66.花火
Kaedeのイベントは無事完売になり、幕を閉じた。
が、完売になったことで裏方はその処理が大変である。ブースの撤去作業もあるし、夏祭りでの展示の片付けもある。
そう、仕事はこれからなのだ。
プリズムで編集の手伝いをしている私も、当然のように駆り出された。ゆかりはこれで終わり。羨ましいけど仕方ない。
「ゆかり、ありがとうね。後は佐伯くんと上手くやってね」
「うん。すごく楽しかった。また誘ってね」
上手くヤッてね……じゃないけれど。
でも、楓さんの思いとは裏腹に、着付けの手間が大幅に無くなっているこの浴衣なら、一度脱いでも大丈夫……?
ゆかりとアイコンタクトを交わす。
何が大丈夫かはわからないが、あんなイベントがあったんだ。まあ、仕方ないでしょ。きっと……いや、絶対にスルよね。若いんだし。
私と瑛祐くんは、アンケート等の書類整理。
「終わったら、あなたたちは、お祭りに行ってきてもいいわよ」
「あ、でも楓さん。撤去が大変なんじゃ」
「そうね。じゃあ花火が終わったら戻ってきてくれると助かるわ」
自然と顔がニヤけてしまう。隣を見ると、笑顔の瑛祐くんと目が合ってしまった。
「「はい!」」
花火が始まって終わるまで、あと2時間くらいか。
あんまり楽しめないかな……なんて思っていたんだけど。
「あ、瑛祐くん。焼きそば食べよ。たこ焼きのほうが良い?」
「うーん。どっちもいこう。バイト代もらったし」
右手に焼きそば、左手にたこ焼き。瑛祐くんには、リンゴ飴と焼きもろこしを持たせている。
これじゃあ手が繋げん。
「……一旦食べようか?」
「……うん」
「美味しいね」
屋台の味付けで、本当に味が美味いかと言えば、まあまあ。でも本当においしい。そうだね、料理って味とかじゃないんだよね。
「ウマいけど、俺はやっぱり瑛里のご飯の方が良いけどね」
体の内側がなんだかモゾモゾっとする。嬉しい限りですね。
「次何する?」
「まあ、瑛里と一緒ならなんでも良いけどね」
「じゃあ、お化け屋敷かな」
沈黙。
「マジか。そんなのあるのか?」
「冗談だよ、ごめんね」
「なんだよ〜。その冗談はシャレにならんから……」
「でも、私に抱きつけるチャンスだよ!」
そう言って笑い合う。
「ま、そんな事なしに抱きついてくれても良いんだけどね」
「ん? なんか言った?」
「なにも〜」
聞こえなかったみたいね。よかった。
「金魚すくいしよ?」
「じゃあ瑛里、やってみなよ」
お、金魚すくいのエーちゃんと言われた(自称)俺の腕を見せてやる。
ビリっ。あれ?
……エーちゃんの腕は、錆びついていました。
「お嬢さん。可愛いから一匹サービスだよ。どれでも選んで」
「え、じゃあ……これ」
当然、赤い金魚だよね。
「あ、でも持って帰れないか……」
「大丈夫だよ。俺も昔持って帰って、じーちゃんに飼ってもらったから。水槽とかあるよ」
おお。流石はアキラさんだ。
でも、やっぱり瑛祐くんは優しいね。
ドン、ドーン。
「花火が始まったみたいだね」
花火は、広場から見えるようになっていた。
「きれいだね」
「うん」
花火より君がキレイだ、とか言わんのかな。
でも本当にそんな事言う奴いたら、めっちゃ怪しいかもしれん。
ドーン。
ドドドド。
二人無言で花火を見る。
不思議な時間だけど、同じ時を生きているって実感が湧く。
エイジじゃ無くてエリが、アキラじゃなくエースケと生きてるんだよ。
典型的なラブコメだとキスしたりするのかな。
でもな〜。実際には、手を繋ぐので精一杯。キスもコツっとしたのが一回だけ。
繋いだ手の先を辿っていく。それは自分の一部のようだけれど、腕、肩、そして顔。
花火に照らされた君の横顔を見ていた。なんて小説の一文があったかもしれないけれど。
「ん……」
瑛祐くんの言葉が、花火の音で聞こえない。「キレイだね」とか言ったんだろうか。なら、私も言っても良いよね。耳元で。
「大好きだよ!」
と呟いた。
今まで、過去の記憶を邪魔だと思ったことは無かった。
40歳の男の記憶は、確かに私のもので、私の一部だったから。
「瑛里のペースで付き合っていこう」
と言ってくれたけど、すごくありがたくて助かったのは確かだ。
私のペース……。私の気持ちにブレーキをかけている、この記憶。
瑛祐くんの想いに応えたい気持ち。
私が瑛祐くんを求める気持ち。
エイジよ。俺はどうしたいんだよ……。
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