勇者は勇者をやりません
ある日。
嫁が消えた。
「瀬尾、今日は夕飯どうすんの?」
一日の仕事が終わった後、デスク周りを片付けていたら同僚が鞄を持ってやってきた。それに視線を向けるでもなく、パソコンをしまった引き出しの鍵を閉めて立ち上がる。
「今日は家で食うからいいや」
同僚に片手を上げて踵を返すと、キーボックスに引き出しの鍵を閉まって部署を出た。
「あれ? 瀬尾帰ったの?」
瀬尾の後ろ姿を見送った同僚に、課長が声をかける。その不思議そうな声に、同僚は曖昧に言葉を濁した。
「今日は、その……」
「今日?」
その言葉に、課長がデスクに置いてあるカレンダーに視線を向けた。
「あぁ、そうか。今日で一年だったか……」
痛ましそうな表情を浮かべ、課長はすでに帰宅した主のデスクを見遣った。
「瀬尾の嫁さんがいなくなって、もうそんな経つのか」
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きっと同情の目で見られてるんだろうなと半ばやけになりながら、俺……こと、瀬尾孝文は家路を辿っていた。途中のコンビニで夕飯を調達し、嫁の好きだったプリンも買った。意味がない事だと思っても、それでもコンビニに寄れば嫁の好物を買ってしまう。
今、傍にいないのに。
一人で住むには少し大きめの2LDKのアパートは、今朝、家を出た時と同じ状態で俺を迎えた。
暗い中スイッチを探して電気をつける。ぱっと明るくなった部屋の中に、いないとは分かりつつもその姿を探してしまう。
もしかしたらって、少しだけ期待していた。もしかしたら、彼女の姿があるんじゃないかって。
「どこ行ったんだよ、沙奈……」
帰宅した俺を当たり前のように迎えてくれていた嫁がいなくなって、今日で一年。
夕飯の支度をしている最中だったのか、出来上がっているシチューが満たされている鍋と出しっぱなしのまな板。その上の切り途中のトマト。なぜか見当たらない包丁。
その状態のまま、嫁の沙奈の姿だけが消えていた。
もちろん警察にも届を出し、両親・親戚・友人にも連絡を取った。
けれど、沙奈の行方は誰も知らず。何の手掛かりも音沙汰もなく。
そうして、一年経ってしまった。
玄関の鍵を閉めて、あの日ここにいただろう沙奈を思い浮かべながらキッチンに立ち尽くす。
どうしていなくなったのか、まったくわからない。状況が状況だけに何かしらの犯罪も疑われたけれど、身代金の脅しが来るわけでもなく。玄関の鍵が閉まっていたことから、自発的に出て行ったのではないか、夫婦の間に何か問題があったのではないか。
だって、鞄は部屋の中にあったんだ。鍵だってその中に入っていた。だから自発的に出て行ったなんてことはありえない。
そう主張すればするほど、なぜか疑われ、神経をすり減らした。
警察に頼みながらも休日などは自分でも探してはいるが、沙奈の行方はようとしれない。
それでも俺は信じている。
何かあっても、沙奈は勝手に出ていく性格じゃない。文句があれば正面切って言うし、喧嘩をすれば持ち越すのが嫌だからとその日のうちに仲直りをする性格だった。
そんな沙奈が、夕飯を作っている途中に、しかも包丁を持ったまま家の鍵を閉めてどこかに行くなんて想像もつかない。
けれどそう訴えたとて、取り合ってくれるわけもなく。
失踪者として、沙奈はいなくなったままだ。
「沙奈、一体何があったんだよ……」
コンビニの袋を下げたまま、その場で立ち尽くす。
沙奈に会いたい。無事な姿を見たい。頼むから帰ってきてほしい、返してほしい。
そう、拳を握り締めた時。
「……え!? なんだこれっ」
足元から眩い光が溢れ出し、辺りを真っ白に満たす。思わず目を瞑った俺は、突如放り出されるような奇妙な感覚を覚えてがくりと膝をついた。
「いてぇっ」
両手に荷物を持っていたから庇うこともできずに膝を直接床にぶつけて、思わず唸る。
って、キッチンの床ってクッションフロアなのになんでこんなに痛いんだよっ。
体力落ちたかなぁと独り言ちながら膝をさすると、その視界に変なものが見えた。
「……大理石?」
そう、しゃがみ込んでいる床一面がまさかの大理石っぽい見てくれなのだ。いやいや、うちは部屋数あっても家賃はそこそこの、間違っても大理石なんてフェイクでも使われていない普通のアパートだから。
「……」
恐る恐る顔を上げれば、こちらを見ている大勢の人間。彫りの深い、平たい顔が標準装備の日本人じゃなくて、明らかにヨーロッパとかアメリカ系の面立ちの人々。
「よく、来てくださいました勇者様。わたくしはこの国の第一王女」
……勇者、さま?
