面談
〈露涼し例へ梅雨の遺物でも 涙次〉
【ⅰ】
道々、涙坐とぴゆうちやんの問答。「オ姉チヤン、今日ハ何シニ何処行クノ?」‐「面談よ。魔界から脱け出たい、つて人の為に」‐「説得スルノ?」‐「まあさうね。明らかに魔界卒業したいつて人の為に」‐「僕ノぱぱままモ面談、受ケテクレナイカナア」‐(微笑)「さうねえ。パパママにその氣があるんだつたら」‐「魔界ナンテイゝトコヂヤナイツテイツモ云ツテルンダヨ」‐(微笑)「まあ、その内にね」肝戸「さあ、着きました。『思念上』のトンネルです」‐「あら、だうも有難う」‐「お嬢様、ぼつちやん、出番ですよ」‐「肝戸ノヲヂサン有難ウ」
【ⅱ】
涙坐の今日の面談相手は、魔界でも下つ端、時軸麻之介。かうやつて一人一人魔界から「引き拔く」。遠大な作業である。魔道の者らが、もの珍しげに覗いてゐる。時軸はぴゆうちやんを指差して、「あれぴゆうちやんだ」‐ぴゆうちやん「アレ時軸ノ兄チヤン、畸遇ダネ」‐涙坐「お知り合ひ?」‐「魔界デハ遊ビ友達ダツタンダヨ」‐「ぢや、話は早いわ。ぴゆうちやん見て貰へばわかるでせう? 貴方も早く人間界にゐらつしやい」‐「は、はあ」‐時軸はぴゆうちやんより涙坐が氣になる様子。さう、時軸は惚れつぽいのだ。さうかうしてゐる内に、野次馬が大勢出て來た。「今日ハ僕ガ護衛ダゾ。來ルナラ來イ」‐みんなぴゆうちやんのやんちや振りは知つてゐる。
【ⅲ】
「時軸さんつて、珍しいお名前ね」‐「ルシフェル様に仕へてゐた頃は、魔界の時計番でした。今はもう、時間の事なんか誰も氣にしやしない」‐「ルシフェルさんなら冥府で、大天使時代のキャラクターに戻つて、平和に暮らしてゐるわ」‐「え、えー!?」‐「おや知らないみたいね」‐さう、魔界には言論統制がある。ルシフェルの事はトップ・シークレットだつた。
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〈假託する事すら薄ら面倒で火宅に棲みつ火宅後にす 平手みき〉
【ⅳ】
「ぢや、またね。面談は地道に續けるわ」‐「待つてます」‐「ヂヤネ、兄チヤン」
「ぴゆうちやんのお蔭で、今回は大分捗つたわ。有難う」‐「次回ノ面談ニモ呼ンデネ!」
さて、ぴゆうちやん、カンテラ事務所に戻ると、最愛のチョッキを着てみんなに訊いて廻る。「似合ツテルー?」‐それはさて置き、涙坐、「ぴゆうちやんのお蔭でだうやら上手く行つてるみたいです」‐カンテラ「ぢや、次回もぴゆうちやん、連れて行つてみて。本人もそれが一番和むみたいだから」‐「はい」
【ⅴ】
「涙坐ちやんか...」‐時軸、遠くを見る目付き。思へば、平凡の娘つ子は昔から氣になつてゐた。以前は白虎怖さに近付けなかつたが、護衛がぴゆうちやんなら、まだマシだ。たゞ、ぴゆうちやんも一度怒らせると、厄介なんだよなー。ルシフェル様の事は、知らなかつた。俺も冥府つてところに一度行つてみたいなあ...
魔界にも各人各様な思惑が渦巻いてゐる‐ それにしても、カンテラつて人は、懐が深いつて云ふか、様々な手を打つて來る。自分が出張つては魔界の衆には恐怖を與へ過ぎる。その事、良く分かつてるみたいで。ルシフェル様が駄目なら、カンテラの使ひ魔つて手もあるぞ。涙坐ちやんにも會へるし‐
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〈巴里祭のカフェ・オ・レ一人飲む朝よ 涙次〉
さて、時軸、落とせるか、涙坐。落とせたら、それはカンテラにとり大きな一歩だ。ぴゆうちやんと云ふ「遊び駒」にも、一つ大きなカタが付く。それにしても、ヴェスト一着で大きな進歩だ。ぴゆうちやんはやはり「成長株」だつたのだ...
つー事で、次回に續く。また。