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50.お見送り。


「これで最後だよ。まさか、俺のほうが先に逝くなんてな」


夢の中で、アキラさんは私の知っている姿でそこにいた。

渋めの四十代半ば。少し白髪の混じった髪に、一つの時代を築き上げた男の自信と余裕。私の、俺の、最も尊敬する人。


ふと気づくと、私の姿は瑛里になっていた。

「瑛祐のこと、頼んだ。幸せにしてやってほしい。あれは俺の後継だ。俺のすべてを教えた」

「……。」

「楓のことも気にかけてやってくれ。あれでも大切な一人娘だ」

「……。」

「何より、エイジくん……いや、瑛里ちゃん。君が幸せになってほしい」

アキラさんの優しい目が私を射抜く。そして皮肉めいた言葉を言う。

「まさか、葬式を出して、墓まで作ったやつに、あの世への旅立ちを見送られるなんてな。……人生、分からないものだな」

「……。」

「じゃあな、エイジくん。夢にはもう出られないけど……瑛里ちゃん、幸せになってくれよ」


行かないでくれ。そう言いたかったけれど、彼はもう満足げに笑っている。


天涯孤独だったエイジとしての人生、家族以上の存在として私を看取り、弔ってくれたアキラさん。今度は私が、彼の旅立ちを見送る番なんだ。


「……安らかにね。化けて出たら、瑛祐くんがびっくりしちゃうよ」


精一杯の軽口で見送る。「夢には」という言い回しに少し引っかかりを感じながら、意識が浮上していった。



「瑛里ちゃん、しっかりして! あ、気がついた?」

目を開けると、楓さんの腕の中だった。

頬に当たる柔らかい感触。十分すぎるボリューム……。ささやかな私のとは違う、大人の色香。


美女に抱かれて元気になるのは元男の性だろうか。まあ、ある意味で元気になる「モノ」は、もう失われて久しいのだけれど。


「あぁ、良かった。救急車を呼ぶところだったわよ。」

「す、すみません。昨日、あまり寝ていなくて……」

咄嗟についた嘘。でも、睡眠不足というのが、今は良い気がした。


「瑛祐に、何かされたわけじゃないわよね?」

「えっ、と……瑛祐くんは、支えてくれた、と思います。……大丈夫だった? 私、重かったんじゃ……」

「俺が何かするわけないだろ、楓さん。……瑛里は、軽いから大丈夫だよ。気がついて良かった」


瑛祐くんが心配そうに水を持ってきてくれた。一口飲むと、激しい動悸が少しずつ収まっていく。


「じゃあ、福原さんに連絡するからね。迎えに来て貰うわね。しばらく休んでなさい」

「あ、いえ自分で帰れます」

「ここで、瑛里ちゃんを一人で返すわけには行かないわよ。何かあったら真理さんになんて言えば良いか。」

真理は母の名前。じゃあ福原さんっていうのは?

「福原さん来てくれるって。瑛里ちゃん、お父さんを呼んだから。車で迎えに来てくれるって」


迎えに来たお父さんの車に揺られながら、私は窓の外を眺めていた。

「寝不足で迷惑かけちゃって、ごめんなさい」

「そっか。でも心配したよ。……でも、藤井さんがいてくれて良かったな。あの人はいい人だしデキる人だからな」


お父さんは広告代理店の社員だ。私のバイト先であるプリズムにコネがあるのも、そこが取引先だかららしい。楓さんとも、その辺の仕事で知り合いなのかなと思う。


客側に立って仕事をする彼は、社内政治には疎いが、現場や取引先からの信頼は絶大だ。


「軍曹から出世せずに最前線で戦う漫画」が好きで、「現場で仕事するなら主任で十分だ」と嘯く。優しくて、大好きなお父さんだよ。


「お父さんの周りの人って、みんな良い人だね」


バイト先で聞いた話を思い出しながら言うと、お父さんは少し照れくさそうに笑った。

「まぁ、大事な娘に悪い奴は近づけさせないからね。……変な奴はいるけど」

変な奴…?サクラさんの顔が浮かんで、私はホッコリした。お世話になってますよ。


プリズムの人たちは、私が「福原さんの娘」だということで、みんな親身に接してくれる。

「ここの雑誌社の人間は、一度はみんな福原さんに助けられてるのよ」

「外部の人なのに、製版屋に掛け合って締め切りを間に合わせてくれた」

「イメージに合わない広告を、福原さんが差し替えてくれた」

お父さんの人徳を裏付けるエピソードには枚挙にいとまがない。


俺の前世は、きっとこんなにイイ男じゃなかった。


けれど、そんなお父さんの娘になれて、瑛祐くんに「好きだ」と言ってもらえる女の子に育ててもらえて……。心から感謝しているよ。



そして、私はすべてを思い出した。


今まで覚えていたのは、四十代のサラリーマンでアニメと食べ歩きが好きで、再現レシピが作れることくらい。


アキラさんとのことも、その顔も声も、霧に包まれたように忘れていた。


けれど、あの写真がすべてを繋ぎ止めた。


私と瑛祐くんとの出会いが、電気屋で同じプラモに手を伸ばした時だったように。

俺と、アキラさんとの出会いは。

とある酒屋で、同じ一本のお酒に手を伸ばした時だったんだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


明日に、前世の回想編として3話予定しています。

その後、キッチリ本編に戻ります。も、戻るはず⋯。


よろしくお願いします!

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