94.デート
最初に映画に行った時は、「これってデートなの?」と一人で悶々と悩んでいた時期もありました。
今なら断言できる。あれは間違いなくデートだったと。
ただ、あの時は映画の出来に私のテンションメーターが振り切れてしまい、ガムヲタ全開の早口トークを繰り広げてしまった……。
ええい、このエリ・フクハラ、前回の失敗を糧に、今日の勝利を掴むのだ!
十二月に入り、風もだいぶ冷たくなってきた。
今日は少し長めの裾のワンピースに、上着はカッチリしたジャケットを合わせた。
相手は瑛祐くんなのだから、シンプル・イズ・ベストだよね。
とはいえ、ズボンだと味気ない気がしてスカートにして、万が一に備えて下着は一番可愛いやつを選んだ。……万が一というか、億が一もなさそうだけれど。
あれから何度か下着を買いに行って、お気に入りもいくつか増えた。サイズはまだ「進化」の兆しを見せないけれど、可愛いラインナップは揃いつつある。
それはさておき、瑛祐くんだ。
駅の待ち合わせ場所には、彼の方が少し先にやってきていた。
私服姿の瑛祐くんは、やっぱり格好良い。
目指すは、例のショップ。
電車を乗った先、賑やかな商店街の一角にその店は建っていた。
最近、こういう「町のおもちゃ屋さん」は姿を消しつつある気がする。
私たちが初めて出会った電気量販店や、大型のトイショップに押されて、個人店はどんどん少なくなっている。そんな中でも、このショップは定期的にイベントを開くなどして、孤軍奮闘しているらしい。
うん。頑張ってほしいよね。
手を繋いだまま、お店に入る。
中央の特設スペースには、巨大なジオラマが鎮座していた。
まさに、あの連邦軍本拠地のアニメシーンが、そのまま現実へと飛び出してきたかのような……。
「あ、あれだね! 凄い……!」
繋いでいた手を思わずほどいて、私は駆け出してしまった。
ガラスケースに手をつき、食い入るように見つめる。
あ、あれだ。瑛祐くんが作ったヅゴッグとヅムの名シーン。机の上で見ていた時よりも、ジオラマの中に置かれると圧倒的な臨場感がある。
「やつがいる……。『ま、間違いない。奴だ、奴が来たんだ!』」
私には、コックピットで不敵に微笑むシア少佐の姿がはっきりと見えるよ。
あ、あっちには私の作った量産型ヅゴッグがいる! ガムキャノンの両腕を押さえてるじゃない。頑張れ、私のヅゴッグ!
ハヤトなんてやっつけちゃえ!
「瑛祐くん、あれ私のヅゴッグだよね」
「うん。そうだね」
「はっはっはっ、引きちぎってやる!」
「……ん、エリさん?」
ハッとした。……ごめんなさい。自分が作ったプラモだと思うと、つい、つい感情移入して力が入ってしまった。
奥から、アロハシャツを着たお兄さんがやってきた。店長さんかな。……その格好、もう外は冬ですよ。
「おー、藤井君。来たね!」
「こんにちは。凄く良くできてますね!」
「藤井君には無理を言って納品してもらったからね。ありがとう、良いものができたよ。……あれ、もしかして彼女さん?」
「はい。あの、実は彼女にも手伝ってもらったんです」
「あ、そうなんだ。それにしては全部にクオリティ良いね……あれ? どこかで会ったことあるかな?」
……そういう口説き文句、昔ありましたよね。私のハートは瑛祐くんに撃ち抜かれているので、無駄ですよ。……って、違うか、以前会ってるもんね。
「あ、Dモンカード大会の時かもしれません。準優勝した福原洸也の姉です」
「あ、洸也君のお姉さん! どおりで美人なわけだ。洸也君も格好良いしね」
「まあ、店長さん。お世辞がお上手なんですね。まあ、洸也は可愛いんですけど」
「ははは。ところでさっき、『引きちぎってやる』とか言ってた?」
「あ、はい。あのヅゴッグ、私が作ったのでちょっと気持ちが入っちゃいました。でも、あれって本来は北欧基地のシーンだったような……」
「いやー、そうなんだけど。ヅゴッグが凄く良くできてたから、何か活躍させたくなってね! まずかったかな?」
そんなの関係ねぇよ。良いものは良い!
私は問題ないと首を横に振って答えた。
「やっぱり店長さん、お世辞が上手です。でも、お世辞でも嬉しいです」
「全部、藤井君が作ったのかと思ってたよ」
「はい。瑛祐くんが教えてくれたので。まあ、瑛祐くんが作ったようなものです」
店長さんは、瑛祐くんに向かってニヤリと笑った。
「可愛い彼女ができて良かったね。しかもガムヲタなのがポイント高いよ。どこで捕まえたの?」
捕まえたって、人をDモンみたいに言わないでほしいなぁ。Dモンは可愛いけどね。……そっか、店長さんにとって私はDモン扱いなのかな。
「あ、そうだ。お姉さん。ここ見てよ。これこだわったとこ」
待機中のマッガイが岩と岩に挟まれて橋みたいになって、子どもたちが渡ってるシーンだ。
「凄いです。子どもたちが見えるようですね」
「あとなー。あのガムダンとシア専ヅゴッグのバトルシーン作りたかったけど、難しくて諦めたよ」
「まぁ、『更にできるようになれば』、良いですね!」
「うぉ。お姉さんわかってるね!」
「店長さん。ところで半袖アロハって、もう『寒い時代になったもの』ですか?」
「おぉー。コレ、ツッコミ待ちだったんだよ。お姉さんにやられたよ。ご褒美にステッカーあげるね」
「やったー。瑛祐くんやったよ。って、瑛祐くん?」
「⋯っくは。なんか話が分からなくなって意識が遠くに行ってたよ⋯」
テンションが上がりすぎて、また瑛祐くんを置き去りにしてしまった気がする。
「人は、同じ過ちを繰り返す……。まったく……!」
私の頭を冷やす為にも、アクシズ落としを敢行しなければ⋯。
私が粛清しようというのだ!
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