64.浴衣は戦闘服
夏祭り当日。
付き合い始めた男女がその仲を進展させるイベント。それが夏祭り。
だがしかし、今回の夏祭りは違う……。それは、株式会社Kaedeにとっては、戦場なのだから。
生まれて初めて彼女ができて浮かれている息子をも利用して……。めちゃくちゃ気に入ってしまった息子の初の彼女すら利用して……。
絶対に成功させる!
……。楓さんの気合いが半端ないです。
楓さんの浴衣。着やすかったし、動きやすかったな。と思ったのは確か。
その時はKaedeブランドも楓さんも知らなかったけど。
着付けがやりやすくて、さらに着崩れしにくいのは、目立たない箇所に面ファスナーやボタンがあって、着付けを補助してくれる。動きやすいのは、
「ほら、ここが伸びる。ここの生地が重なってて、こういう仕掛けよ」
解説のサクラさんが説明してくれる。
「あまり大股で歩くのは美しくないけれど、動きが制限されるって事はKaedeブランドのコンセプトに外れる」
馬にだって乗れる……っていうのが目標だったらしいです。
……。エルメスだって馬具メーカーだったんだからできるはずなんて言って……。結局、自転車が漕げるってところで妥協したみたい……。
「瑛里ぃ〜。着たよ」
ゆかりさんが、Kaedeの浴衣を着て出てきた。
「ゆかり〜。これ持って立ってるのが仕事だよ。今日の私達はモデルだからね」
「私が、モデル……!」
ん、何か、ゆかり嬉しそうだな。誘って良かった。
サクラさんが来た。
「瑛里ちゃん。いいコ紹介してくれたわね。瑛里ちゃんとの2枚看板だね」
「ゆかり。カワイイですもんね」
「あ、そういえば、瑛里ってやっぱりプリズムのモデルだったんだね」
ゆかりが聞いてきた。前、曖昧になってしまっていた。
「あ、うん。バイトなんだけどね」
「何言ってるの。瑛里ちゃんはウチのエースなのよ!」
ウインクしてサクラさんは去っていった。
エースだったら、赤い浴衣がいるのにね!
私が着た浴衣は、薄緑でカワイイんだけど、緑系統はやはり量産型って感じがしちゃうな。
ゆかりは、薄橙色。赤ってわけじゃないけど、エース機としてふさわしい色合い……。
でも、このコって、元々可愛いのはそうだったけど、こんな可愛かったっけ。そんなに目立ってなかったような。
あ、そっか、あれかな?
恋する乙女は美しい。ってやつ?
……あ、じゃあ私も可愛くなっちゃってる?
ま、エースだもんね。
「でも、着付けしてそのまま祭りに行けるってのはイイよね」
「うん。楓さんも気合い入ってるし、成功するといいんだけどね」
「えっ? 楓さんってデザイナーの?……知り合いなの。瑛里?」
「知り合いも何も……。あの人」
指さした先には、
「瑛祐。これとこれはお願いね。はい。大丈夫? やれる?」
「もう、うるさいって。出来るから。楓さんは、他にやる事いっぱいあるだろ!」
……。瑛祐くんと楓さんが親子ケンカと言うか、なんと言うか⋯。
「アレ、親子なんだよ」
「え、ウソ……。藤井君って、只者じゃないって思ってたけど……」
そう只者じゃないのよ。Dモンカードゲームマスター瞬殺の魔術師にして伝説の孫。
「A君は、伊達じゃないのよ!」
「えっ。瑛里、また……」
ゆかりが呆れたような顔をするけど、まぁいいでしょ。
私達に求められた役割は、客引き……。
お祭り会場近くの広場で、プラカード持ってイベントを紹介するのが仕事。
プラカードには。
浴衣即売会。このまま着てお祭りに行ける。
大人気ブランドKaedeの浴衣が、インスタフォローとSNS投稿で半額。みたいな案内がある。
実際に着てもらって、お祭りに行てもらって、その姿をSNSで拡散してもらう作戦らしい。
そして実際に着て、Kaedeの浴衣が可愛いと現場で知ってもらう。
「あの……。洸也君のお姉さんですよね」
「ん? あ、もしかして、詩織ちゃん」
洸也の親友の航介君のお姉さん。中学生だったかな。
「はい。洸也君から聞いて……」
「浴衣? どう可愛いしょ」
「はい。憧れてます」
握手してくれた。私を見る目が潤んでる。可愛いコ。
「そうだよね。Kaedeって良いよね」
「え? あ、……。そうですよね」
「あ、あっちのブースでやってるから、好きなの選んで着せてもらって」
「はい……。一緒に写真撮ってもらえますか?」
「ん。私で良いの? あ、SNSのやつか……。おっけー」
「やった。あ、ごめんなさい。見てきます」
「うん。じゃーねー」
ゆかりが、なんだか呆れたように見てきた。
「瑛里って、もしかして女のコからもめっちゃ告白される?」
女のコから告白? そんな嬉しすぎるイベントは知らんけど。
「……。女のコから告白なんてされないよ。私、女だもんね」
「手紙もらったり、好きって言われたり、今みたいな感じとかだよ?」
それは、小学校とかでは日常だった気がする。中学でボッチになるまでは……。
「え、そんなの昔は日常だったけど……。……女のコじゃん。告白て?」
「この乙女コロし……」
……。乙女コロしとは?
「ドラゴンころし」という大剣を振り回すファンタジー漫画あったなー。
その剣は、剣と言うにはあまりに重すぎた。だっけ。
そんなモノに転生した憶えはありませんが……。
「その女子は、女子と呼ぶにはカッコよすぎたのか……」
ゆかり。何か言って。ツッコミ待ちだよ。




