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58/92

58.装甲は0.01mm


コツンと当たっただけではあるが、初めてのチュウである。


かつてTOKIOが歌っていたあのメロディが脳内再生される。……やった、やったよ。Ah~。


……冷房、もっと効かせなきゃ爆発しちゃうよ。

だってリア充だもん。

照れすぎると妄想が捗る。

嬉しいけれど、これって恋なのよね!


「……まぁ、そういうわけで、よろしくお願いします。」

「おぅ。瑛里を彼女ってことで……いいんだよな?」

「……っ、初キス捧げても、まだ疑う!?」

これまで通りとか、お預けが長すぎたか。

「えっ…。初キス…?そ、そうなんだ。じゃ、」

「はいはい、もううるさいって。あ、プラモ作ろ。グクはどこだっけ?ザフとは違うのだよって!」


「なっ……うるさいって……あの、もう一回……」

「聞こえなーい!」

初キスは一回だけ。二回目は、また今度。


作業に戻るけれど、手元が少しおぼつかない。身体が熱いのは、夏のせいだけじゃないよね。


ランナー跡を消すためのヤスリがけ。単純作業だけど、今はそれがありがたい。


お昼には、エイジ特製レシピを再現したスパゲッティを振る舞った。

「やっぱ美味い。お店の味みたいだ」

「ありがと」


『いいトコ取りじゃねえか』――いつの日か、アキラさんが銭湯で言っていた言葉が浮かぶ。

ええ、いいトコ取らせてもらいますよ。女の子の特権も、おじさんの経験値もね。



それから数日。バイト以外の日はアトリエに通い、プラモを作って、ご飯を作って。


……あれ? 晴れて恋人同士になったよね。これこそこれまで通りじゃん?


アトリエはたまに楓さんが来るけれど、基本は二人きり。

……もしかして、「もう一回」を無視しないほうが良かった?


うーん。ここらでこちらから仕掛けるべきなのか。



そんな悶々としたある夜。お風呂上がりにリビングへ行くと、お母さんがいた。

「良かったわね」

……ん? ニュータイプの勘か、それとも楓さんネットワークか。

「うん、楽しいよ」

「今、お父さんも洸也もいないから、これ渡しておくわね」

差し出されたのは、紙袋に入った小さな箱。

生理用品? いや、それは自分で買えるから問題ない。中身を覗くと、そこには**『0.01』**という数字。

「…………。」

何の数字かって? いや、おじさんが一番よく知ってる。

『究極の素肌感』『愛を深める、世界最薄の選択』……。パッケージの煽り文句が、目に痛い。

「……まぁ、必要だと思うのよね」

「えっ、まだちゃんとキスもできてないのに……!」

「あら、そうなの?新情報だわ…。それでも、弾みってのもあるからねぇ」

「な、ないって!」


あの恋愛にオクテな瑛祐くんに限って、それはない。


「あ、でも、瑛里と瑛祐君が良かったら、孫の顔見せてくれてもいいのよ? 楓さんも『学生の間でも収入面は苦労させない』って言ってるし、家事はあなたできるし!」

「おぃ、母同士で何の話してんだよ!」

あまりに突飛な言動に、つい前世の口調が…。


部屋に戻り、0.01の箱とにらめっこする。


冗談じゃない、男とそんなことできるか! ……と、中学の頃までは男を振り続けてきた。

けれど、今は付き合っている。しかも、キスできなくて残念がっている自分がいる。

まさか、母はニュータイプの素養…。ならこのプレゼントを使う日が来るのか……? いや、ないだろ…。


まだ高校生って、子どもだもん。ないはず…。



ピコン。

スマホに通知。ゆかりさんだ。ちょっと嬉しい。

『やっほー、元気? プール行かない?』

プール⋯。水着着るのか⋯。

『……無理。』

『えー、なんでー。亮くんのインターハイ(剣道)のお祝いで行こうよ。藤井くんも誘ってるよ?』


……この陽キャどもめ。

追い打ちをかけるように瑛祐くんからもメッセージ。


『瑛里もプール誘われたよな? 楽しみだね』


……外堀が、埋まってしまった。

ゆかり、謀ったな、ゆかり。


『わかった。』


……そう返信したものの、水着がない。中学のスクール水着、入るかな。

お母さんに中学の時の水着あったけなって聞いたら、「あんた、少しはマシになったと思ってたんだけど……」と呆れられた。


……なぜだ?


坊やじゃねえ、お嬢だからな…。

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