74.セルフ式バーニア
今日で八月も終わり。夏休みも終わり。
「瑛里ちゃん、夏休みは来てくれてありがとう。モデルのお仕事もそうだけど、他にもいろいろ手伝ってくれて助かったわ」
編集のサクラさんがねぎらいの言葉をかけてくれた。
パッと見はイケメンのお兄さん。中身は私よりも断然乙女な、瑛祐くんの従兄弟⋯いや、従姉妹。
「いえ。勉強になるし、楽しかったです」
「それはそうと瑛里ちゃん、最近めっちゃ可愛くなっているわね。以前はクールな表情が良かったんだけど、表現が広がっていて使い甲斐があるわ。高評価よ」
「ありがとうございます」
「瑛祐とも順調みたいね。夏祭りの時の、瑛里ちゃんの恋する眼差し。良かったわよ。ほら、これプリズムのインスタに載せてるやつ」
例によって自分では別人に見えるけれど、確かに可愛く撮ってくれている。
「ちょっと恥ずかしいですね。あ……サクラさんに聞くのも変な話なんですが」
「ん? なに、答えられることなら何でも聞いて」
「瑛祐くんの誕生日って、もうすぐなんですか?」
「え? あの子、言ってないの。そうね、確か明日じゃなかったかしら。……あ、やっぱりそうだわ。一年で一番憂鬱な日。二学期が始まる日だったから憶えてるわ。それと⋯、いやそれは良いや。明日よ」
「明日……! 急だなぁ。でも、過ぎてなくて良かったです」
サクラさんのちょっと引っ掛かる言い方は気になったけど。今思えば、この時ちゃんと確認してれば良かったのか⋯。
プレゼント。何が良いのかな。
やっぱり「ア・タ・シ」が一番なんだろうけれど、まだそこまでの覚悟はできていないし。
うー、なるようになるのか?
この前お母さんにもらった「0.01」を差し出して、天井のシミでも数えていればいいのかな。でも、瑛祐くんだって初めてだろうし。上手くできないかもしれない⋯。
……ちょっと待とう。落ち着け。
ネタにされていただけで、瑛祐くんだってまだそんな気はないかもしれないし。
高一の時……もう五十年前になるのか、男だった俺と友達はみんな、……盛っていた。
いやいやいや、今の子はそんなんじゃない、よね?
ひとまず、帰り道におもちゃ屋でザフのキーホルダーを買った。自分の分も買ってお揃い。
私のは、当然シア専用の赤いザフ。
瑛祐くんには、量産型の緑のザフ。
ふふふ、気に入ってくれるといいな。
あとは、「ア・タ・シ」的な、何かをしてあげたいとは思うのだけれど……。
とりあえずケーキを焼く? でも持っていくのが難しいか。明日は始業式だけだからお弁当もないだろうし。
……クッキーでも作っていくか。
お菓子作りは、単純作業で余計なことを考えなくて済む。
家に帰り、晩ご飯の後にクッキーを焼いた。
「あ、ねーちゃんのクッキー! いただきー」
洸也につまみ食いされたけれど、いっぱい作ったから大丈夫。
「どう、洸也。おいしい?」
「ウマい! ねーちゃんのクッキーが不味かったことなんてないよ」
嬉しいねえ。洸也君大好き。
「あ、お父さんもお母さんもどうぞ」
「夜はあんまり食うと良くないんだが……美味い。瑛里、流石だな」
お父さんは上機嫌だったのに。
「明日、瑛祐くんに持って行くの?」
ってお母さんが聞くもんだから、
「うん。なんか誕生日らしい……あ」
お父さんのご機嫌がみるみる悪化する。
「ふーん。そうなんだ。親には祝ってくれたことないのに……」
何その「親にもぶたれたことないのに」みたいな口調。ていうか、いつもやってるじゃんね。
「なにそれ。いつもケーキ作ってるじゃん。もう作らないよ?」
「あ、ごめん。……って、なんで俺が謝ってるんだ。じゃあ……」
「うん。お父さんの誕生日は、もっと豪華なケーキにするからね」
「おぅ。楽しみにしておくよ」
……。ご機嫌が直った。これなんて言うの、チョロい?
クッキー作りで思考を先延ばしにしたけれど、お風呂に浸かったら、また考えが回りだした。
お風呂なので、当然、裸である。鏡に映る自分の姿を見る。キレイ…だよねぇ。変じゃないよね!
問題はいくつかある。まず、瑛祐くんがこの姿で興奮してくれるのか。
エイジである私が思う。男の子なら好きな女の子なら、どんなでも大丈夫だよ。
また、この身体が瑛祐くんを受け入れられるかどうか?
エイジである私が思う。……それは、知らん。
⋯⋯役立たずめ!
エイジの時は溜まるものがあって「日課」があったけれど。
瑛里になってから、やり方も分からなければ、気持ちいいとかも感じなくて……どうなんだろうね。
瑛祐くんの笑顔。繊細な手。そして、優しい声。
昨日、奥の部屋でしていたこと。
気持ちの良いキス。
ん? ちょっと……。あれ……?
瑛祐くんを想いながらだと、なんだかフワフワしてきた……。
その後の事は、ご想像にお任せします⋯。
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