いきなりのライバル登場!?
あぁ、女の子ってなんて素敵な存在なんだろう………。
いい匂いはするし、体温も高くて抱きしめたら心の奥底まで幸福で満たされる………………はずだ。
確信が持てないのは、匂いを嗅げるくらいに女の子の近くに行ったことがないし、抱きしめたこともないからだ。
今まで私はそんなスキンシップをし合う友達はいなかった。どこか気を遣ってしまい、心理的にも物理的にも距離があった。
誰も下の名前の心美って読んでくれずに、苗字の燕にさんをつけて呼んでくる。
ヤダヤダヤダヤダ!女の子を感じたい!ギャルゲーに出てくる女の子とスキンシップをとってみたい!ていうか、女の子を侍らせたい!
この夢を叶えるために、私は人に好かれるように努力を重ねた。勉強に勤しみ、運動も頑張って人並み以上になって、最も美しく見える笑顔の角度も、何回も鏡の前に立って見つけ出した。
だけど、遅かった。それが完璧になったときには中学校を卒業していた。
それならば、高校だ!高校で私は女の子を感じまくるんだ!
そうして、私は女子校という楽園に足を踏み入れる権利を手に持ちながら、入学式の準備に取り掛かった。
家を出る時間になり、全身鏡でまだ着慣れていない制服がおかしく見えないかをチェックして、玄関で靴を履く。
「お、頑張ってね、心美」
マグカップを片手に、ヘアバンドで前髪を上げた姉の笑美がリビングから顔を出した。
私が女の子に興味を持ち始めた理由の一端を担っているのが、笑美であった。何故ならば、誕生日プレゼントとしてお遊びで私にギャルゲーを渡してくれたのが、笑美だったからだ。
そこから私はこの野望を叶えたいという欲望を抱いたのだ。
「行ってきます。いっぱい女の子を感じてくる」
「ファイト!最低でも三人は侍らせてね!」
笑美と力強く頷き合って、私は家を出た。
学校が近くなるほどに、周りが女の子一色になっていく。みんな緊張した面持ちで、それが可愛らしい。
私がその子たちを追い抜く度に息を呑む音が聞こえてくる。
この子たちは、既に私の虜になっている……!ヒソヒソ声も鳴り止まない!適当に声をかけたらコロッと落とせるに違いない!
学校に到着して、事前に伝えられていた自分の学籍番号が記された下駄箱を開ける。
「場所を間違えていないかい?」
不意に背中に声をかけられて、そちらに振り向く。
そこには、長い黒髪をおろした、知性的で気品高いことを感じさせる優れた容姿で、モデルのようにスラッとしたスタイル女の子がいた。
やばい、めっちゃ美人……!
「その下駄箱はあたしの番号だと思うのだが」
「えっ!」
慌ててスマホを開いて確認すると、確かに私はもう一つ上の下駄箱であった。
「ご、ごめんなさい」
磨き上げた私のカリスマ性が音を立てて崩れてしまった。
だって、オーラが凄いんだもん、この人。
「謝らなくていい。それより、同じクラスの子だろう?名前はなんというのだい?」
「燕心美で……す。そちらは?」
「椿凛乃だ。よろしく、心美」
めちゃくちゃ綺麗な笑みを浮かべて、研究されたのか天然なのかわからないが、完璧な角度で首を傾けているこの子。
周りにいる人たちの視線が彼女に一極集中している。
私はその瞬間に悟った。
この人、私の敵だ………!
入学式から二週間が経過して、クラス内の主な立ち位置が確立されてきた。まとめ役や盛り上げ役、真面目や物静かな人もいて、非常に多様性に富んだメンツだ。
そんな中で椿凛乃は、完全にクラス中の人気を掻っ攫っている。
このままだと女の子を侍らせられない!全部、彼女に持ってかれる!
その焦燥感から、私は彼女を呼び出すことにした。
「椿さん、ちょっと話があるんだけど、いい?」
「ああ、構わないよ」
周囲の人が黄色い声を上げた。
「こ、告白するんだ、椿さんに!燕さんも落ちたんだ!」
んなわけあるかぁ!私は落とすことはあっても落とされることは絶対にない!
誰一人として聞かれたくない内容であるから、私はわざわざ長い階段を登って、見かけ上は施錠されている屋上の扉を開けた。
「開いているのか。勝手に入っても大丈夫なのか?」
「バレなきゃ大丈夫」
暖かい風が吹き抜けて、私の髪を靡かせる。
うわ、目に砂が!いてててて!
「それで、何かあたしに用があるのかい?」
「………ちょっと待って」
やばい、涙が出できた……。タイミング悪すぎるでしょ!
「泣いているのか!一体何があったんだ!」
「何もないから!異物混入しただけ!」
「異物………混入……」
いぃー、やっと痛みが引いてきた。痛かった………。
「いいぞ。あたしは準備ができた。心美の心のうちを包み隠さずに吐露してくれ」
気がつけば私の頭は彼女の胸の中に収まっていた。突然のことに頭が混乱して、何が起こったのかわからずに思考が停止した。
「恥ずかしがらなくていい。しっかりとあたしも受け止める」
あ、これが女の子の匂い。確かにこれはいい匂い───────
「って!何してんの!?」
「落ち着いてくれ。あたしは全てわかっている。心美の気持ちも素直に喜ばしく思うよ」
「頭撫でんなぁ!」
彼女の手を払いのけて、距離を取る。体温を感じなくなり、途端に冷たくなった。
いや、そんなことはどうでもいい!それよりも!
