68.親父にもぶたれたこと無いのに
駅から家までは、ほんの数分。
二人で手を繋いで歩く。ちゃんと、キスできたよね。
もっとひっついていたい気分ではあったけれど、まあ、帰らないとね。
「この辺でいいよ」
「だめ。瑛里を一人にできないよ」
「え、どういう意味?」
「こんな可愛いコ、一人で歩いてたら危ないからね」
……可愛い、か。嬉しいけれど、人を危険物のように扱わなくても。
「家、ここだよね」
この前、自販機の前で話したのを思い出す。あの時は自転車で会いに来てくれたっけ。思い出すとキュンとする。
「アイサツしておいた方がいいのかな……」
「いや、いらないって。大丈夫だよ」
エスパー母とリア充弟に何を言われるかわからないし、もう遅い。お父さんが怒っちゃうかもしれないし。
家の前で少し話していると、ガチャリと扉が開いた。
「おぅ、瑛里。そろそろかと思って、駅まで行くところだったよ」
「あ、お父さん。ただいま……」
ん。なんだか口調が強めかな。心配させちゃったね。……って、もし駅まで来てたら、あのキスを見られてピンチだったよね。
隣に目線で合図しようとすると、瑛祐くん、固まってる?
「おかえり。楓さんから聞いてるよ。ボディガードも付けたから大丈夫だって」
「……は、い。……。えっと、遅くなってしまい、ごめんなさい」
瑛祐くんがガチガチだ。ちょっと面白い。
「ありがとう。送っていってあげたいが、ちょっと飲んじゃってな」
「あ、いえ! まだ電車ありますので……」
「そうか、ほんと悪かったね。瑛祐くんだっけ? 同級生なんだって?」
「あ、はい。あの、その、お付き合いさせていただいてましゅ!」
あ、いらんこと言わなくていいし、噛んじゃったね……。でも、ちゃんと言ってくれて、嬉しいかも。
「……ぬ。君たちは、まだ高校生だ……。まあ、いい。瑛里、もう入れ。瑛祐くん、気をつけて帰りなさい」
「はい。……失礼します!」
ん。いつも優しいお父さんが、なんだか変だ。
「じゃあね。明日、お昼くらいに行くよ。ありがとうね」
「おっけー、じゃあな」
瑛祐くんは駅に向かい、私たちは家に入った。
「お父さん、あのね」
男親になったことはないので気持ちは分からないけれど、娘の彼氏なんて敵認定されちゃうよね。
「その、なんだ。あそこで誤魔化すようだと殴っていたところだけどな」
……えー、怖い。でもこのお父さん、優しすぎるから殴られたことなんてない。
いつの日か誰かにぶたれたら
「ぶったな! 親父にもぶたれたことないのに!」と言える日を夢見ていたのに。⋯今ぶたれたら「親父にぶたれちゃった」と言うしかない。原作改変だ⋯。
「いや、瑛祐くん、良い人だよ。優しいし」
「……。お前は、あのスペースなら誰にも見られんと思っているかもしれないが……」
「ん、何の話?」
「あー、もう! クソっ。お前が瑛祐くんを好きで、あいつもお前を大切に家まで送ってきてくれた、それはわかった!」
「うん……あのね、あんまり怒らないで。ってか、あのスペースって……」
見てたの? マジかよ。
ホッペとかツンとかじゃない、本当の意味でのファーストキスだったんだけどな……。
*
【瑛祐のターン】
帰りの電車、一人になると怖くなってきた。おっかねえ。
……ちゃんと俺からキスできて、嬉しくて、幸せで。「俺、今日、死ぬのかな。死んでもいいかも」なんて思っていたら。
あの時、ちょっと見られたかもって思った人の服装と、瑛里のお父さんの服装が同じだった……。顔までは見えなかったけれど。
俺、死んだな。
まだまだ生きて、瑛里といっぱい色んなことしたかったんだけどな。
まあ、いい。ハッキリ「付き合ってる」と言えたはず⋯。
殴られると思ったけれど、「ぶったな! 親父にもぶたれたことないのに!」なんて言ったら、瑛里は喜んだろうな。
ただ、親父代わりのじーちゃんには、ぶたれたことあったっけ。
今度、瑛里にその話をして、「じーちゃんにはぶたれたことあるけど、親父にはぶたれたことない」って言ってみたい。まあ、親父なんて会ったこともないんだけど……。
するとマイハニーは、きっと満面の笑顔になったあと、ポーズをとりながらこう言ってくれるに違いない。
「それが甘えなんだ! 殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」って。
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