84.あの人は私達とは違う
帰り道。自転車を押す瑛祐くんと、隣に寄り添う私……。
まだ学校の近くだけれど、今日は学年の「大物カップル」が誕生したばかりなので、ちょっとくらいくっついて歩いても目立たない。
「体育祭、思ったより楽しかったね」
「うん」
「二人三脚、ちょっと恥ずかしかったけど」
「うん。そうだね」
なんだか、うわの空だな。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや……リレーでビリだったからさ」
あ、渡瀬君と優香のカップル誕生に興奮しすぎて、褒めるのを忘れていた。
「瑛祐くん、ちゃんとカッコよかったよ」
「いや、俺ビリだっただろ……。久野達に抜いてもらって勝ったけど、足引っ張ったなって……」
「でも、勝ったから良かったんじゃん」
「あ~あ、久野とか佐伯みたいに格好良いと良かったんだけどな」
私は足を止めて、彼の顔を覗き込んだ。
「あのさ。私にとって、一番格好良かったのは瑛祐くんだからね。ビリとか関係ないよ」
「……ホントに? ……なら、いいか」
「うん、いいの! いいの。瑛祐くん。⋯あの人達……運動部員は、私たちインドア派とは違うのだからね」
「瑛里、それ……またガムダンの……」
「主人公の幼馴染たちのセリフ。わかってくれて嬉しいな」
はははっ、と笑い合う。楽しい。
普通に、笑っていたんだ。
なのに、瑛祐くんが急に強ワードをぶっこんできた。
「でもさ、続編ではあの二人が結婚したんだよね?」
「ぶっ、け、けっこん……」
瑛祐くん。結婚とは……。吹き出してしまったじゃないか。
「瑛里といると楽しいし、俺の弱いとことか情けない所も認めてくれるし……」
「まあ、好きになっちゃったからねぇ」
口に出しておきながら、自分で照れてしまう。
「うん。だから、いつか僕らもできるといいよな!」
満面の笑顔でそう言われて、否定できる人がいるだろうか。
「……おぉ。結婚か……」
アキラさんとエイジの時とは違う。結婚できなくてやった結婚ごっこ。書類は当然出せなくて、指輪くらいは⋯。とか言ってたかな。
アキラさん。指輪どうせなら作ろうとか言ってたけど。あれ、どうなったんだろ。
でも、瑛祐くんとならこのまま付き合い続けたら……できちゃうんだ、結婚。指輪だけでなく、書類でも、戸籍でも、一緒になれる。
今はまだそんなこと考えられないけれど、この男、そこまで考えているのか?
高校生の恋なんて遊び半分じゃないのか。特に男なんてそんなもんだろ!
――これは戦いなんだよ、遊びじゃねえんだ!
そんなセリフ、あったっけ? 瑛祐くんは、それくらい真剣なのだな。
なら、今の私の精一杯を。
私は少し背伸びして、自転車を押す瑛祐くんのほっぺにチュっとした。
「いつか、貰ってね!」
耳元でそう囁くと、「おぅ、いつかな!」と彼は答えた。
あとは二人、笑顔になるだけ。そこからはまた、アニメやプラモの話に戻るんだ。
体育祭で少し遅くなったので、その日はそのまま別れた。
別れ際に改札で手だけ合わせるの、なんだか良いなあ。電車を待っている間も、乗っている間も余韻に浸れる。
私だって、悩み抜いてこの恋と向き合っているんだ。真剣なんだよ!
次の日。
バイトの撮影が午前中に終わり、午後から瑛祐くんのところへ。
「今から行くね〜」とメッセージを送る。既読はつかないけれど、昨日、昼から行けたら行くって言ってあるから大丈夫だろう。
万が一「何か」があっても、扉を閉めておいてもらえれば待っていますので……。
扉は、開いていた。
「瑛祐くーん、来ちゃった〜」
声をかけてから覗いてみる。もし一人で「ナニ」かしていたなら、今ゆっくり入るから身なりを整えてくれ。
「入るね〜」
奥の部屋で座布団を敷いて、瑛祐くんが横になっている。……寝てる?
夏の午後、お昼寝にはちょうど良いもんね。
前世と合わせれば五十五年以上生きてきて、十六歳の男の子なんて、子どもはおろか孫でもおかしくないのだが……。
寝顔を見ると、なんだか可愛くて、愛おしくて。
いつもの頼りになる瑛祐くんじゃなくて……。
えいっ。キスしちゃえ。
チュってすると、「うぅ」と唸って、彼がゆっくりと目を開く。
「おはよ」
私は、笑顔で声をかけた。
攻撃力抜群なはず。
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