ハンター
俺は奴を追いかけていた。追いかけて3年になる。
俺は奴についてあまり知らない。時間法違反者だという事と、体内にセンサーを埋め込まれているという事、それ以外は性別も年齢も顔も知らない。
しかしそれで充分だ。センサーが奴の居場所を知らせてくれる。俺はそれを辿りながら奴を探し出し、殺せばいい。それが狩人としての俺の仕事だ。
奴はずいぶん長い間逃げ回っているらしい。俺以前にも何人かの狩人が、奴を消すために送り出されたが、ことごとく返り討ちにあったという事だ。
「とても手強い奴だ、心してかかれよ」
俺の上司は、餞の言葉の代わりにそう言った。
「言われるまでもない事です。必ず奴を仕留めて見せます」
俺はそう言って中央局の時間課を出て来たのだ。上司は少し哀しげな笑みを浮かべて、俺を見送ってくれた。それはまだ経験の少ない俺を、憐れんでいるようにも見えた。
奴の追手になぜ俺が選ばれたのかは知らない。コンピュータが選出したのだ、俺ならできると。――ただ俺が奴を仕留める可能性は、前任者より低いらしい。そして俺が返り討ちにあえば、奴への追跡は打ち切られる事が決まっている。理由は相手がかなりの老齢になるという事と、俺の後任者が奴を仕留める可能性は「0」になるからだという。つまり、俺が奴にとって最後の狩人になる訳だ。勿論奴はそんな事は知らない。一生狩人の影に怯えながら暮らすのだ。奴には心からの平穏と言うものは無い。
俺の持っているセンサーが、急に大きく反応した!
前任者から最後の報告があった21世紀の東京に着いてから、小さい反応は何度も示していたがこんな大きな反応は初めてだ。――奴が近くにいる! 俺は緊張した。
どんな不自然な反応も見逃さない様に周りの人々の顔を探るように見ていた俺の目は、ある男に釘付けになった。
似ている……俺によく似ている。俺がもう50年くらい生きて行けば、きっと同じ顔になるだろう。彼はこの時代特有の無表情な顔で、何も映していない目を前に向けて信号待ちの交差点で人ごみに埋もれて立っていた。俺は人の流れから外れた場所で、彼が通り過ぎて行くのを見ていた。
彼が丁度目の前を過ぎた瞬間、センサーがMaxで鳴りだした。それは彼が俺の獲物だという事を知らせていた。周りの人々の迷惑そうな視線を受けて、俺は慌ててセンサーのスイッチを切った。顔を上げると彼と目があった。
彼は哀しげな瞳で俺を見ていたが、俺の視線に気付くと大胆不敵にも嘲るようににやりと嗤った。俺を狩人とみてとって、挑発したのだ。俺は奴を睨んだ。
本来短編なのですが読むのに時間がかかりそうなので、初の連載と言う事にして短めに切ってみました。3回の予定です。




