90.変態仮面
「前、遊園地に行った時、お化け屋敷でもしお漏らししてたんなら、私のパンツ貸しても良かったんだよ」
「……何の話だよ。って、遥香先輩、もしかして話したのか?」
「……あ、やっぱ、遥香先輩のパンツ穿いたんだ」
「……カマかけられた? ……幼稚園の時、楓さんに渡されたのがそれだったわけで、って違う!」
「でも、これで弱みはもう無いね」
⋯。
「待て待て。最悪、瑛里には知られても良いかなって思ってた。でもクラスの奴らには知られたくない……」
「確かに。ゆかりに言ったら、すぐにみんなに伝わっちゃうよ」
「そしたらあることないこと広まって、俺が今の遥香先輩のパンツを穿いたことになったり、パンツを頭から被ったことになったりするんだよ!」
「ははっ。そんなこと……」
二人で笑い合っていた、その時だった。
「藤井が、相沢先輩のパンツを被って、ブラジャーを咥えてた……?」
近くに、ゆかりがいた。
しかも「ブラジャーを咥えてた」って、勝手に創作が入っているし……!
「あ、ゆかり。あの、違うから!」
瑛祐くんの顔がみるみる真っ青になる。
「その、平川。違うんだよ!」
「え、じゃあ、藤井はなんで相沢先輩のパンツ被ったの?」
結局、誤解を解くために一から説明する羽目になった。
「瑛祐くん。ゆかりがわかってくれて良かったね」
私が笑いかけると、瑛祐くんは何とも言えない微妙な表情を浮かべた。
「でもさ。さっき平川に説明するのに、全部言っちゃってないか?」
「ん? だから、瑛祐くんがお化け屋敷でお漏らしして、遥香先輩のパンツを借りたって……」
「だからさ、それが全部なんだって! なんなら『幼稚園の時』とか『親が勝手に』とかの大事なワードが抜けてるだろ!」
「あ……」
「ゆかりぃ〜!」
「平川〜っ!」
二人でゆかりを追いかけて再説明を試みた。けれど、無理だった。彼女、もう他の人に話し始めてるし……。
次の日。瑛祐くんの黒歴史のページには、「変態仮面」という新たな勲章が刻まれることとなった。
落ち込む瑛祐くんに、「あの、変態仮面でも私は好きだからね」と伝えると、彼は少しだけ立ち直った。
「そうだよな。みんな面白がってるだけだし、なんなら『可愛い彼女がいる』って嫉妬まであるもんな」
……可愛い彼女。えへへ、嬉しいなぁ。
でも、ゆかりにはちゃんと怒っておいた。自分の彼氏が変態呼ばわりされて、平気でいられるわけがない。
「流石にまずかったって、ゆかりが火消ししてるみたいだけど……。これで『瞬殺の魔術師A君』が上書きされたんじゃない?」
「……変態仮面よりはマシだよ。なんて言っても変態仮面は嫌だよ」
「あれ、実は『瞬殺』の方は気に入ってた?」
「……怒るよ?」
幸い、文化祭という一大イベントを前に、この噂はすぐに沈静化したのだった。
そして、文化祭当日。
オムライスの中身は、仕込みを考えて炊き込みご飯にしてみた。
注文が入ったら卵を焼いて包むスタイル。薄焼き卵を作り置いておく案もあったけれど、やっぱり出来立てのふんわり感がないと味気ない。
幸い、オムライスを包める要員が数人確保できたので、厨房係で順番に回せるようになった。
一年三組、『美味しくなーれ♡オムライス店』。
やはり美少女カルテットの威力は抜群で、彼女たちを目当てにお客さんが詰めかけてきた。
……まあ、全員彼氏持ちなんだけどね。
学年ナンバーワンの優香もラグビーマッチョの渡瀬君に落ちたし、ギャルの紗友里には他校の彼氏がいるらしいし。美佳はサッカー部のエース・久野君との公認カップルだし、ゆかりに至っては佐伯君と「最後まで」いっている……。
でも、みんな夢を見にくるんだね。
そんな下心混じりのお客さんたちからも、
「期待してなかったけど、このオムライスめっちゃ美味い!」
「あれっ、本格的……」
「おかわりいけるわ、これ」
と、味の方でも高評価をもらえたのは嬉しかった。
さらに、イケメンの久野君や佐伯君までもが給仕に加わり、「美味しくなーれ」なんてやるもんだから、今度は女子生徒まで殺到して大繁盛。
みんな、最初は恥ずかしがってたけど、お客さんのノリも良くて、楽しそう。良かった。
だけど、お客さんが途切れないので、私は結局、厨房に入り浸りになってしまった。
けれど、瑛祐くんは演劇部の準備で忙しいし、文化祭デートができずにぼっちになるくらいなら、ここでフライパンを振っている方がずっと楽しい。
私は瞬殺です。
いや、ナニがとは言わんが⋯。
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