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87.戦いとは


「瑛祐。約束、覚えてるよな!」


その美女が、まるで少年のようなぶっきらぼうな口調で話すと、それはそれで凄い威力というか……。

メガ・バズーカ・ランチャー的な? ズドンと、魂を撃ち抜かれるような衝撃があった。


「約束って、なんですか?」

「演劇部に入らないんなら、せめて文化祭は手伝うって言っただろ!」

「それ、相沢先輩が勝手に言ったんじゃないですか」

「あー、そんなこと言うんだ。じゃあお前がアレだったこと、バラすぞ」

「瑛里は、俺が『A君』だったこと知ってますよ」


「じゃあ、お前が幼稚園の肝試しの時……」

怖くて抱きついちゃったのかな。まだ子供だったのだろうし、それは仕方ないよね。

「それも、知ってるね」

少し身構えた瑛祐くんに、私は余裕を持って笑いかけた。


「……誰だ、お前。もしかして、瑛祐の彼女か?」

「そうだよ。相沢先輩、そういうことだから。じゃあ」

……瑛祐くん、ちゃんと「彼女」だって認めてくれる。そういうところ、本当に好き。


「知ってるって、肝試しの時にお漏らしして、替えのパンツがなくて、わた――」

「だぁーっ! それ以上はダメだって! それに幼稚園の時のことなんて、ズルいだろ……!」

「じゃあ、小道具と大道具作り、協力してくれるよな?」

「……はい、わかりましたよ。瑛里、いいよな?」


私に聞かないでよ。


あ、そうか。文化祭の手伝いで忙しくなると、約束していたプラモの全塗装レクチャーが遅れるからか。律儀なやつ。

そういうところも、好きなんだけどね。


というか、替えのパンツがなくてどうしたんだろう。「わた……」?

((私のパンツ、穿かせた……?))

それはヤバい。瑛祐くんにとっては、一生私には知られたくない黒歴史に違いない。


「うん、頑張ってね……」

あなたも大変だねぇ、と慈愛の眼差しを送る。

「相沢先輩って、強引なんだよ。なんかごめんな」

私たちがコソコソ話していると、相沢先輩はツカツカと近づいてきて、


「おい。昔みたいに『遥香ちゃん』って呼べよ」

「いや、もう高校生だし、先輩ですって。……じゃあ、遥香先輩で」

「ふん。まあ、いいだろ」


そう言った遥香先輩は、私の方へ向き直り、ぐいっと顔を近づけてきた。

ボクサーが試合前に威嚇メンチを切っているみたいな近さだ。

「あの……近い……」

「ふーん。可愛いっちゃ可愛い。っていうか、めっちゃ可愛いな。瑛祐が夢中になるのも仕方ない」


何その、「親父が夢中になるわけだ」的なセリフは?


「しかも、私の瑛祐に目をつけるとは。ふん、いい目をしている」


いい目をしているな……的な? というより、「私の瑛祐」って何?


「恋なんてもんは、2手先、3手先を考えて行うものだろ。まあ、今のところは貸しておいてやる」


2手先、3手先を読むのはシア様だけだよ。

って貸す? とは?


「瑛祐は、私の嫁になる男だからな。まあ、貸しておいてやるってことだ」


その後、遥香先輩は私の返答を聞くことなく、「はっはっはっー!」と豪快に笑いながら去っていった。


「相沢先輩、強烈だったろ。一学期は舞台が忙しかったらしくて、逃げ切ったと思ってたんだが……」

「そーなんだ。で、瑛祐くんはお婿さんになるの?」


じゃあ、私、お嫁に行けないね?


「なわけないだろ! 幼稚園の時、あの人、本気で自分のこと男の子だと思ってたらしくて。俺に『嫁になれ』ってさ。被害者は他にもいるし……」

「あの人、ロボットアニメが好きなのかな?」

「? いや、聞いたことないかな……」


あれ、天然で思いついたセリフなのか。凄いな。……微妙に引用元とはズレているし。


「でも、負けられないよね」

恋のライバル登場だよ。

「瑛里? 何か、勝負するの?」

「ん? あ、こっちの話」


女の戦いってやつだよ、瑛祐くん。

まあ、私のこと「めっちゃ可愛い」って言ってくれたから、悪い人ではないけどね!


楓さんからもだけど、こういうハイレベルな美女たちに「可愛い」って言ってもらうの、なんだか元男として複雑なんだよな……。


     

次の日。

私の唯一の情報源である、ゆかりスナイパーに遥香先輩のことを聞いてみた。

「あぁ、相沢先輩ね。知ってるよ」

流石は、強行偵察型ゆかり。情報網パネエよ。


相沢先輩は、天然なのでTSしてる訳じゃないです⋯。


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