8.お弁当渡すだけなのに。
「おす!」
「……。」
登校中、なぜか男子に声をかけられた。
とりあえず会釈だけして通り過ぎる。
「よっ!」
「……。」
今度は笑顔だけ作って流す。
背後から
「――破壊力〜!」「――キュン死するぜー!」
なんて騒ぎが聞こえてくる……。
(登校中に何かのゲームやっているのかな? )
挨拶してくれた理由は謎だが、最近の若者のノリはよくわからん。
教室に入ると、隣の藤井くんは先に来ていた。
「あ、藤井くん。おはよう」
「おぅ。おす」
二限と三限の間の休み時間。私は意を決して彼に話しかけた。鞄の中の、普段より重いお弁当箱が気になって仕方ない。
「あのね。今日なんだけど……」
「あ、プラモだよな。放課後な。」
あ、いや、そうじゃなくてお弁当の件なんだが……。
言いかけた瞬間、
「おーい、フジいー。ちょっと来い!」と、朝の男子たちに藤井くんが連れ去られてしまった。
渡しそびれたけれど、本番は昼休みだ。そこで渡せばいい。
戻ってきた藤井くんに事情を聞くと、「なんか『同盟』を組まされたらしくて……俺にもよくわからんが」と困惑している。
(やっぱりゲームのギルドか何かかな。面白いんかな、それ)
そして、運命の昼休みになる。
四時間目のチャイムが鳴ると同時に、私は彼を呼び止めようとした。
「あの、よかっt――」
勇気を振り絞った私の小さな声は、
「藤井ぃ! メシ行こうぜ!」
「お、わかった。行くぞ」
男の子の大きな声にかき消された。
朝の『同盟』のメンバーが乱入してきて、藤井くんを連れて行ってしまった。
……。行っちゃった。私のお弁当、どうしよう。
結局、いつものように一人、中庭で弁当を広げる。
「うまく渡せるといいわね」
というお母さんの予言。まさか渡せないことまで、見越していたのか? あの人、エスパーなのかな。
……もし心まで読めて、私の中身がおじさんだってバレたら、こんなに可愛がってはくれないだろうけどね。
お弁当、余っちゃったな。涙が出そうなのは、きっとボッチだからだよ。それか、お母さんへの感謝か。
午後の授業。昼食後の眠気にうつらうつらしていると、隣から「ツンツン」とメモが回ってきた。
授業中の手紙回し。中学の時に見たやつだ。
自分を指さして「アタシへ?」と口パクで伝えると、藤井くんはシーっと静かにする合図をして頷いた。
『同盟のせいで一緒に帰れん。この住所に来てくれ。あと俺のID 〇〇〇〇』
なるほど、同盟の活動のせいで一緒に帰れないのか。
休み時間にさっそく彼を登録する。
家族とバイト先以外で連絡先を交換するのは、これが初めてだ。
(「こんなの初めて」なんて、冗談を言ったら喜ばれるかな……なんてね)
(よろしく)とだけメッセージを送ると、彼はすぐに気づいて小さく笑った。
(――なんかゴメンな。案内したかったんだけど、それはそうと、連絡先交換しちゃって良かった?)
(――大丈夫。でも、家族とバ先以外で初めてだよ〜)
と打ってから、慌てて消した。「初めて」は女子高生としては重すぎるだろうか。
(――大丈夫。迷ったら連絡するね)
これで良い。
(――おう。最悪、あの電気屋から近いから、そこで)
(――あ、じゃあ、もう最初から、そこで待ってる。)
絵文字もスタンプもない、ぶっきらぼうなやり取り。
でも、最近の若者の略語や絵文字についていけないおじさんな私には、これくらいが一番心地いい。
放課後。待ち合わせの家電量販店。
おもちゃコーナーで、真剣に何かを選んでいる男の子の後ろ姿を見つけた。
何かが始まる。そんな予感。
ワクワク、ドキドキ、そしてフワフワ。
鞄の中のお弁当は、今朝よりもずっと、温かい重みに感じられた。
何かが始まる。そんな、気持ち。
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