが座っていて、厨房で働いていた使用人の方達が料理を運んでいるところだった。

 時刻を見ればもう18時前。

 居間に並ぶ長いテーブルの上には、様々な食事がずらりと並んでいる。

 そう。今日はクリスマスを迎える祝い会がここで行われる。

 深紅の気配が感じられないことから、多分先に買い出しに行ってるんだろう。


 「……少し、出かけます」


 そうエリザさんに言い残して、屋敷の玄関を出た。






 辺り一面雪世界だった。

 地上240mの摩天楼の鉄骨の上から外の世界を見ながら思う。

 道路に渋滞を成している車両の明かりはここからでは小さな点にしか見えず、それが列を作っている様はイルミネーションのようだった。

 そして、この高さから見える街並みはとても小さく感じる。

 ここだけ見れば、たくさんの人を助けることなんて簡単に思えてしまう。けど、ここから見える世界なんてたかが知れている。

 世界の何千分の1にも満たないのだから。

 別に全ての人間を助けたいわけではない。こうして景色を眺めている間にも、地球上では数百人の命が失われているだろうから他人事のような物だ。

 だけど、皆が笑顔でいられる世界をケティは切望していたし、それは僕の願いでもあった。

 だから、世界に手が行き渡らなくても可能な限り努力はしてきたつもりだ。

 けど___



 「まぁた辛気臭い顔しとる」



 不意に何か冷たくて、それでいて心地良い感触が視界を覆う。この主が誰かなんて問わなくとも分かる。

 深紅が両手で僕の目を覆ってるのだろう。


 「買い出しに行ってたんじゃなかったの?」

 「せやったんやけどな。さっきおかんから電話がきたんや。澪次の様子がちょっとおかしいから探してくれってな」


 親子揃ってどれだけ過保護なのだろうか。

 片や息子の様子がちょっと変だからってだけで愛娘に捜索をお願いする。

 片やパートナーの様子が変だと聞きつけ、地上240mのこんなところまで探しつける。

 それ以前にエリザさんにはあの時点で筒抜けだったわけか。


 「……ていうかよくここが分かったね」

 「そら分かるわ」


 何を当たり前の事言ってるんや___とでも言うように呆れた様子を深紅は見せる。

 ……ム。何かその反応は気に食わない。


 「もう五年以上バディとして行動してるんや。澪次は不安を抱えてる時には大抵こういった高所にいる時が多いことも知っとる。……ここなら人目に阻まれずに景色を全望できるしな」

 「……そんなに僕って酷い顔してる?」

 「おん♪まるで某運命のよれよれ黒コートのおとんみたいな表情や」

 「分かりやすくかつメタい解説ありがとう」


 それだと目まで死んでることになるんだけど、それだけ酷かったって事だろう。

 だけど、なんでか先ほどまでの不安は大分消え去った気がする。

 些細な問題だったんだ。

 確かに一人では隠し事するなど心身が持たなかっただろう。けどそのために深紅がいる。エリザさんがいる。かの姫がいる。そして狼の血筋を受け継ぐ彼もいる。


 「帰ろうか」

 「せやな。ほなエスコートしてや♪」

 「……は、話が見えない」

 「どうせここから飛び降りるんやろ?行きは簡単やけど帰りはまた鉄骨を足場にせんと、さすがのわっちも無理やわ。やったら澪次にエスコートしてもらった方が楽っちゅうもんや☆」


