『煙の異世界を往復』第4話「煙の声」
アニーを失った大輔は、岩の国で深い喪失を抱えながらも日々を過ごしていた。
だがある日、風に混じって――懐かしい彼女の声が届く。
第4話は、ふたりの絆が世界を越えて響く「再会への前兆」の章です。
王が回復してから、七日が過ぎた。
岩の国の都には、いつもの光が戻っていた。
だが、大輔の心の中にはぽっかりと空いた穴が残っている。
アニーが消えた夜のことが、何度も脳裏によみがえる。
光と煙の渦の中で笑っていた彼女の顔。
あの微笑みが、今も目を閉じるたびに浮かぶ。
「アニー……」
大輔は城の庭に立ち、風に向かってつぶやいた。
春の風は柔らかいのに、胸の奥は冷たいままだ。
そのとき、どこからともなく懐かしい香りが流れてきた。
それはアニーがいつも身につけていた花の香――
黄金国にはない、現世界の花の匂いだった。
「……まさか」
大輔は香りを追って、緑の社へと足を運んだ。
泉は静かに揺れ、淡い光を放っている。
そして、その水面に、かすかな人影が浮かんだ。
『大輔――聞こえる?』
その声は確かにアニーのものだった。
「アニー! どこにいるんだ!」
『私、まだ消えていないの。女神の魂と一緒に、煙の境にいるの。』
「境……?」
『二つの世界の狭間。あなたが作った“往復の道”の奥。
でも、扉はもうすぐ閉じてしまう。』
「待ってろ、必ず行く!」
『だめ。今のあなたが来たら、二つの世界が崩れてしまう。
でも――聞いて。現世界の春の畑に、一本の白い花が咲くわ。
それが、私の印。あなたの世界で私を探して。』
声は、風とともに消えていった。
泉の光が淡く揺れ、静かな音だけが残る。
大輔は膝をつき、拳を握った。
「アニー……俺は、もう一度往復する。必ずお前を見つける」
* * *
数日後。
大輔は王に旅の許しを願い出た。
「アニーを探しに現世界へ行きたいのです」
王はしばらく黙し、やがてうなずいた。
「アニーは私の娘同然。お前に託そう。
この“金の種”を持て。それは女神の力の残滓だ。
現世界で煙の道を見つける手がかりとなろう。」
その夜、大輔は緑の社で再び煙を焚いた。
前とは違う、少し苦い香り。
世界の境界がきしむように揺れ、白い光が広がっていく。
気づけば、そこは春の風の吹く現世界だった。
空の色も、土の匂いも、懐かしい。
そして、庭の片隅――
荒れた畑の中に、一本だけ白い花が咲いていた。
「……アニー」
大輔は花の前にしゃがみ込み、そっと触れた。
花びらが光り、かすかに揺れた。
まるで、答えるように。
その瞬間、煙が足もとから立ちのぼり、
耳元に優しい声が囁いた。
『大輔、ここにいるわ――』
大輔は息を呑んだ。
白い花の中に、アニーの微笑みが確かにあった。
第4話では、アニーが完全に消えたわけではないことが明かされ、
物語は「探索編」へと舵を切ります。
次回は、
◆ 白い花に宿ったアニーの“魂の断片”の正体
◆ 大輔が追う“煙の道”の謎
が動き始める章となります。




