48.言ってしまっているよ。
「どう? 落ち着いた?」
サダコちゃんを存分に堪能(?)した私たちは、出口近くのベンチに座っていた。自販機で買ってきた水を瑛祐くんに手渡す。
「うん。……ありがとう。」
ようやく、いつもの穏やかな笑顔が戻ってきた。
普段は何でもこなす完璧超人の彼だけど、こんな分かりやすい弱点があったなんて。弱みを握れた(?)みたいで、なんだか無性に嬉しい。
優しくて、頭が良くて、格好良くて、カードゲームが強くて、教え方上手くて、プラモの腕はプロ級で。
そんな「惚れてまうやろー!」と叫びたくなるほどの瑛祐くんが、あんなにパニックになって私に抱きついてくるなんてね。
「……ごめん。こんなはずじゃなかったんだけどな。」
「でも、楽しかったよね。」
「た、楽しかったかな……?」
「だって、最後、出口が見えたんだから一人で逃げればよかったのに。私、笑って見てたし。」
「いや、瑛里を置いて逃げるわけないだろ。」
そっか。どんなに苦手なことでも、私を置いてはいかないんだ。
その真っ直ぐな言葉が、胸の奥にスッと入り込んで、じわじわと熱くなる。
「……もしかして、なかなか出られなかったのって、私のせい?」
「もしかしなくても、そうだよ! なんで逃げないで笑ってたんだよ。」
「えー、だってせっかくお金払ったんだし、楽しまなきゃ損かなって。怖くて楽しかったじゃん。」
「……怖いのを楽しむ……。多分、俺には一生分からない感覚だよ。」
いつもの軽口を叩き合っているうちに、瑛祐くんの顔色が完全に元通りになった。
「あ、じゃあ次は……観覧車にでも乗る?」
サクラさんのアドバイスを思い出して提案してみたけれど。
「……う。実は、高いところも苦手なんだ。」
「あ、そうなの。じゃあ……」
高いところもダメか。絶叫マシンもお化け屋敷もダメ。今度こそ無理させちゃダメだよね。
「ごめんな。カッコ悪いよな……。今日は、ちゃんと格好良くキメて、瑛里に『好きだ』って言うつもりだったんだけど……。あ。」
瑛祐くんが、しまったという顔をした。
でも、私はそこまで深く考えずに答えてしまったんだ。
「大丈夫だって。そんな瑛祐くんも、私は好きだからね。……ん?」
ん?
「ちゃんと好きって言うつもり」……って、今、言った?
それに、私。
「そんな瑛祐くんも好き」……って、言っちゃった?
「「……っ」」
不自然な沈黙が、二人の間に落ちる。
まあ、二人で遊園地に来て、手を繋いで、手作りランチを食べて、お化け屋敷で抱き合って。
これで「好きじゃない」なんて言う方が無理があるんだけど。
……でも、これは、ちゃんと言葉にしないといけない場面かもしれない。
「瑛祐くん。あのさ…。」
「いや、瑛里。……俺から、ちゃんと言わせてほしい。」
瑛祐くんの真剣な眼差し。やっぱり、この人、格好いいな。
「前にさ、言ったつもりだったんだけど……『今まで通りがいい』って言われちゃったから。」
「……今まで通りとは、言ったね。」
だって、私には「好き」とか「付き合う」なんて概念、難しすぎたから。
「だから、今度は瑛里から『好き』って言ってもらえるように頑張るって決めてたんだ。」
雑誌に載るくらいのクオリティのプラモ作って、チケット手に入れて…。
「……。」
「さっき、好きって……言ってくれたよね?」
「……言った……かな? 分からないけど。」
「いや、俺はちゃんと聞いたからね。……で、さっきもう言っちゃった気もするけど、もう一度、ちゃんと聞いてほしい。」
真っ直ぐに見つめ合う。照れるけれど、逃げちゃいけない。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
「瑛里。好きだ。……大好きだよ」
「うん。……私も、好き……かな?」
少し逃げちゃった。ゴメン。
「……なんで疑問形なんだよ。」
「前も言ったけど、私、好きとか付き合うとか、まだよく分からなくて。でも……さっき瑛祐くんに抱きつかれても嫌じゃなかったし、手もずっと繋いでいたかったし……。」
好きなんだとは思う。しかも、かなり強く想っている。
「抱きついたのは……本当にごめん。」
「ううん。だから、私も『好き』なんだと思う。……思うんだけど。」
難しい。付き合うってなったら、その……キスとか、その先とか……。
前世の記憶が邪魔をして、どうしてもリアルな想像がブレーキをかけてしまう。
「……わかった。瑛里のペースでいこう。少しずつ、付き合っていけばいいから。」
「……いいの?」
「うん。瑛里が隣にいてくれるなら、それでいい。」
どこまでも優しい。……そんなこと言われたら、こっちだって何かしたくなるじゃない。
「じゃあ……今日のところは、これで許してね。」
私は立ち上がり、彼の頬に、軽く唇を寄せた。
「っ……!」
瑛祐くんが石像のように固まる。
チュ、なんて可愛い音じゃなかったかもしれないけれど。
……これ、私の方も心臓が止まるくらいドキドキしてるんだけど。ほっぺにチュくらい欧米では、アイサツだと聞いた…。
アイサツして死にそうになるのか…。命がいくつあっても足りん…。
「前世の俺」も、今度こそ完全にオーバーレブして真っ白になって沈黙していた。
49話を先出ししてしまったので急遽修整しました。
先に読んでしまった方申し訳ございません。
この話かなり大切でした。。。ホントにスマホの扱いがポンコツでして⋯。
49話もお昼休み中にできれば投稿します。




