65.百人斬りの漢
イベントはゆかりの中学時代の友達なんかも来てくれて、順調に進んでいった。
ちょっと休憩にブースに入ると、そこは戦場だった。
「あ、瑛里ちゃん、ゆかりちゃんお疲れさま。水分取ってね。でも、あなた達の宣伝効果バツグンね! 目標の100着完売、行けるかもよ〜」
ゆかりを見ると、やっぱり可愛い。けれど実際に見て、「自分だって可愛くなれそう」と思わせる届きそうな感じが、宣伝として良いのかもしれない。
「あのコみたいなのありますか?」とか「あんな感じになれますか?」ってコがいっぱいいたそうだ。
役に立てて良かった。楓さんポイントアップだね。なんたって将来のお母様(予定)だから、仲良くしておかないと……。…って、ち、違う。まだ付き合ったばかりだもんね。
夏祭りの開始時間までもう少し。屋台は営業し始めていて、人も増えてきた。
「あ、今日佐伯くんは?」
「あ、部活。もうすぐ終わるとか言ってたかな」
なんて話していたんだけど……。
「かわいーじゃん。そんな看板どっか置いて、俺らと行こうぜ」
「だな。ちょっとメシ行こーぜ。その後祭り行けばいーしよ」
ちょっとイケイケのお兄さんたちが絡んできた。やっぱゆかりが可愛すぎるのが悪い。
「あの、私たち仕事中ですので……」
まあ、適当にあしらっておけば、ブースから誰か来るでしょ。
「いいじゃん、仕事なんて。ご飯おごっちゃうし」
「遊ぶ金なら全部出すよー」
「あの、営業妨害ですので。ゆかり、行こ」
「うん……」
ブースの中は戦場だったか……誰も気付いてくれない。瑛祐くん、ここはラブコメの定番で助けに来てくれないと!
「あれれ、どこ行くの。ちょっと待てって」
ゆかりの手を掴まれた。あ、警察呼ぶ?でも、一旦剥がさないと……。
「ちょっと、離してくだ……」
その時、男の手が逆に掴み上げられた。
「おい。人の彼女に何してくれてんだ!」
ナンパ男たちより一回りも大きな男がそこにいた。
「あ、亮くん……」
おぉ、頬を赤らめて。ゆかり、可愛すぎるよ。
「何すんだ……って」
「おい。こいつ、佐伯だ」
「え? 100人斬りの……」
「いや、あんたの彼女に手を出す気はねえよ……」
ボソボソと言い残して、男たちは去っていった。
……。
えー。何その「100人斬り」って。
昔、男だった頃、高校の時にめちゃくちゃ女癖の悪いやつがいて、「よし、今日愛美とヤるから10人斬り達成〜。お、エイジは何人斬った?」とか言ってた。ちなみに俺のビームサーベルは、未使用でしたよ(涙)。
100人……ハンドレット。撃墜王じゃん。
中学の女子全員に手を出しても足りないのでは。ゆかりに手を出すのも早かったし、高校でもヤル気か。ゆかりの為にも、早く別れさせる? ってか、もしかして私もピンチ?助けて瑛祐くん!
ああ、でも二人ギュッと抱きしめ合ってる。ギャラリーも拍手して見守ってるし。
「良かった。浴衣に着替えたりしないで、すぐに来てれば良かったよ」
180センチ超えのガッチリした体格で浴衣姿、めちゃくちゃ格好良い。
「ううん、亮くん、格好良いから許す。間に合ってくれたし」
少し涙見せて、更に可愛くなるゆかり。
「ごめんな」
キスまでしそうな勢いだったけれど。
「佐伯くん、ありがとう。ちょっと休憩にしようかな。ブースの休憩所、使っていいから、おいでよ」
そろそろ離れなさいと二人に言う。
「ああ。ゆかり大丈夫? 歩ける?」
「うん」
「歩けない」って言ったらお姫様抱っこでもしそうだよ……と思ったら。
「まあ、心配だし……」
佐伯君が、ヒョイとゆかりを担ぎ上げて歩き出した。マジか。離れるどころか、だ。
顔を赤らめて嬉しそうなゆかり。何故か沿道からは拍手の嵐。
隣を歩きながら聞いてみた。
「佐伯君、ところで100人斬りとは?」
「ぶっ。あいつらそんなこと言った? ……(喧嘩ばっかりしてた)黒歴史ってやつだよ」
「高校ではそんなことしないよね。(スるのは彼女)一人だけだよね?」
「ん? 一人……ってか、もう(喧嘩は)しないって。ゆかりもいるしね」
「だよね。もう(たくさん女と)シないよね。良かった」
「まあ、インターハイで勝ち進めたし、もう(部活)一筋でやるよ。心配いらない」
「(ゆかり)一人だけだよね。良かった。ゆかりを大切にね」
「……」
彼の大きな腕に包まれて凄く幸せは感じるけれど、なんだか致命的に噛み合っていない二人の会話に、この幸せにイマイチ浸りきれないゆかりであった。
なんだか良いなぁ。でもなー。私が助けて欲しかったよ。と思ってブースの休憩所に入ると、
「瑛里! なんかあったのか? 騒がしかったけど……って、あ!」
瑛祐くんが駆け寄ってきたけれど、お姫様抱っこしているリア充カップルを見て固まった。
「ちょっとあったけど大丈夫。佐伯くんが来てくれて。……瑛祐くん、今度あれやってみてね!」
お姫様抱っこ。佐伯くんならガッチリして安心だけど、瑛祐くんなら落ちそうで怖いか……。
「おぉ……頑張るよ!」
「ウソウソ。私重いからダメだよ。冗談」
「いや……瑛里は軽いから…。今度やらせてください」
「ん〜。どうしよっかな〜」
なんて言うけれど、いざされたらどうなることか。
あの口数の多いゆかりが、大人しく黙ってるんだもんね。
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