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第五話 虫を食べた。人生で初めて。
「……あの子、かわいいだろ?まだ彼氏いないらしいよ」
おばちゃんのニヤつく目をスルーして、俺は聞いた。
「ところで、あの、こういう世界に来たら、スキル?とかあると思うんですけど……俺って何かあるか、分かりますか?」
「そうそう!それもだけど、こっちに来たばかりだと、アンタ名前もまだだろ!この建物の中にね、そういうの決めてもらえるところがあるから!」
なるほど。ここは、市役所……みたいなところなのか?
「どれ、早く食っていくよ!ファーバーも一口くらい齧っていきな!」
ここまで来たら、なるようになれ。
ちょっと不味くても……最悪、腹を壊して終わりだろう。
目を閉じて、ゲジゲジを口に入れる。
……これは、殻付きのエビだ。ゲジゲジじゃない、エビだ……。
甘辛いソースのおかげで、なんとか飲み込むことができた。
え、うまいかどうかって?
口の中にトゲが刺さって、うまいなんて思えなかったよ。こっちは必死でエビの想像してんのに、チクチク、モサモサ、そんな感触ばっかりでさ。このソースだけで、出してくんねえかな。