 分かるような分からないような気もするけど、要するにちまちま戻るのがめんどくさいって事なのだろう。

 一度ため息を吐いて深紅を姫抱きにすると、そのままそこから地上に向かって飛び降りた。



「Es ist gros,

≪軽量≫

…………!!」



 地上約15mの所で重力を軽減して着地する。

 これは魔術を習う中でも、初めの方に学ぶ初歩中の初歩なんだけど、深紅は多分魔術を学ぶ気がなさそうなので僕しか出来ない。

 行動第一の彼女からしたら、学問から始まる魔術は若干めんどくさい所があるのだろう。


 「いい着地や!じゃ、わっちは買い出しも終わったしおかんのところに戻るさかい後はよろしゅうな」

 「うん。気をつけて」


 軽やかな足取りで帰路を歩いて行く深紅を見送ると、本題の方向に向かって歩みを進める。

 先ほど深紅にも頼まれていたけど、今日のパーティには主役がいないと話にならない。

 その主役はというと、飛び降りる前に上から視認していたのだ。


 「辛気臭い顔しないの」


 そういって目の前の人物の視界を両手で覆う。

 さっきの再現だなと苦笑しつつも、多分これが一番いいんだと思う。周りから幾人かの興奮した視線が気になるけど。


 「……澪次?」

 「そうだけど、僕って何人もいる?」

 「いやいないけどよ。だけどなんでこんな時間に校内に?」

 「たまたまだよ。そこに捨てられた仔犬のような君を見たから放っておけなかっただけ」

 「誰が仔犬だ!?」

 「例えだよ例え。帰っても寂しいだけだからここにいたんでしょ」

 「……あぁ」


 そうだろう。

 クリスマスといっても、秀久は一人暮らしで帰っても出迎えてくれる家族がいない。

 なら一人でいるよりは学園の皆で過ごした方がよほど楽しい。

 だけど、いつまでも学園で過ごしてるわけじゃなく皆時間になったら帰ってしまう。

 それはそうだろう。やはりクリスマスは家族と迎えたいんだ。


 「僕ならいつでも誘ってくれて良かったんだよ?」

 「お前には深紅がいるだろ。なら邪魔するわけには___」

 「深紅とは毎日一緒にいるから気にしなくていいよ。……なんかさ、迎えてくれる家族がいない寂しさは分かるんだ。そんな気持ちは秀久に持ってほしくない」

 「……澪次」


 秀久には母親はいるけど、海外にいるため今は一人。僕もエリザさんに出会うまではずっと家族がいなかった。

 その気持ちはよく分かる。

 誰も切り捨てずに全てを助けたいと自らの正義を貫く秀久に、誰かを切り捨てないと多くを救えないと割り切り、自らのあり方を貫く僕。

 そんな真反対の僕らだけど、惹きつけ合うのはそんな、寂しさの境遇が似ているからだろう。

 僕と秋獅子君の波長が合うのもあり方故だろうけど、何故か秀久は気に食わないらしい。


「ねえ秀『ドン!』……あ。」



 ーーーガシャンッッ!!



 彼に続けて言葉をかけようとした時、下校途中の女子生徒と肩がぶつかり、手に持っていたアタッシュケースを落とし、開いてしまう。


 ーー89式自動小銃、M4カービンーー


 「……」

 「……」


 訪れる無言の沈黙。

 澪次は変わらぬペースでそれらをアタッシュケースに仕舞い直すと、


 「ねえ秀久は僕たちと『さっきの続きに戻るんかい!?何なんだ今の武器は!』」

 「あ、これ?大した物じゃないよ。ちょっと興味持ったから光一君にモデルガン借りたんだ」


 本物だけど、ここは光一君を利用するようで悪いけどそう言う事にしとこう。

 学園の玄関の方からもやっとあの子もきたみたいだし。


 「じゃ、またね秀久」

 「あ、おい!……何だったんだ?___ったく。俺も帰るとするか」


 ちらっと振り返ると、レイナにマフラーを引っ張られている所が目に入って思わず苦笑した。

 元々秀久の変える時間帯に合わせてレイナを待機させ、僕たちのいる所に連れてこさせる算段だったけど、ここで彼女のうっかりが出たのだろう。多分腕時計が一時間遅かったとかそういうのだ。