おもわずぽかんと口を開けて、近寄ってきた女性を見上げた。
シンプルだけれど銀糸の刺繍が施されている品の良いドレスに、真っ青で大きな宝石を首から下げている。見るからに偉い人といういで立ち。
「貴方様のお越しを、心より願っておりました」
さわさわという衣擦れの音がしたと思ったら、四方から白いドレスを身に着けた女性たちが近づいてくる。
なんだろう、凄く、怖い。
「界渡りは体力も魔力も使うと言います。お休み頂ける場所までお連れ致しますので、どうぞお手を……」
「いや、え、ちょっと待って」
やっと止まっていた思考が、目まぐるしく動き出した。差し伸べられた手を掴まずに立ち上がると、離していた鞄とコンビニの袋を掴んだ。
「ここ一体どこだよ、俺、家にいたはず」
見たこともない大理石張りの部屋、よく見れば壁や柱も石造り。
床には細く黒い線で模様のような言語のようなものが描かれており、何かエネルギーが走っているのか時折り光を放っている。
そして、見知らぬ人達。
安心できる要素が一つもない。
「ご説明が先の方がよいのでしょう。ここは貴方様が住む地界とは異なる双神の女神マールと男神リールの治める世界。貴方様は男神リールの勇者としてこの世界に招かれました」
「は?」
男神リールの勇者?
「昨年女神マールの聖女様が招かれこの世界をお救いくださるかと皆が希望を持ったのですが、彼の聖女様は部屋に閉じこもりその使命をお果たし下さらないのです」
聖女様? しかも丁寧に言ってるけど、めちゃくちゃディスってないか?
「食事などはお食べになられますが、部屋から出て来てくださらない。この世界をお救いくださらないと神がご判断されたのでしょう。本日、貴方様がお越しくださったという事です」
お越しって、勝手に連れてこられたの間違いだろ?
さわさわと衣連れの音が鳴り続け、気がついたら白いドレスの女性たちに周りを囲まれていた。すげぇ、怖い。恐怖。
「それで、俺にどうしろと」
拒否権がなさそうなこの状況、とりあえず話を進めるために水を向けると青い宝石を身に着けたその女性は、微かに頬を染め両手を胸の前で組んだ。
「まずはこの世界に慣れて頂きたいのです。貴方様が生きていた世界と、この世界とではきっと大きな違いがございましょう。この世界を少しでも好きになって頂き、そしてこの世界をお救い頂きたいのです」
聖女様はそれさえも拒否し、北の尖塔にお籠りになられてしまいましたが。
そう言葉を続けると、ちらりと視線を走らせた。
何もない壁だけれど、きっとその方向に聖女がいる北の尖塔があるのだろう。
あまりにも突拍子もなさ過ぎて、逆に冷静になってきた。
俺は胸に抱え込んでいた鞄とコンビニの袋を手に下げると、とりあえず息を吐いた。
「よくわからないけど、まあ、飯食わしてもらってもいい? 夕飯まだだったんだよね」
「もちろんでございます、勇者様。さぁ、ご滞在頂くお部屋へご案内いたします」
そっと腕に触れてくるぬくもりを、反射的に避ける。視線を向ければ、伸ばした手をそのままに慈愛に満ちた微笑を浮かべる王女様の姿。
その周りにも、白いドレスの女性の集団がこちらをみながら佇んでいる。
「聖女様って、会うことできるの?」
思わず出た言葉に自分でもしまったと思った。王女様たちの表情が、なんか怖くなったから。けれど、向こうは向こうで打算があるのか少し考えてから、頷いた。
「そうですわね、勇者様がこちらの世界に慣れてからでもよろしければ」
「すぐには会えないんだ」
落ち込んだ声を出せば、王女様はにこりと笑ってうなづいた。
「こちらの世界にきたばかりの勇者様に、身体を休めていただきたいですから。よろしければ、北の尖塔のそばは通りましょう」