「全てわかっているってどういうこと!?」
「そのままの意味だ。心美があたしを想っているんだろう?」
「………は?」
何を言っているんだ、この女は……?
困惑している私は視界に映っていないようで、彼女は大仰に手を広げて空を見上げた。
「心美とあたしは運命の糸で繋がれているのに、他の女の子があたしにアプローチしてくるから、不安になっているのだろう?ただ、女の子を異物扱いするのは、あまり好ましいとは言えないな」
こいつ、まさか………!
「私がいつあんたを好きだって言った!?」
「言葉を介さずとも伝わってくるさ。心美から送られる視線や、すれ違うときに感じる熱の籠った吐息。あたしにはそれで充分すぎるくらいに伝わってきている」
めちゃくちゃ自己陶酔した勘違いしてる……!
「心美の好意はとても嬉しい。だが、あたしはその気持ちに応えられないんだ。本当にすまない」
「なんで私が振られてるんだよ!」
「気にしなくていい。この経験が君をまた一段と強く、美しくするんだ」
この気障ったらしい女をどうにかしなくては。まずは、このふざけた誤解を解かなければいけない。
「私は別にあんたが好きなわけじゃないから!」
「……ああ、そうだったのか。なら、このことはなかったことにしよう。心美も、当然にあたしも互いにこの時間のことを忘れるんだ。そうしたら、これからも君は思うままにあたしにアプローチできるだろう?」
なんだそのかっこいい対応は!
「私が話したかったのは、あんたを好きってことじゃなくて、その逆!気に食わないから連れてきたの!」
「な、なん……だ……と…………」
相当なダメージを負ったようで、胸に手を当てながらその場に座り込んだ。
そこまでか………。
「あたしのどこが気に食わないんだ?」
その声は優位に立っていると思っていた先ほどとは全く異なっており、覇気が感じられなかった。
それより、この質問にはどう答えようか……?モテモテなところなんては口が裂けても言えない。
でも、彼女には欠点らしい欠点がないから、必死に嘘をつこうにもそれは難しい。
私が黙りこくっていると、ゆっくりと彼女は立ち上がった。
「遠慮なく言っておくれ。そして、それを改善して、君に好きになってもらえるようにする」
「………なんでそこまでするの?」
「それはだな!」
また声に覇気が戻って、彼女は高らかに告げた。
「クラスの全員を惚れさせたいからだ!」
あ、なるほど。この人、同業者だ。
「………なんで惚れさせたいの?」
「ん?人に好意を向けられるのは、嬉しいだろう?それが授業中も休み時間中も、私を除いた39人から向けられたのなら、それは素晴らしく愉悦なことではないか!」
訂正、私とこの人は同業者じゃない。こんな人と同業者として一括りにしてはいけない。私が耐えられない。
私は気圧されながらも、それを悟られないように力強く彼女を指差した。
「それがあんたの本性ね!承認欲求に塗れた魔性の女!生粋の女たらし!」
「はははっ!なかなかに言ってくれるじゃないか」
「私は絶対に負けない!あんたよりも私に惚れた方がいいってみんなに思わせる!」
「ほう?心美もあたしと同じ野望を持っているのか」
あ、やべぇ。勢いに任せてぶちまけちゃった。
動揺する私を見て、彼女はニンマリと口角を上げてゆっくりと近づいてきた。私は思わず後退りしてしまう。
背中にフェンスがぶつかって、遂には追い詰められてしまった。
彼女が壁ドンみたいに私の顔の近くのフェンスを右手で掴んで、顔を寄せてくる。
「心美、勝負をしようじゃないか」
綺麗な顔が目の前に来て、私は息を止めてしまう。
やばっ、肌綺麗!目が大きい!
「心美はクラスの4人以上を惚れさせたら勝ち。あたしは35人以上を惚れさせたら勝ち。期限はこの一年間で、勝った方が負けた方になんでも命令できるというものだ」
息が苦しくなって、止めていた呼吸を再開する。
いい匂いだ……。柔軟剤の匂いかな?それとも香水?
「ちなみに、念のために言っておこう」
私の顎に彼女の左手が添えられる。
「君もあたしの攻略対象の一人だ」
はわわわわわわわわ!!無理!心臓が破裂する!こんなにスキンシップってドキドキするの!?
「ふふっ、照れているのかい?顔が真っ赤だ」
「いや………ちょっ………やめ……」
「こんなに恥ずかしがっていたら勝負にならないぞ?」
だって、こんなの………耐えられるわけが………
私の唇に細くて艶かしい親指が添えられる。
ちょっ……!何してんのこの人………!
「ここまでウブな反応をされると、そそられるものがあるな。君を見ているとあたしの中で何かが湧き上がってくるよ」
こいつを突き飛ばせ私!両腕を前に突き出すだけだ!そして、絶対に勝つって宣言するんだ!
心を奮い立たせる一方で、体は言うことを聞かない。腕がとてつもなく重たい。
「君はあたしが今まで会ってきたどの女の子とも違う。その違いが、あたしに君を魅力的に見せてくれる」
「う、うる……さい………!その余裕も……いまのうち……だけ………!」
彼女は私の言葉にさらに笑みを深めた。
「君は最高だ。必ず君を落としてみせる。それとも───────」
尚も抵抗ができない私の耳元に彼女は唇を寄せて、甘い声で囁いた。
「既に落ちているかな?」
もう、ダメ……………。
私は強烈な眩暈がして、その場に倒れ込んで意識を失った。




