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53.家族ごっこ


今、思い返してみたら。

エイジの人生では、アキラさんと過ごしたあの数年間が一番幸せだったようにも思う。


もし、もう少し長生きしていたら。アキラさんと一緒に瑛祐くんを見守る人生があったのだろうか。


どっちがママ役するかでアキラさんと揉めて、

「あの、瑛祐のママは私なんだけど……」なんて楓さんからツッコミを受けたり、「やっぱエイジさんのご飯が美味い」って、瑛祐くんに懐かれたり。

仕事が忙しい楓さんに代わって、小学校の入学式に出席したり……。

一年生の瑛祐くん。絶対に、最高にカワイイよね。


けれど、そんな「もしも」は起きなかった。



手渡されたのは「再検査」と書かれた一枚の紙切れ。再受診した結果は、治療法のない難病だった。


「余命半年なんだって。これから入院とかもしないとダメそう⋯」

アキラさんの作業場で、努めて明るく打ち明けた。

「は……何を冗談言っている。今度は病人ごっこでもするのか?」


「……」


何も言えない俺を見て、アキラさんの顔から血の気が引いていく。

「……。ほ、本当なのか……?」

「まあ、よく分からないけど、そうらしいよ」


俺は、あらかじめ知り合いの弁護士に相談して作成していた資料をアキラさんに見せた。

「なんだ、これは……任意後見契約?」

今なら、同性だとしてもパートナーシップ制度などがあるけれど、当時はそんなものはない。


「もし俺が動けなくなったら、アキラさんにすべてを決めてほしいので、これを作らせてもらいました⋯」


病院で『家族ではないから面会できない』『手術の同意ができない』と言われるリスクを減らすため。

そして何より――「俺の人生の最期を、あなたに預けたいんです」と説明した。


「わかった。わかったが、エイジくんはそれで良いのか?」

「まあ、本当は、恋人ごっこを越えて『結婚ごっこ』でもしたかったんですが、制度がないそうで…。」

「……それなら俺と君は、家族。ということで良いかい?」

「はい。十分です。貯金も少しあります。入院費とかの残りは、自由に使ってください」

「……それは君のお金だ。エイジくんが生きている間に使うべきだ」

アキラさんの声が震えている。少し、泣きそうになっている?俺なんかの為に泣いちゃダメですよ。

「じゃあ、全然足りないんですが、この作業場を建て替えましょう」

「は……? ここは俺の作業場だからダメだろ」


今まで、アキラさんの仕事の邪魔はしないようにしてきた。でも、俺だってロボットアニメオタクの端くれだ。アキラさんのように、格好良くて繊細なプラモを作ってみたかった。


「ここ、いかにも作業場って感じだから、綺麗にして『アトリエ』にしましょう。アキラさんの伝説の始まりです!」

「伝説って……そこまでじゃないだろ」

「いえ、俺には見えるんです。アキラさんが伝説のモデラーとして語り継がれる未来が⋯」


「……わかった。君の貯金を使うかどうかは置いておいて、ここを綺麗なアトリエにしよう」

「じゃあ、やっぱり俺も出資しますので、完成したらプラモ作り教えてくださいね。一番弟子かな」

「そうだな。いくらでも教えてやる」


それから短い間だったけれど、「恋人ごっこ」は「家族ごっこ」になり。俺の病状は、アキラさんとの絆が深まるのと反比例するように悪くなっていった。。


そして、半年がたった。

最後にアキラさんと話した時には、俺はもう起き上がれなくなっていた。


「ははは……。もう、ここまで、のよう、です……」

意識は朦朧としていたけれど、アキラさんが来てくれたことだけは分かった。できるだけ笑おうと努めた。

「そんなことない。俺はまだ諦めてないよ。アトリエもこれからだろ。」

「そ、う、だった……。ぷら、も、つくり……」

アキラさんが持ってきてくれた『シアザフ』が目に入る。そうだよ。元気になって、これを作るんだ。そう自分に言い聞かせた。


「ああ、いくらでも教えてやる……」

「お、れ。ぶき、よ、うだか、ら……」

「不器用な奴が、あんなに美味いメシ作れるかよ。エイジくんのメシ、また食いたいよ」

「はは……あき、らさ、ん、もうま、くつくれ、る、よ。たま、ごやき、は、ごう、かく……」

アキラさんは涙を堪えるように言った。

「ありがとう。やっと合格点もらったな……。それとな、楓に赤ちゃんができたらしい。故あってシングルマザーでやっていくらしいから、俺と一緒に住むことになりそうだ」

「……。よかった。の、かな。でも、これ、で、ひとり、じゃ、ないね……」

「バカヤロウ、退院してお前も一緒に育てるんだよ!」

アキラさんが泣いている。……ごめんね。


毎日、病院に来てくれるアキラさん。

天涯孤独な俺にとって、頼れるのはあなただけだった。


本当の恋人でもなく、夫婦でもない。契約上の「家族代わり」でしかないけれど。


(プラモ作り、結局教えてもらってないな……)


もし、俺が女の子だったら。


アキラさんと「ごっこ」じゃない恋人になれて、本当の家族になれたのかな。

もし本当の夫婦だったら、こんなに「申し分ない」なんて思わなかったかもしれないけれど。


このまま死んで、もし生まれ変わることができたなら。

女の子になって、アキラさんの彼女になって、アキラさんからプラモ作りを教わりたいな。それで一杯ご飯食べさせてあげ⋯⋯⋯。


エイジとしての意識はここまでだった。

回想編完了です。

次からは、また瑛里ちゃんが戻ってきますので、よろしくお願いします!

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