61.自分たちのペースで
プールを出て、駅に向かう。
「じゃあ、ここで。」
そう言って、煌びやかな街の光の中に消えていく二人を、私たちは呆然と見送った。行き先は、さっきゆかりが言っていた「あっち」だろう。
「……どこに行くか、聞いた?」
繋いだ手に少し力を込めて、瑛祐くんに聞いてみる。
「うん……。『お前も頑張れよ』って言われた。」
「わ、私たちは、まだ……いいよね?」
ダメって言われたらどうする。やるのか。カバンの中にある「0.01」が、急に質量を持ったかのように存在感を増していく。
「う、ん。まだ……だね。」
「……だよね。」
ホッとした。……けれど、この少しだけ残念なような、複雑な気持ちは何だろう。
「瑛祐くん。……そういうところも好きだからね」
「うん。俺も瑛里が好きだ。だから、俺たちは俺たちのペースでやっていこうな」
そうだ。友達が大人への特急券で階段を駆け登っても、私たちは一段ずつ。
あの人たちは、すでに頂上を見たことがあるニュータイプなんだ。張り合っちゃダメ!
「帰ろっか」
「うん、帰ろう」
二人で手を繋いで歩き出す。
まだ私たちは、こうしているだけで心臓の音がうるさくなるくらい、初心者なんだ。まずは、普通にキスやハグが、呼吸をするようにできるようになってからだね。
それから数日。
「できたーー!」
アトリエに、グク(青い巨星)の素組み完成の声が響く。
「お、できたね。ランナー跡も綺麗に消えてるよ」
「じゃあ今回も、コーティングして完成ですか? 師匠!」
「いや、今回は『デカール貼り』に挑戦してみよう」
師匠が見せてくれたのは、機体番号や注意書きが印刷された精密なシートだった。
「デカールってのは、こういうマークを貼るシールのこと。ほら、一気にリアルになるだろ?」
完成品の一つをもってきた。
……確かに。アニメの作画では省略されているけれど、兵器としての説得力が増す。機体番号、ぜひ貼りたい。
「よし、デカールを買いに行こう。あの電気屋に売ってるから」
……あれ? 自転車は?
私たちは当たり前のように手を繋いで歩き出す。もう私たちには、自転車はいらない。
「ま、今回は荷物がないからね」
「ふーん……」
いつもよりちょっと口数が少ない。瑛祐くん、やっぱりまだシールドが必要だったりする?
電気屋のおもちゃコーナーに来た。
「なんだか懐かしく感じるね。ここで瑛祐くんに出会ったんだ」
「あのさ……。僕たちが出会ったのは教室だよ。隣の席だったじゃん」
「……そういうことを言ってるんじゃないんだけどな。初めてまともに話したのも、ここだし。」
「それは、入学式の日に俺が勇気を出して声かけたのを、瑛里が完全に無視したからで……」
「えっ、無視? ……憶えてないよ」
「……もういいけど。あの時の瑛里、可愛かったし、結構緊張して、頑張ったんだけどな……」
「……それは、ごめん」
「まぁ、いいよ。悪気がないのはわかったし」
「あれ? 今、さらっと可愛いって言ってくれた? リピート・プリーズ!」
「……デカールどこかなぁ」
「ちょっと、逃げたな師匠!」
「瑛里が可愛いのは、今さら言うまでもないからね。……あ、あった。これだ」
しれっととんでもない殺し文句を口走って、彼はシートを手に取った。
数字や『CAUTION』といった英語、それに加えて栄光の我らが公国軍のマーク。
「これ、良いねぇ」
「うん、これをグクに貼るんだ」
MS-07の機体番号とか、めっちゃ良さそう。瑛祐くんの選択、やっぱり間違いないな。
「うん。面白そうだね。」
「ちょっと他のプラモ見ていこうか。」
「あ、瑛祐くん。次、これ作りたいかも……」
私が手に取ったのは、HGヅゴッグ。
HG……ハードゲイという前世のネタはもういいでしょ。
「そうだね。プールにも行ったしな。」
「うん。なんだか今は、水陸両用な気分なんだ……」
公国軍の水泳部。こいつもまた、おじさんの心を掴んで離さない魅力があるのだ。