これ以上は無理かなと、言葉をとめた。
ありがとうとにこやかにお礼を言って、先導されるがままに歩き出す。
喚び出された場所は建物の最上階だったらしく、こう言う時って地下だとばかり思ってたと王女様に言いながら、扉の向こうにある階段をゆっくりと降りて行く。
眼下に広がるのは、豪奢な城と言える建物とそれを巡るように聳える城壁。所々に建つ尖塔。
城壁の向こうは、少しの平地と森が広がっていた。
「ここは、森の中のお城なのかい?」
階段を降りながら、王女様に話しかける。
「聖女様、勇者様をお迎えする為の城なのです。この世界の神から神託が降りると、わたくしたちはお出迎えの為にこちらに参ります」
「そうなんだ。随分高いところだから、階段の上り下り大変そうだなって思って」
王女様は楽しそうに口元に手を当てる。
「そうですわね。普段の生活がこちらでしたら、わたくしも毎日疲れてしまいますわ」
談笑しながら、階段を降りる。こちらに慣れさせるためか、俺の態度に安心したのか、王女様はこちらの問いに全て答えてくれた。
「あちらが、聖女様のおられるお部屋ですわ」
階段を降りて数階、今立っているのは2階の部分。真ん中に建つ、呼び出された部屋のある城から伸びる回廊の先にある建物を王女様が指差した。
「そうですか」
「この城壁の向こうは、魔のものが住む森が広がっております。本来なら王都へとお連れしたいのですが、出てきてもらえないものですから。あのよう場所になってしまい申し訳ないですわ」
申し訳ないといいつつ、いい感情が含まれていないのがわかる。
しばらく話してわかったけど、早くしないとダメなんだろうなこれ。
尖塔を見つめながら、ポンポンとジャンプする。この世界に来てから、感じていた体の違和感。多分、大丈夫。
「王女様」
ジャンプする俺を微笑ましそうに見ていた王女様は、はいなんでしょうとおっとりと応えた。
「確かにね、神様が俺を喚んだんだと思いますよ」
「まぁ、お分かりになりますの?」
嬉しそうに微笑む王女様。多分、使命を受け入れたと思ったんだろう。
「あぁ、分かるよ」
その言葉と共に、両足に力を込める。
「あんた達の国のためじゃなくて、聖女様のためにだけどな……!!」
「なっっ!!」
ぐんっと両足で前方へジャンプする。
「うおっ、わっわっ」
思った以上のジャンプ力に驚きながら、体勢を持ち直して片足で尖塔の壁を蹴って上へと上がる。
「勇者補正すげぇな」
人間を逸脱した身体能力にドン引きしながら、聖女様がいる部屋、尖塔の一番上を目指す。
王女様の態度、言葉、そして周囲にいた女性達。どうみても、俺を籠絡して勇者として使う気まんまん。
そんな中、閉じこもってる聖女様。
「どう考えても、放逐される未来しか見えないじゃないか」
後で会わせるなんて言って、ぜったい会わせる気ないだろ。
適当な理由をつけて、御しやすそうな俺だけを残しそうだったから。
ダンダン!っと、足音を立てながら壁をの出っ張りを利用しながら駆け上がり、1番上の部屋の窓まで辿り着く。
「窓から離れて!!」
そう声をかけながら、登ってきた勢いのまま鉄格子のはまった窓を蹴破った。
鉄格子か破れるのすごくないか俺。
そんなアホなことを考えながら、勢いを消すためにゴロゴロと部屋の中を転がって壁にぶつかった。
……いてぇ
ベシャッと床に転がったところで、詰めていた息を吐いた。できると思ったけど、さすがに怖かったわ。
「紗奈ぁ、俺何やってんだろ」
苦笑いをしつつ立ちあがろうとしたその時。
「孝文……?」
動きが止まった。
え? 今、いま……?
