78.金ちゃんの憂鬱
瑛祐くんのアトリエの奥の部屋には、新しい住人がいた。
夏祭りの時に、連れて帰ってきた金魚くんだ。
※
「じいちゃん、アトリエで生き物は飼えんって言ってたよな」
塗料が飛び散って水槽に入ったら一貫の終わり。俺、死んじまうわな……。という訳で奥の部屋が我が住処となった。
でも、このご主人。
彼女がいるくせに、いつも一人で頑張っておられる。
彼女の名前を呼んで、「大好きだ」なんて叫んで。
……まあ、そんなことはいいから。早く餌を入れてくれ!
それなのに、本人を目の前にするとヘタレで……。
もっとこう、ガッといけよ。ガッと。
いい感じだと思うんだがな。もう一押しだご主人様。一度くらい、ヒトの「行為」ってやつを拝んでみたいんだよ。
そんなことより、餌だ。餌を入れろって!
でも、たまに落ち込んでいるご主人を励ましたりして、いいメス(彼女)じゃねぇか。大切にされているんだな。ご主人への好意にあふれてる。そりゃあ大切にもするか⋯。
……あぁ。今度は自分たちだけで、ケーキ食べてやがる。
俺にも、ほら、餌を……。
あ、彼女さん帰りましたよ。……おい、ご主人どこへ行く? 餌を入れなさい!
あ、帰ってきた。そっか、駅まで送っていったんだな。
じゃあさ、次は俺に餌だよな?
あぁ、ご主人。また一人で始めてる……。若いなぁ。
「うぅ……瑛里、好きだ〜!」
おぉ、終わったか。
よし、今度こそ……。
おい、まずは手を洗え。洗ってねぇだろ。
その手で餌に触るんじゃねぇ! おい、そのまま餌をつまんで入れやがった。
……クソっ、不味い! 変なニオイするし。
でも腹が減ってるから食うしか……。グググッ。覚えてやがれ。
「あれ、何かあんまり食べないなぁ」
……誰のせいだよ!
*
なんだかあの金魚、すごい見てくる気がしたけれど、気のせいだよね。瑛里になって、他からの視線が気になるようになってる?
ヅゴッグの汚しは完成して、今はつや消しを吹いて乾かしている。プロっぽい仕上がりになりそうで楽しみ……。
家に帰ると、洸也の友達が遊びに来ていて賑やかだった。
「ただいま……」
「あ、瑛里。おかえり」
「あれ、航介くんが来てる? あと女の子の靴があったような……」
「ちょっと、航介くんの両親が用事あるそうでね。お姉ちゃんの詩織ちゃんも預かってるのよ」
「あ、ねーちゃん。おかえり〜」
「こんちは〜」
元気な航介くんと洸也を見守る美少女が一人。
「あ、詩織ちゃんだっけ?」
声をかけると、顔を赤らめて答えてくれた。か、かわういぃ。
「はい……お姉さま」
ん? お姉さま?
「そういえば、浴衣を買いに来てくれたよね。ありがとう。おかげで大成功だったよ」
「はい……!」
か、かわういぃ!
くいっとお母さんに引っ張られて耳打ちされる。
「詩織ちゃん、あんたに憧れてるらしいわよ」
「えっ、私に……?」
「雑誌のモデルやってるでしょ。格好良いんだって」
「……家の私を見たら、幻滅しちゃうかなぁ? でもこれ、洸也とゲームする流れだよね」
待ちきれず、洸也が叫ぶ。
「ねーちゃん! 早く着替えてゲームしようぜ!」
「私が前に用意した部屋着があるでしょ。それに着替えなさい」
ロリファッションじゃん、それ! それじゃ憧れのお姉さまじゃないだろ!
「絶対イヤ。制服のままでいい」
テレビに向かうと洸也と航介君が
「よしっ。これで四人プレイできるな」
と楽しそう。
「詩織ちゃん、ゲームできるの?」
できないって聞いていたけれど。
「あ、できます。お姉さまが上手だと聞いて、洸也くんに教えてもらいました」
えー、何その努力。本当に私のこと憧れてるの?
そんな良いもんじゃないよ……なんたって中身はオッサン。
「楽しかったね」
お迎えが来た詩織ちゃんに声をかける。今、中学一年生らしい。可愛いよなぁ。
「あ、はい。……また来てもいいですか?」
「あ、うん。もちろん」
顔を少し赤らめて帰っていった。くっ、私に元の「力」があれば……いや、これは流石に犯罪か。
「のう、洸也よ」
「ん、ねーちゃん何?」
「お主……詩織ちゃんのことが好きなのだな?」
「バババッ! そんなことねえし……!」
取り乱す洸也。可愛い奴め、バレバレだよ。
「好きな子の苦手なゲームを強要してどうするよ」
「えっ、楽しかったからいいじゃん」
「それでは、好きになってもらえんぞ」
洸也は少し考えて言った。
「大丈夫。ねーちゃんと会えるってので、俺のことも好きだって……」
ん? 弟よ、それで良いのか?
あと、詩織ちゃん。意外と小悪魔なんだな。
洸也はおバカだから、お手柔らかに頼むよ……。
金魚って、懐くんですよね。
餌欲しいだけかもしれないですが⋯
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