第九話 もったいつけなくていいから、早く言ってくれ。
麻でできたカーテンを開ける。
俺と同年代であろう、30歳くらいの男性がいた。
役職で何か決まっているのだろうか、黒色に染められたワンピースのようなものを着ている。
「アリシーン様ですね。こちらへ」
椅子に座ると、その男性は、マユナおばちゃんを見て、顔をしかめた。
「付き添いの方ですか? 廊下で待ってもらっても……」
俺は、その男性に声をかけた。
「俺が頼んだんです。さっき案内してくれた女性は、大丈夫だと言ってくれましたが」
すると、目の前の男性は、わかりやすくため息を吐いた。
「はあ……ま、いいんですけど。本来は、ご本人しか立ち入ってはいけないので。ケ、カ、ケンタ様は、よろしいですか?」
んん、やっぱり、ケンタって名前は、こっちの人は発音しにくいのかな。
まあ、いいか。どうせ今日しか、会わないだろうし。
「大丈夫です。それで、スキルって……どうやって調べるんですか?」
「そのまま、止まっていてください。そう、そして、わたしの目を見て……」
顔を近づける男性。
何かのお香だろうか、フローラルな香りがする。
そういえば、この世界は、
日本より少し、臭いような気がしたんだ。
なんの匂いだろうか、ネズミやゲジゲジを食べるくらいだから、体臭もそうなるのだろうか。
そんなことを考えながら、
少し青がかった男性の瞳を、見つめ続けた。
その男性の胸元に、刺繍があるのを見つけた。
カ……カム・ヤニ?
名前だろうか、それとも役職か?
「あ、もう少しです。まだ、目は逸らさないで」
そう言われて視線を戻すと、
あれ、さっきまで青かと思っていたけれど……赤色か? ほんのり、ピンクのような、赤のような色が混ざり始めたことに気づく。
そのまま、どれくらいだろうか。三分ほどだと思う。
男性の瞳が真紅に変わる頃、男性は、俺を見るのをやめた。
「分かりました、この場でお伝えしてよいですね?」
いいですか? でなく、よいですね? と聞かれて、俺は勢いに飲まれて、頷いた。