67.恋の片道切符
「片付け、終わったね」
二十二時前、ブースの片付けが終わり、後は車への積み込みだけになった。
「あ、瑛祐。十時過ぎちゃうから後は任せて。曜ちゃんもいるから大丈夫よ」
曜一朗さんやKaede、プリズムの社員たちがテキパキと動いている。
「瑛里ちゃん、本当にありがとう。ゆかりちゃんにもお礼しなきゃね」
「ゆかり、Kaedeさんの服、めちゃくちゃ気に入ったみたいですよ」
「あ、じゃあ今度、新作をプレゼントするって伝えておいて」
「ありがとうございます。ゆかり、喜びそう」
……。今頃あのイケメンの「百人斬り」、その百一人目になって喜ばされているかもしれないけれど。
佐伯くん、本当に一筋でやるんだよね? ゆかりはもう大切な友達なんだから、泣かせちゃダメ、怒るからね。もう一度釘を刺しておかなきゃ。
「瑛祐、瑛里ちゃんを送っていきなさい」
「おっけー。じゃあ、行こうか」
「お疲れさまでした」
帰り道。駅までは歩いてすぐだけれど、瑛祐くんが付いてきてくれた。
「楽しかったね」
今日はモデルだったけれど、メイクはほとんどしていない。「浴衣を着てこんな感じになれます」というのがテーマだから、綺麗すぎてもダメなのだ。ただ浴衣に合わせて髪はアップにしているから、うなじが少し露出している。
「そうだ。今日のこれ、どうかな?」
くるりと回って見せてみる。
「うん、似合ってる……。か、かわいいです」
「ん。なんで敬語なん?」
ははは、と笑い合う。
改札の前。
「じゃ、……」
と言いかけて、彼が切符を買っているのに気づいた。
「俺も乗る……」
「えっ、ってもう買っちゃったんだ」
「うん、買っちゃった」
それは、たぶん「恋の片道切符」だね。
切符というのは、行きたい場所がある時に買うものだ。君が今買ったのは、私と一緒にいたいから。目的地のない片道切符なんだよ。
……やっぱり、君をここまでにしてしまった責任は取らないとな。うん、想いを受け止めるよ。
大げさだけれど、そんなことを考えてしまった。
電車は夏祭りの影響か、割と混んでいた。そうなると、隣にいてくれる安心感が違う。
「付いてきてくれて、ありがと」
ほっぺにチュくらいはしたい気分だけれど。
「なんかさ……ナンパされたって聞いたよ」
「うん。ゆかりがね、可愛すぎたんだよ」
「いや、俺からしたら瑛里なんだけど……。でも、俺じゃ、佐伯みたいにできないから」
「ん? 大丈夫だよ。でも佐伯くん、カッコよかったね」
……。いや、違う。そんな事言いたいんじゃない。
「俺……。あいつみたいにカッコよくないし、強くない。こんなんじゃ瑛里を守れないなって」
……ん?
「だから大丈夫だってば……」
「瑛里も不安だよな。俺みたいなインドア派じゃ……」
「瑛祐くん」
「プラモ作るくらいしか……」
「だから、瑛祐くん!」
「あ、えっ。ごめん」
「瑛祐くんはさ、自分がどんなに怖くても、私を置いて逃げないよね。お化け屋敷でも、プールのスライダーでも。今日も一緒に電車に乗ってくれているし」
「うん。でもカッコ悪いとこ、いっぱい見せた……」
「それで、私には十分なんだよ!」
繋いでいる手に力を込める。しっかりと受け止めてくれる。
改札を一緒に出た。出たところに、人目につかない凹んだスペースがある。
ボッチは学校の中庭もそうだけれど、こういう場所を見つけるのが得意なのだ。
「こっち」
「うん」
「ねぇ。ここなら誰も見てないよ」
「えっ?」
「送ってくれて、ありがと」
「うん……」
瑛祐くんの胸に手を当てて近づく。彼の手が私の肩と腰を支える形になる。
優しく抱かれて、心地よい。ずっとこうしていたいな……でも。
「ラブコメなんかだと、花火の下で……なんだけどね」
「う……ん。瑛里……」
「実は、ナンパされた時、本当は瑛祐くんに助けてほしかったんだよ」
「ごめん。今度は絶対、助けに行く」
「って、無理じゃん。ブース内で忙しかっただろうし、気づけないって。ニュータイプじゃないんだし……」
「ははっ。いつもの瑛里だね」
ひっつきながら笑い合う。
笑顔が見たくて顔を上げると、見下ろしている瑛祐くんと目が合った。
ずっと私を見ていてくれたのかな。
初めての時は、私からだった。
だから、今度は――。
目を瞑って、少し顔を上に向ける。唇を⋯。
ここからは、瑛祐くんからお願いね。
……何秒経っただろう。ずっと⋯。このままで良いな。
コツンとした、最初のキスとは違う。なんだか、お互いの気持ちを確かめ合うような。
とても温かくて、気持ちの良いキスができた。
ここであまり言葉はいらないですよね。
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