96.クリスマスイブ
クリスマスイブ……。
それははるか昔、処女マリアから救世主が生まれる前日のことらしい。
私は生前も今も、特にキリスト教徒というわけではない。だから、まあどうでもいいイベントだったのだけれど。
今年はなんと言っても、彼氏がいる。今の日本の、恋人のいる若者にとって、クリスマスというのは間違いなく特別な日だ。
関係ないよ、と嘯いていた私が、万が一、いや億が一の可能性を、千が一……いや百が一、十が一……一一。
とにかく、瑛祐くんに一度すべてを任せてみようと思うくらいに、重大なイベントなのだ。
期末テストも無事に終わった。
煩悩を捨て、勉強に全振りしたおかげで、結果はまあまあ良かった。国立進学クラスへの進級も見えてきた。
瑛祐くんのおかげだと思う。勉強にしてもプラモ作りにしても、彼は教えるのが本当に上手い。
アッチの方も上手ならいいけどね。
……いや、上手でも下手でも、好きだから、どんなでもいいよ。もう覚悟は決めた。……決めたつもりだ。
そして今日。決戦のクリスマスイブ、だったのだけれど。
……きちゃった。
ごめん、瑛祐くん。
生理現象でどうしようもないことなのに、なんと言っていいやら⋯。
昨夜、リビングで
「瑛里、クリスマスは家でいいのよね?」
とお母さんに聞かれた。
「うん。そのかわり明日、会ってくるから……」
「そう。別に、瑛祐くんの方を優先してもいいのよ」
「ううん、いいよ。お父さん泣いちゃうだろうし、洸也もまだ楽しみにしてるもんね」
「そうだね。二人とも瑛里が大好きだからねぇ」
「ふふっ」
「……それにしては、元気ないね。どうした?」
「まあ、大丈夫。明日ケーキ作ってみるんだけど、前、焦がしちゃったから心配で……」
「……そっかそっか。瑛里は決意したけど、生理か」
「ぶっ!!」
吹き出してしまった。
「な、何言ってんの! 」
相変わらずこのエスパー母め……お見通しってわけか。
「仕方ないけど、まあ、それでもできることもあるし。頑張っといで」
……できることって何!?頑張るってなにを?
まあ、生理痛がそこまで酷くないのは幸いだ。ケーキを作って食べることはできる。
オトナの階段は、また今度ということで⋯。
クリスマスイブ当日。
駅に着くと、瑛祐くんが迎えに来てくれていた。
「おっす」
「あ、迎えに来てくれたんだ。ありがと」
「買い物してから行こうか」
「うん。そうだね」
イチゴや生クリーム、ケーキの材料を買う。
あとは⋯。この前失敗した原因は、道具が足りなかったことも大きい。
「ゴムベラとかふるいを、買っておきたいかな」
「じゃあ、あっちのコーナーかな」
日用品の売り場へ向かう。
「あ……」
偶然だと思うのだけれど、医療品売り場を通った時
、あの『0.01』とか『0.02』とか書いてあるパッケージの前で、二人して立ち止まってしまった。
「あ……」
違う。今日必要なのはゴムベラであって、この「薄いゴム」じゃないってば。
必要なものは大体買えた。
「これで、作れるかな」
「うん、大丈夫だと思う。……でも、イチゴ高かったね」
帰り道の会話が、酷くぎこちない。あのパッケージを二人で見てしまったせいかもしれない。
ここは、人生経験豊富な私から……というより、「今日は無理」だと伝えないと。
「瑛祐くん。あのね……」
「ん。どうした?」
「さっき、あの……ゴムベラじゃなくて、薄い方のやつ見ちゃったよね」
「……見て、ない、よ。大丈夫……」
大丈夫って何。まあ、瑛祐くんはまだ「待てる」ってことかな。紳士だよね。
「あのさ。私としては、瑛祐くんがその……やってみたいって言うなら、まあ、頑張ってみようかなって思ったんだけど」
頑張ってみるって、どういうことだよ。自分で言っていて意味不明だ。
「……俺も男だからな。やってみたいよ。瑛里が好きだから」
まぁ、私が好きだから、したいってのは、まぁ悪くない。
「でも、今日はダメなの。その、きちゃってるから……」
「あ……そっか。いや、その、どうしてもってわけじゃないし! それ目的で瑛里と付き合ってるわけじゃないから、えっと……」
焦って喋り続ける瑛祐くんの頬に、チュってしてみた。
「ごめんね。今日は、だから、意識しないでね」
「あぁ、わかった。でも瑛里が悪いわけじゃないから、謝らなくてもいいよ」
やっぱ、瑛祐くんは優しい。
大好きだよ。
うぅ。ガンダムネタ挟めなかった⋯。
認めたくないものだな、私のネタ切れ気味な事を。
まだだ、まだ終わらんよ。
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