「孝文だよね? そうだよね?!」
バタバタと足音を立てて駆け寄ってくる、聖女様に視線を向ける。そこには、エプロン姿の女性がいた。
「紗奈? え、嘘だろ、紗奈?」
この一年ずっとずっと探し続けていた、嫁の、紗奈があの時のままの姿で立っていた。
「孝文! 会えた、やっと会えた! 今日来るって、神様から教えてもらえたからずっと待ってたの!」
勢いよく俺の前で膝をついた沙奈を抱きしめようとした瞬間、慌ててのけ反る。
「あぶっ、包丁!! 包丁危なっ!!」
沙奈のその手には、包丁が一本。あの日、沙奈と一緒にいなくなった包丁だ。
ごめんごめんと包丁を床に置く沙奈を、今度こそ力いっぱい抱きしめる。
「ここにいたんだ、ここにいたのか。ここに誘拐されてたのか」
「うん、ご飯作ってたら急に床が光ってね。この世界にいた。男の人たちに囲まれて怖くてね、パニック起こして固まってたら、突如神様からの特大謝罪ボイスが脳内に響いてね」
沙奈がここの世界に来たのは神託ではなく、この国の王の命令で魔法使いたちが作り出した召喚魔法だったらしい。神様はそれを止められなかったことを謝罪し、本来なら沙奈が持つことのなかった聖女の力と便利な魔法をくれたとのこと。
そして薄いながらも強力な結界を施し、沙奈を心から望む人間を一人、一年後に召喚する約束をしてくれた。
「その約束があったから、私は待てたんだ。きっと孝文が来てくれると思って!」
元気でいられるようご飯もいっぱい食べて、今日はあの日と同じ服装で、ずっと待ってたの!
そう言う沙奈は口調の勢いとは反対に、疲れ果てた表情をしていた。体こそ痩せたりはしていないけれど、精神的に限界が近かったんだろう。
「包丁は持ってなくてもいいと思うけどな」
「ふふふ、でもねこれは孝文のだよ」
沙奈は目じりをこすりながら、床に置いた包丁を手に取った。
「はい、リールからのプレゼント」
「プレゼント?」
リールって、男神の?
首をかしげながら手に取れば、ほんのり刃が光っている。
「うちの世界の者が、迷惑かけてごめんって。マール経由で、今話してる」
……本当にすまん!!!
「うおっ」
突然脳内に響いた声に、思わず声が出る。
……うちの界の者が、大変な迷惑をかけた!
脳内に直接響く声。これが沙奈の言っていた特大謝罪ボイスか。
「いえ、沙奈を守ってくれてありがとうございます」
……いいのよ、本当にごめんなさいね
女性の声。これが女神マール?
「まぁ原因と状況は把握できたし、そろそろドアも限界だし?」
実は先ほどからずっと、ドアを叩いたり攻撃しながら怒鳴っている騒音がまぁすごい。沙奈が作っていたのだろう、家具のバーケードが崩れ始めていて、そろそろここを出ないとドアがぶち破られそう。
「行く? 行っちゃう?」
わくわくした表情の沙奈は、窓際に置いてあるいくつかのカバンを肩に背負った。
「この部屋にあったものとかもらったもの、空間魔法で容量無限大にしたバッグに全部詰めておいたの」
女神マールからもらった魔法、めちゃ便利だね。
……嫁が行方不明とか、苦痛以外のなんでもねぇ! マールが消えたら、俺耐えらんないからな。元の世界に返してやることはできないけれど、この世界を自由に生きてくれ! 最大限の俺の加護と祝福を押し付けといたからな!
