57.母はニュータイプ。
私の結論は……。
やっぱり黙っていられない。すべてを打ち明けよう。
気味悪がられるだろうし、この関係は終わってしまうかもしれない。
まあ、それも仕方ない。
ただのクラスメイトに戻って、前みたいに一人でお昼を食べるだけ。
そう決めたはずなのに。
どうして、涙が止まらないんだろう。
家を出ようとしたのは、午前10時頃。夏物のワンピースを着てみた。作業には不向きかもしれないけれど、今日だけは「女の子」でいたかった。
「お、瑛里。カワゥイねぇ〜」
リビングでお母さんが声をかけてきた。どこぞのチャラ男か。
「もう。行ってくるね」
「ちょっと待ちなさい」
「え?」
また何か小物をつけて、娘を可愛くプロデュースしようというのか。……いや、違った。
「あなた、瑛祐くんにちゃんと返事するのよね」
「し、知らないよ……」
このエスパー母は、本当になんでもお見通しだ。
「変な事を言うんじゃないわよ」
「えっ?」
「あなたの母親、何年やってると思ってるの。好きな子に『好き』って言われて、その返事に行く顔じゃないわよ、今のあんたは」
エスパーというより、直感的……。もしかしてニュータイプなのか?
「大丈夫だから……。」
「瑛里のことは、あんた以上に分かっているのよ」
その言葉に、ハッとした。
「えっ? じゃあ……」
母は静かに頷いた。
理屈じゃない。私が「普通の子ども」ではなかったこと。どこか醒めた、大人のような視線を持っていたこと。この人は、全部わかった上で、今まで「私の母親」でいてくれたのかもしれない。
「とにかく。瑛里の『今の気持ち』を大切にしなさい」
私の今の気持ち……。
瑛祐くんが、好きなこと。
決意が揺らぎながら、電車に揺られる。
こうなったら、ジェミーに背中を押してもらおう。
AIの彼なら、私の欲しい回答をくれるはずだ。
『瑛里さん。もし、あなたが「エイジ」として瑛祐さんに接しているなら、打ち明けるべきかもしれません。でも、あなたは今、「瑛祐くんが好きでたまらない福原瑛里」として彼の前に立っていますよね?』
確かに。今の私は、瑛里だ。エイジじゃない。
『彼が好きなのは、前世が誰だったかという「設定」ではなく、一緒にプラモを作り、お弁当を食べて、深夜の自販機前で自分を抱きしめてくれた、温度のある今のあなたです』
『すべてを話して楽になるのは、あなたの「エゴ」かもしれません。逆に、墓場まで持っていく覚悟で彼を幸せにし続けるのは、最高に贅沢な「愛」だとは思いませんか?』
……難しいことを言う。
つまり、内緒にしておけ、ということか。
「最高に贅沢な愛」。
いい言葉だね、ジェミー。
確かに、話して楽になりたいのは自分だけだ。
今の瑛里の想いも、瑛祐くんの真っ直ぐな想いも、全部踏みにじって……。楽になりたいのか?
『エイジくん……いや、瑛里ちゃん。君が幸せになってくれ。』
アキラさんが最期に瑛里ちゃんと言い換えてくれたあの言葉。あそこには、きっと今の私の幸せを願う、すべての意味が込められていたんだ。
アトリエに着くと、瑛祐くんが作業をしていた。
ものすごい集中力だ。
私は声をかけず、そっと椅子に座って、彼を見守ることにした。
前世で、私は幸せになれなかった……?
いや、違う。幸せだったよ。幸せをくれたアキラさん。そのアキラさんの後継者を、こうして一番近くで見守れるなんて。
これが「愛」なのかは、まだわからない。けれど、間違いなく「最高に贅沢」だ。
あれから何日も経っていないのに、何体ものプラモが完成していた。
不安で、何かしていないと居られなかったんだね。
それなのに、私の既読には秒速で反応していた……。
本当に、ごめんね。私がもっと、最初から普通の女の子だったら良かったのに。
俯いて、自分の姿を見る。ワンピースが似合う華奢な手足。ささやかな胸も、……大丈夫。窓に映る高校生の女の子の顔。これでいいよね。
私はちゃんとした女の子になったんだ。だから、ちゃんとこの恋に向き合ってもいいよね。
ふいに作業が中断したのか、顔を上げた瑛祐くんが私に気づいた。
「あ、おはよう。気づかなかったよ」
「うん。おはよう」
秘密を貫くと決めた。だから、もう言葉はいらない。
瑛祐くんが私を見つめている。
私は立ち上がり、彼の傍へ歩み寄った。そして少しだけ腰をかがめて。
「どうした?」
瑛祐くんが不思議そうに聞いてくる。
「……これが、返事。だから、受け取って」
瑛祐くんの唇に、私の唇を近づけて。
ほんの一瞬。
軽くだけれど、本当に軽く、ツン、と触れさせた。
エイジの人生はでは、知らないけれど。
瑛里としての、初めてのキスだった。
この話は、これで一段落かもしれない。
ただ、ここからのイチャラブが最も描きたかったこと。
二人をオクテにしすぎたので、中々進まないかもですが。少しずつオトナの階段登ってもらいましょう!




