58.装甲は0.01mm
コツンと当たっただけではあるが、初めてのチュウである。
かつてTOKIOが歌っていたあのメロディが脳内再生される。……やった、やったよ。Ah~。
……冷房、もっと効かせなきゃ爆発しちゃうよ。
だってリア充だもん。
照れすぎると妄想が捗る。
嬉しいけれど、これって恋なのよね!
「……まぁ、そういうわけで、よろしくお願いします。」
「おぅ。瑛里を彼女ってことで……いいんだよな?」
「……っ、初キス捧げても、まだ疑う!?」
これまで通りとか、お預けが長すぎたか。
「えっ…。初キス…?そ、そうなんだ。じゃ、」
「はいはい、もううるさいって。あ、プラモ作ろ。グクはどこだっけ?ザフとは違うのだよって!」
「なっ……うるさいって……あの、もう一回……」
「聞こえなーい!」
初キスは一回だけ。二回目は、また今度。
作業に戻るけれど、手元が少しおぼつかない。身体が熱いのは、夏のせいだけじゃないよね。
ランナー跡を消すためのヤスリがけ。単純作業だけど、今はそれがありがたい。
お昼には、エイジ特製レシピを再現したスパゲッティを振る舞った。
「やっぱ美味い。お店の味みたいだ」
「ありがと」
『いいトコ取りじゃねえか』――いつの日か、アキラさんが銭湯で言っていた言葉が浮かぶ。
ええ、いいトコ取らせてもらいますよ。女の子の特権も、おじさんの経験値もね。
それから数日。バイト以外の日はアトリエに通い、プラモを作って、ご飯を作って。
……あれ? 晴れて恋人同士になったよね。これこそこれまで通りじゃん?
アトリエはたまに楓さんが来るけれど、基本は二人きり。
……もしかして、「もう一回」を無視しないほうが良かった?
うーん。ここらでこちらから仕掛けるべきなのか。
そんな悶々としたある夜。お風呂上がりにリビングへ行くと、お母さんがいた。
「良かったわね」
……ん? ニュータイプの勘か、それとも楓さんネットワークか。
「うん、楽しいよ」
「今、お父さんも洸也もいないから、これ渡しておくわね」
差し出されたのは、紙袋に入った小さな箱。
生理用品? いや、それは自分で買えるから問題ない。中身を覗くと、そこには**『0.01』**という数字。
「…………。」
何の数字かって? いや、俺が一番よく知ってる。
『究極の素肌感』『愛を深める、世界最薄の選択』……。パッケージの煽り文句が、目に痛い。
「……まぁ、必要だと思うのよね」
「えっ、まだちゃんとキスもできてないのに……!」
「あら、そうなの?新情報だわ…。それでも、弾みってのもあるからねぇ」
「な、ないって!」
あの恋愛にオクテな瑛祐くんに限って、それはない。
「あ、でも、瑛里と瑛祐君が良かったら、孫の顔見せてくれてもいいのよ? 楓さんも『学生の間でも収入面は苦労させない』って言ってるし、家事はあなたできるし!」
「おぃ、母同士で何の話してんだよ!」
あまりに突飛な言動に、つい前世の口調が…。
部屋に戻り、0.01の箱とにらめっこする。
冗談じゃない、男とそんなことできるか! ……と、中学の頃までは男を振り続けてきた。
けれど、今は付き合っている。しかも、キスできなくて残念がっている自分がいる。
まさか、母はニュータイプの素養…。ならこのプレゼントを使う日が来るのか……? いや、ないだろ…。
まだ高校生って、子どもだもん。ないはず…。
ピコン。
スマホに通知。ゆかりさんだ。ちょっと嬉しい。
『やっほー、元気? プール行かない?』
プール⋯。水着着るのか⋯。
『……無理。』
『えー、なんでー。亮くんのインターハイ(剣道)のお祝いで行こうよ。藤井くんも誘ってるよ?』
……この陽キャどもめ。
追い打ちをかけるように瑛祐くんからもメッセージ。
『瑛里もプール誘われたよな? 楽しみだね』
……外堀が、埋まってしまった。
ゆかり、謀ったな、ゆかり。
『わかった。』
……そう返信したものの、水着がない。中学のスクール水着、入るかな。
お母さんに中学の時の水着あったけなって聞いたら、「あんた、少しはマシになったと思ってたんだけど……」と呆れられた。
……なぜだ?
坊やじゃねえ、お嬢だからな…。




