表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第七話 俺の名前が決まった日

「ところで、名前は決まったのかい?」


おばちゃんが土の板を覗き込む。

もちろん、そこは空白で。


「いや、こっちの世界って、どんな名前が多いのかな。おばちゃんは、名前、なんていうの?」


あ、そうだよねえ、と言ってから、胸を張ってどんと叩くおばちゃん。

揺れる胸と、腹の肉。


「自己紹介もまだだったね! おばちゃんはマユナってんだ! アリシーン・マユナ!……まあ、この年だと、おばちゃんって呼ばれる方が大きけどねえ」


また、大きな口を開けてガハハと笑うおばちゃん。


「それって、由来とかあるのかな……?」


「アリシーンは、家族で決まってるから! 父さんも母さんも、アリシーンから始まってるよ! アンタの国では違うのかい?」


苗字、姓みたいなものだろう。


「それなら、俺の国も同じだよ。サトウ、とか、タナカ、とかが多かったけど。……俺の前の名前、タナカ ケンタっていうんだ」


そう伝えると、おばちゃんは、


「ふうぅん……? こっちの言葉にはないねえ。マユナは、木の名前なんだよ! ピンク色の果物がなるんだ。おばちゃんが生まれた季節がね、マユナが咲く時期でねえ。……って言っても、アンタには分かんないよね、どうする? おばちゃんが勝手に名前、つけようか?」


うぅん。どうしよう。

勝手につけられた聞き馴染みのない言葉で、俺が反応できるかも分からない。



「あのさ、俺……やっぱり、前の世界の名前のままじゃ、ダメかな?」


そう言うと、おばちゃんは少し顔をしかめた。


「ダメってことはないけど……絶対に、二回聞かれるよ? 大人しく、おばちゃん家のアリシーン、もらっておいたらいいんじゃない?」


「それってさ、おばちゃんの息子になるっていうこと?」


俺の問いに、おばちゃんは答える。


「そんなもんじゃないよ! ただ、仲間っていうか……あんまり気にしなくて大丈夫だよ! アリシーン・ケンタ! いい名前じゃないか、ケンタっていうのは、なにか意味がある言葉なのかい?」


アリシーン・ケンタ。

うん、これでいいだろう。


俺は、指で土の板にそう記しながら、答えた。


「健やかに、健康に育ちますように。……そういう由来だって、母さんが言ってた。漢字もね、健康の健に、太い、なんだよね」


母さんは、どうしてるだろう。

親より早く死ぬなんて……親不孝しちまったな、俺。


しみじみする俺をよそに、おばちゃんは言った。


「カンジ……? それはなんだい、記号みたいなものかい?」


そうか、この世界には漢字はないのか。

ん、待てよ。カタカナで書いたこれは、伝わるのか?


「漢字はね、まあそんなかんじ、記号だよ。ところでおばちゃん、この文字読める?」


おばちゃんは土の板を見て、笑った。


「アンタねえ! おばちゃんだって真面目に学校行ってたんだよ! ナミクル語くらい読めるよ!」


カタカナは、ナミクル語というらしい。

もっとも、俺の書いたカタカナは、この世界のご都合主義設定で……おばちゃんにも、読めるように変換されているのかもしれないけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