「話わかるねぇ。じゃぁ、行くか」
そういって沙奈に手を伸ばすと、一瞬泣きそうになった表情がにこやかに晴れた。
「うん!」
沙奈の体を片手で抱いて、包丁を構えて入ってきた窓に向けて一閃する。すると、紙でも切ったかのように尖塔の屋根が壁ごと崩れ落ちた。
「勇者の力すごくない……?」
「それもあるけど、孝文の順応力もすごいと思う」
「任せろ、ライトノベルは俺の友」
軽口をたたきながら振り返れば、家具とドアの向こうで唖然とこちらを見ている人たち。そこには先ほど俺を迎えた王女様もいた。
「俺の嫁さん、返してもらうよ。ついでに……」
さっき俺が召喚された部屋のある建物を仰ぎ見る。この尖塔も高い建物だけれど、向こうはもっとだ。召喚するのに、神に近い場所として高い場所を選んだのだろう。
きっとたくさんの人と金を使って建てたんだろうけれど。
じっと建物を見据えて、包丁を振り下ろす。
すると光の刃が放たれて、先ほどの尖塔と同じく建物が斜めにずれてそのまま崩れ去った。
「はい、リールからの依頼。あんな建物ぶっ壊せだってさ」
「あ、中にいる人や近くにいる人はみんな生きてますよ。マールがくれた結界が守って今この尖塔の渡り廊下へと転移させましたから」
「神の……?」
目の前で起こっていることが理解できないのか、呆然としたままぽつりと呟く。
「もう二度と、神を騙って異世界から人を誘拐するんじゃないってさ」
そこまで言って、沙奈の体にしっかりと腕を回す。さっき自分で切った壁際に寄って、そこに足をかけた。
そして、まだ動けないでいる王女様たちを見る。
「俺は勇者になんてならないよ、あんたたちの都合のいい勇者なんてな」
「私も、あなたたちに飼いならされる聖女なんてやりません」
じゃぁな、と空へと身を躍らせた。
「うぉぉぉ、上るより迫力すげぇ!」
「これは楽しい!」
耳元で風がうなりを上げる。尖塔の壁を途中で蹴り飛ばしてスピードを殺し、城壁へと降り立つ。そこには腰を抜かしたように座り込む、城にいた人たちの姿。
一瞥すると城壁から外へと飛び降りて、森へと向かって駆け出す。
「いやー、体が軽い! すげぇ!」
「私抱えて、よく走れるね!」
走りながら笑いあう。
「……でも、ごめんね。私に巻き込んでしまって」
「巻き込まれたのは沙奈もだろ。いいんだよ、俺は。沙奈のいなかった一年を考えれば、こっちに来た方が何倍もいい」
「それに、勇者にもなれたし?」
「嫁が聖女だしな! リアル体験ライトノベル!」
阿呆なことを言いながら、平原を抜けた先の森へ駆け込む。
「これからどうする?」
「これから?」
視線を上げれば見渡す限りの森。でも脳内には、リールがくれたこの世界の詳細な地図がある。
「いいんじゃない? お互い神様からもらったこの力を使って、のんびり暮らしていけばさ」
そのうちやりたいことだってできるでしょ。
そういって、ずっとぶら下げていたコンビニの袋を持ち上げる。
「まずはこれ食べて一息つこう」
沙奈が視線をコンビニの袋に向けて、満面の笑みを浮かべる。
「プリン!」
「大当たり!
買った意味、あったな。
沙奈の笑顔を見て、さっきまで孤独だった自分の心が解けていく気がした。
とりあえず。
この世界を満喫しつつ、あの国に地味に痛手を加えていこうかな。いくらライトノベル好きでも、断罪する勇気はないからね。他人の人生まで、背に負えない。
リールの「もっとやっちまえ!」の声を無視しつつ、プリンに喜ぶ沙奈の体をもう一度抱きしめた。




