97.イブⅡ
ケーキは上手く焼けた。
クリームを塗って、イチゴをバランスよく乗せて、完成!
うん、我ながら完璧な出来映えだ。瑛祐くんも流石と言うか、生クリームのデコも完璧。
「どうする? 歌とか歌っちゃう?」
冗談っぽく聞いてみた。
「いや、いいでしょ。早く食べたい」
そうだよね。瑛祐くんは、ムードより食い気だよね。
付き合う前、駅まで私を迎えに来てくれたんじゃなくて、私のお弁当を迎えに来てたもんね。
……本人は全力で否定しているけれど。
「上手くできたね」
「おぉ、売り物のケーキみたいだ!」
「まあ、道具とか準備をちゃんとしたら、やっぱり良かったね」
「瑛里が料理上手いからだよ」
食べてみると、スポンジ生地は柔らかくて、クリームは甘すぎず、イチゴの酸味を優しく包んでいて、凄く美味しい。
「……美味しくできた」
「うん。今まで食べたケーキで一番美味しいよ」
「ちょっと大袈裟だなぁ。でも、美味しいね」
「これ、後で楓さんにあげてもいい?」
「いいけど、喜んでくれるかなぁ……」
彼氏のお母さんだよ? 「不味い」なんて言われたら、この恋、一気に詰んじゃうよ。
「絶対大丈夫。俺の彼女が作ったケーキだって、自慢できるよ」
「それはやめてね。『余ったからどうぞ』くらいでいいと思うよ」
「そうかなぁ、こんなに美味いのに……」
わかってないなぁ、コイツ。嫁姑には色々あるんだよ……。
……って、嫁じゃないからね、まだ⋯。って、まだだよ⋯
「ゴムベラとかふるいとか、普段使わないもの買っちゃったね」
「そうだけど、こんなに美味しいケーキが作れるならいいよ。しまっておこう」
「次の出番は、瑛祐くんの来年の誕生日かな……」
バレンタインでチョコケーキを作ってもいいかもしれない。
「あれ、誕生日って……瑛里の誕生日はいつ?」
「あ、私のはいいよ。別に」
「ちょっと待てよ。……彼女の誕生日を知らないなんて…。やっぱり俺、自分ばっかりだったな」
あ、落ち込んじゃった。
それは、君が誕生日にちょっと悲しい思い出があって、言い出せなかっただけなんだよ。
でも、あの時、私たちは、ケーキを焦がして、ちゃんと笑い合えたじゃない。
「えっとね。一月十五日、かな……。あ、でも、家族が祝ってくれるから、特別に何かしなくてもいいよ」
「OK。一月十五日ね。覚えた」
……「特別に何もしなくていい」って言ったの、聞こえてた?
でも、好きな人に祝ってもらう誕生日か。
そんなの、ハジメテかも。
食べ終わって、話も一段落した。
「ふう。美味しかった。片付けるよ」
片付けまでがパーティーだ。
「あ、俺もやるよ」
「手伝う」じゃなくて「俺もやる」と言えるのが、彼のいいところだと思う。
残ったケーキをラップで包んで冷蔵庫へ。皿やフォークをシンクへ。
二人で並んで、洗い物をする。瑛祐くんが洗剤で洗って、私が流す。
もう、共同作業はハジメテじゃないからね。
学校の事、アニメやプラモの話をしながら……。
なんだか楽しいな。
本当に、瑛祐くんはテレビ版から見ているらしい。しかも結構なペースで進んでいる。
「あのジオラマのシーンとか、見たよ。あれ、すごいな」
「たいしたことないなぁ〜」
「あった。確かに言ってた!⋯で。そんな事はどうでも良い、皿を仕掛けろ!」
「おぉ~。完璧だね!」
「このケーキ用の道具、どこに入れる?」
「そうだな。あ、上の戸棚を開けたらスペースがあるよ」
……知ってる。私がエイジの時、あまり使わない道具を入れていた場所だ。
開けようとするけれど――ん? 届かない。
そっか。前は百七十センチ以上あったけれど、今は十五センチ以上低くなっているんだ。
仕方なく、精一杯背伸びをしてみたら。
「あ、後で俺がやるからって、危ない――!」
洗い物のせいか、床が濡れて少し滑りやすくなっていた。
背伸びをして手を伸ばした瞬間、足が滑って身体が回転――しなかった。
瑛祐くんが、ガシッと受け止めてくれたから。
瑛祐くんは男の子の中では平均的で、決して大きな方ではない。
けれど、私からしたら充分大きくて、受け止めてもらえると、それだけで安心しちゃうな。
つい、そのまま体重を預けると、
「あ、だめだ……!」
「えっ、ごめ――」
二人でバランスを崩して倒れてしまった。
横向きに向かい合ったまま、床に倒れ込む。
全然痛くなかったのは、瑛祐くんが私を支えてくれたおかげだ。
「あ、ごめん。大丈夫?」
「う、うん。瑛里は? 怪我してない?」
「全然痛くない。瑛祐くん、支えてくれたもんね」
「いや、とっさで……。大丈夫なら良かった」
……沈黙。
「もうちょっと、このままでもいい?」
くっついて、抱きかかえられているのが、すごく心地いい。
「うん……俺も。もうちょっと、こうしてたいな」
「このまま、キスしちゃう?」
顔を上げれば届く距離。
絶対に拒否されないだろう提案をした。
返事はなかった。
代わりに、私が向けた唇に、瑛祐くんの唇が優しく触れてきた。
あぁ……。甘いよ。
さっきのケーキなんかより、ずっと。
瑛里ちゃんが、ケーキを甘さ控えめにした理由。
その後の甘い時間満喫するためさ!
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