86.恋のライバル
今日が九月最後の日。ジオラマ用プラモの納品日だ。
量産型ヅゴッグ、マッガイ、ゴッズ、そしてシア専用ヅゴッグと量産型ヅムの名シーン再現プラモ。
計五体の百四十四分の一スケールが、ついに完成した。
「これ、やっぱすごいね」
私は、ヅゴッグの爪に貫かれているヅムを見つめて溜息をついた。
今にも動き出しそうで、爆発しそうな臨場感がある。
「わかる? このへん、こだわってみたんだ」
傷口はどうやったのか、装甲が溶け落ちた質感や、引きちぎれたケーブルの断面が恐ろしいほどリアル。火花が飛び散っている光景さえ、私の目には見える。
……見える。私にも見えるよ。
何がって言われると辛いけれど、ニュータイプは万能じゃないのよ。
何の話って? まあ、いいです……。
ショップの人がバンで取りに来て、無事に納品完了。
走り去るバンを、二人で並んで見送っていた。
「ドナドナが流れるね」
私がぽつりと呟くと、
「ドナドナ……?」
と瑛祐くんが不思議そうに首を傾げた。
「ほら、牛さんが出荷されるやつだよ!」
「知ってるけど……なんで?」
「君には、あのモビルスーツたちの瞳が、売られていく牛さんと重ならないと言うのか……」
「ええっと、瑛里さん。あのコら、展示が終わったら帰ってくるから」
「えっ? そうなんだ。ならいいか」
二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
ショップからはお礼にと、いくつか新しいプラモのキットを置いていってくれた。
「また、いっぱい作れるね」
「そうだな。じゃあ、そろそろ全塗装にも挑戦してみるか?」
「えっ、ホントに? 教えてくれるの?」
「当然だよ。あ、でも、これから中間テストとか文化祭とかあって忙しいよな……」
「うん。バイトも冬物の撮影がいっぱいありそうだし」
「まあ、締め切りがあるわけじゃないし、ゆっくりやっていこうか」
「そうだね。それがいいかな」
その後、まあ、キスしたりとか、駅まで手を繋いで歩いたりとか、多少のイチャイチャはした。
けれど、そういうのが「日常」になりつつあり、ここで書くほどのことでも無くなってきた……気がする。
いちいちドキドキはするんだけどね。
キスしてキュンとして、
手を繋いでドキドキ。
あー、心が忙しい。
次の日。学校では文化祭の出し物についての話し合いがあった。
「本格的な準備は中間テストが終わってからだけど、クラスとして何をやるか話し合ってください」
と担任が告げる。
希望をいくつか出して、実行委員会で調整するらしい。
クラスに馴染んできたとはいえ、基本は「空気」な私としては、決まったものに従うつもりだ。
カフェでオムライスを出すか、出店で焼きそばか。それなら前世の料理スキルで貢献できそう。
教室で謎解きゲーム……。初対面の相手が苦手なコミュ障気味の私にはキツいか。
ちなみに「お化け屋敷」案が出た時、それまで空気だった瑛祐くんが必死で反対していたのが面白かった。よっぽど怖いのがダメなんだね。
結局、クラスの希望はカフェ、出店、謎解き、お化け屋敷の順に決まった。
カフェなら、美佳や優香、ゆかりと岸川さんの「美少女カルテット」が給仕したら大人気だろうけど。私は裏方で料理をしているよ……。
放課後。
いつものようにお弁当箱を片付け、一緒に帰ろうとした時だった。
「探したぜ。藤井瑛祐!」
男の子のような、ぶっきらぼうな口調。力強いけど、女の人の声。
振り返るとそこには、優香や美佳、岸川さんとは明らかに違う雰囲気をまとった、大人の魅力さえ感じる美女が立っていた。
何、その「主人公にやっと会えた」的なセリフ。
「相沢先輩……」
瑛祐くんの声が少し強張る。……え、知り合いなの?
文化祭って、ちゃんと参加したことないかなぁ。
ボッチエピソードなら得意なんだが⋯。
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