 「ただいま」

 「あ、おかえりなさいレイ君」


 玄関をくぐって出迎えてくれたのはつぐみちゃん達だった。

 みれば他の皆も出迎えてくれていて、パーティの準備も終えているみたいだった。


 「どうだった。レイナちゃん、ちゃんとヒーくんを連れてこれそう?」

「何とかなったよみなもちゃん。あのままだと家に帰った秀久が一人クリスマス、レイナが外で秀久を待って一人クリスマスって結末だったから」

「あ、はは……」

「………(ブレないね、レイナちゃんも)」


 ここ一番でうっかりをやらかす相変わらずの妹に苦笑するみなもちゃんに芹香さん。

 

 「あらあら。心配してたのよ。おかえりなさい澪次君」


 続いて玄関にやってきたエリザさんが、微笑みながら僕を抱きししめる。後ろでは深紅がいて、彼女もどこか安心したようにエリザさんと僕を見て微笑んでいた。

 先ほどまで過保護だと思っていた事なんてすっかり消え去り、今では温かな安心感に包まれている。

 ……やっぱり、家族というものは心地良い。


 「……うん。ただいま___義母(かあ)さん」


 初めて耳にする息子からの言葉に、エリザさんは余程嬉しかったのかさらに僕を力強く抱きしめてきた。

 うん、嬉しいけど苦しいですエリザさん。









 『ちょっとここで待ってて』

 『ここって深紅達の家じゃないか。どうしたんだ』


 扉の向こうでレイナと秀久の声が聞こえ、そしてレイナが中に入ってくる。

 するとレイナの胸元に収まっていたせりかさんが出てきて、


 ___あら不思議。



 一瞬の内にレイナをサンタコスチュームに早着替えさせた。

 なんかその一瞬に張りのいい胸やヒップラインが見えたような気がしなくもないけど、秀久がいなかったのは幸運と言うべきか。

 ……圭太が鼻血を出して倒れたけど。

 しばらくして扉を開けたレイナが秀久を迎え入れる。

 何事かと居間に迎えられた秀久だが、



『『『ハッピーバーズデイメリークリスマス上狼秀久!!!』』』


 クラッカーの鳴り響く音と共にかけられた言葉に目を丸くした。


 「ハッピー……バーズデイ…?」

 「そうだよ。忘れたの?今日はクリスマスでもあり秀久の誕生日なんだから♪」


 レイナは秀久に微笑みながらプレゼントを手渡す。


 「……レイナ」



 「黙っていてゴメンねヒーくん。でも皆で驚かせようと考えていた事なの」

 「最近のヒデ君寂しそうだったから笑顔でいてほしくて」

 「みなも、つぐみ……」



 近づいて秀久の手を握るみなもちゃんにつぐみちゃん。


 「………(おめでとう秀君♪)」

 「よ、おめでとさん秀久」

 「すごいじゃないかキリストと誕生日が同じだぞお前」

 「芹姉ちゃんに龍星さんに光一」



 「だから言ったでしょ?僕たちに遠慮する必要なんかないって。いつでも誘ってよね」

 「そうや。わっちら全員家族みたいなもんやないか♪」

 「………澪次に深紅!」

 「ほら、皆君の合図を待ってるよ」

 「盛り上げるんやで主役はん!」


 校門の時が嘘のような笑顔を秀久は見せる。

 うん。やっぱり君は笑っている時の方がよく似合うよ。

 それにさ、僕は思うんだ。

 このような皆の絆は君が主体で成り立っているんだって。


『んじゃ、今日は夜まで騒ぐぜ!!』

『『おぉ~~!!!』』


 ここでまた、絆が強く結ばれた気がした。




 



 「それはそうと光一。澪次にあまりお前の趣味押し付けるなよ」

 「は?何を言ってるんだ?」

 「え?だってあいつの持ってケースから小銃らしき物が二丁出てきたし___」

 「それは興味深いな」

 「え?え?マジで関係ねえのお前。………ってことは澪次!____っていねえ!?」







 なんか深紅の悪い所が若干染まってきたんじゃないか___と冷や汗を浮かべる光一だった。

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