第二話 おばさんがおしゃべりなのは、どの世界でも変わらないらしい
「ちょっとアンタ! どうしたの、クエスト帰り?」
声をかけられて振り向くと、麻の布がはち切れそうな体をした、日によく焼けたおばちゃんがいた。50代くらいか?
「いや、はは、そうなんです」
クエスト……聞いたことはある。
モンスターを倒すとか、薬を作るとか、そういう……仕事みたいなモノだろう。
もしこれが夢だとしたら、俺の脳みそには、そのくらいの言葉はインプットされていたみたいだ。
「ったく、最近の若いやつは……その服も見たことないけど……もしかしてアンタ、どっかの世界から転生してきたのかい?」
!!!
俺の他にも、転生してきた人がいるのか。
というか、やっぱりここは、転生後なのか?
しかも、このおばちゃんは、驚いてる様子もないし……転生してきてこの世界に来る人が、けっこういるのかもしれない。
「久しぶりの転生者だね、いつこっちに来たんだい? どこのギルドに入ってるの?……そのギルドじゃ、服ももらえないのかい?」
どこの世界でも、おばちゃんはおしゃべりだな。
「いや、あの、俺、さっき目が覚めて……というか、ここって転生したひと、けっこう来るんですか?」
俺がそう言うと、おばちゃんは、びっくりした顔をした。
「なんだよ! クエスト帰りじゃないのかい! ナヨナヨして、男ならビシッとしなさい!……で、その背中は? 前の世界でやられたんだね?」
そう言いながら、シャツをめくるおばちゃん。
「ちょ、待ってください、なんか傷跡とかあるかも……」
そう止めてみたけれど、おばちゃんは何も気にしている様子はない。
「ありゃ〜、これはまあ……ナイフで一突きってところかい。誰かの恨みでも買っちゃった?……そんな色男には見えないけどねえ!」
ガハハハ、と大きな口を開けて笑うおばちゃん。
余計なお世話だ。
「まあいいよ、ついてきな。どうせ、何にもわかんないんだろう? そうだ、腹減ってない? 最初に飯でも食おうか、何が好きなんだい、アンタ」
「う〜ん、好きなモノ……」
ハンバーグにカレー、唐揚げ。パスタもいいしピザもいい。そうだ、最初、ハンバーガーを食べたかったんだ。
そう思ったけれど、この世界にそんなものはありそうに見えない。
答えに困っていると、
「もう、はっきりしない男だね! いいよ、とりあえずついてきな!」
そう言っておばちゃんは、俺の腕を掴んで歩き出した。
俺も、そんなに細くはないはずなんだけど……目に入るおばちゃんの腕が、なんていうか、逞しくて……もし俺がおばちゃんの体だったら、死なずに済んだのかも、なんて思った。