99.クリスマス
「メリークリスマス!」
クリスマスといったら、やっぱりこれだよね。
福原家では、クリスマスはホームパーティーと相場が決まっている。私が鶏料理を作って、お母さんがケーキを焼く。洸也がはしゃいで、お父さんがプレゼントを買ってくる。
昨日みたいに、コイビトとイチャつくのは、普段の日にやればいい。……そうだよ。普段の日だって、あんなことやこんなこと、イチャイチャしたらいいんだよ!
……それにしても、あの「震える山」。どうやったら、あんな……。
いや、前世だってあっちの方は未経験だったんだ。比べるのも昔の自分のしか⋯うーん、わからんよ。
軍曹も一度女の子になってみればいいんだよ。
あの巨大なMAより、よっぽどビビるから……!
……って、そんなこと、今はどうでもいいよね!
ホームパーティーは、穏やかに進んでいった。
「これ、美味いな」
お父さんがチキンを頬張りながら言う。
「良かった。私が作ったんだよ」
「ねーちゃん、これは?」
ポテトを口いっぱいに詰め込む洸也。
「それは、冷凍のを揚げただけ……」
「でも美味い!」
チキンを食べ終わると、お父さんが、なんだか感極まっている。
「なんかさ、娘の作った食事でクリスマスができるなんて……お父さん、幸せだなぁ」
「はいはい。次は愛妻ケーキよ」
お母さん、あしらい方が手慣れすぎている。
「なぁ真理。来年もこうして家族でできるよな?」
お父さんがお母さんに絡み出した。ノンアルコールのシャンパンで雰囲気酔いしちゃった?
「知らないわよ。本人に直接聞けば!」
お父さんが、チラリとこっちを見る。
「聞けないよ〜。真理、聞いてくれ……いや、聞かなくていい……」
「だそうよ、瑛里」
「は? 私? いったい私は何を問われているの……?」
「『昨日、瑛祐くんとどこまでいったのか』って、聞きたいんじゃない?」
「っ……!」
昨日、瑛祐くんにしてあげたことを思い出して、顔がボッと熱くなる。
うちは、母がニュータイプ(単に勘が鋭いだけだと思うが)のせいで隠し事ができないけれど、そこまで話さなくてもいいよね!
「どこまでって……ケーキ焼いて食べただけ! 知らない!」
私はそのまま、自室へ逃げた。敵前逃亡は死刑……なんて言葉がよぎるけれど、あのままじゃ何を言われるかわからない。
「でも、クリスマスはずっとこの家でパーティーするから安心してね!」
とだけ、お父さんには叫んでおいた。
来年か再来年、ずっと瑛祐くんと付き合っていくなら、彼をこの家に呼べばいい。
……でも、彼女の実家で、お父さん付きのパーティーなんて、戦場でいえば最前線どころか、敵の本拠地に単機で突っ込むようなものだ。
「ええい、これまでに何機やられた!? ……着くまでに何機残るんだ!」
瑛祐くん、こんな事を言いながら、ガリガリ残機削られて、辛いかもしれない。
……いかん。これはエイジの発想だ。今は私は瑛里なんだから、彼氏を家に呼んで何が悪いの! って気分なの!
ピーピーピー。
スマホの通知が鳴る。
『瑛里。今、家にいる?』
瑛祐くんからだ。一気に心が跳ねる。
『うん。ご飯食べ終わってゆっくりしてるところ』
『じゃあさ。ちょっと、外に出てみない?』
えっ。どういうこと……。来てるの?
⋯ヤツだ、ヤツが来たんだ!
って、めっちゃ嬉しいんだけど。
前までの私なら、躊躇してお母さんに背中を押してもらったりしたけれど。今はもう、迷わない。
私はサンダルを突っかけて、バッと玄関のドアを開けた。
冬の夜の冷たい空気。あの自販機の横に、自転車と――いた!
外に出る私を見て、瑛祐くんが少し照れくさそうに、俯きながら笑った。
「どしたの?」
嬉しくてしょうがないくせに、あえて「なんで来たの?」という風を装って聞いてみる。
「昨日さ……。凄いプレゼントもらったのに、俺、プレゼントあげてなかったから。持ってきたんだ」
……カッと顔に血が昇る。
ケーキを焼いただけ。物としては何もあげていないけれど。その、昨日、してあげたんだった……。
「私、何もプレゼント用意してないよ? ほら、ハジメテだってまだだし……」
「いや、まあ……俺にとっては、瑛里が彼女でいてくれているだけで、毎日がプレゼントなわけで……」
たまにコイツ、恥ずかしげもなく凄いことを言うよね。
はにかんだ笑顔で、物凄い破壊力だよ。
「で、これなんだけど。もうあんまり売ってないから、一日中探し回ったよ」
「開けていい?」
「もちろん」
渡された包みを開けると、中から「ツールセット」の箱が出てきた。
「これ……?」
「これさ。じいちゃんが開発したツールセット。力の弱い人でも使いやすいよう、工夫されてるんだ」
記憶が、鮮やかに蘇る。
ーーーーーーーーーー
まだエイジだった頃。もう長くない、と悟っていた頃の話だ。
「エイジくん。きっと良くなる。大丈夫だ」
アキラさんが、病室に来てくれた。
「もう、手の力もあまりないから。プラモ作るのも難しいかな。教えてほしかったけど……」
「問題ない。俺が、女性や子供でも、力がなくても使いやすいツールを作る。だから、諦めるな」
ーーーーーーーーーー
アキラさん……約束、守ってくれていたんだね。
「多分、瑛里にも使いやすいと思って……って、え、なんで泣いてるの!?」
「っ……」
だって、アキラさんが「俺」を思って作ってくれたモノを、その孫である瑛祐くんが「私」にくれたんだよ。
こんなに嬉しいことは、ないよ……!
「あ、ごめん! 女の子へのプレゼントだもんな……これ違ってたよな。アクセサリーとかマフラーにすれば良かった、本当に……」
どうしてそうなる。あなたが付き合っているのは、普通の女の子だと思っているの?
「ち、違うから……。これ、嬉しくて。嬉し泣きってやつだよ」
その証拠に、つま先立ちでチュってしておいた。
「う……。喜んでくれて良かった。……あ、これ、アトリエで使うだろうから、持って帰っておくね?」
持って帰る? じゃあなんで来たんだ少年よ!
私はツールセットを抱きしめたまま答えた。
「いいの。もらっておく。次、アトリエに行くとき、自分で持っていくから……」
アキラさんの思い出と、瑛祐くんの想いが詰まったプレゼント。
しばらくは枕元に置いて、この余韻に浸らせてほしいからね。
ほんま、クリスマスってなんなんだろうね?
ブックマーク登録や下側の「☆☆☆☆☆」をできるだけ★いっぱいにして頂けるとめっちゃ嬉しいです。




