47.新しい発見
朝はあんなにグイグイ手を引いて歩いてくれたのに……。
「……やっぱ、やめとこうか?そんなに行きたいわけじゃないし。」
瑛祐くんの青ざめた顔を見て、私は撤退を進言した。
行きたいのは本音だけど、無理をさせるのは忍びない。今度、ホラー大好物の弟(洸也)と来ればいいしね。
「いや、男に二言はない。行く。こういうところ、今まで食わず嫌いしてただけだしな。」
……そう言って、彼は震える足で「出撃」した。
「う……。」
繋ぐ手に、ミシミシと力がこもる。……瑛祐くん、まだ入り口なんだけど。ちょっと痛いかな…。
ここは、歩いていくつかの部屋を通り抜けるタイプらしい。役者さんが脅かしてくれる本格派で、ホラー好きの私としてはワクワクが止まらない。
隣にいる今にも魂が抜けそうな大きな人とは、あまりに対照的だ。
高校生としては、平均くらいだけど、今の私には大きく見える。頼りにしてるからね⋯。
後で聞いた話だけど、あんなに楽しみにしていた私に「やっぱり止める」と言えなかったらしい。「放っておいたら他の奴と来そうだったから」なんて、そんな理由で頑張らなくてもいいのにね。
他の奴って言っても洸也は弟だし、瑛祐くんに勝てるわけないのにね。……いや、何がとは言わないけれど。
おどろおどろしいBGMの中、人魂が宙を舞う。
あ、あの人形、プラスチックでできてるんじゃない?プラモみたいなもんじゃん、なんて言って励まそうとしたら、
「あれ、あの塗料なんだろう。すごい色合いだな……。」
瑛祐くんが食い入るように造形物を見つめた。……この状況でプロ根性を覗かせるとは、正直尊敬しちゃうよ。
遊び半分でバイトしちゃってる私とは大違いだ。私もモデルの仕事、もっと真剣にやろう。……お化け屋敷の中で、なぜか決意を新たにする私。
少し調子を取り戻した瑛祐くんは、自分から扉を開けて次の部屋に入ろうとした。
「あ、そんな不用意に入っちゃ――。」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
アドバイスは間に合わなかった。
リアルな幽霊役さんが絶妙なタイミングで倒れかかってきて、瑛祐くんが咄嗟に私に抱きついてきた。
……えっ。ちょっと。あの……。
密着。完全に密着している。
私の胸も、……ええ、ささやかではございますが、当たっているよね?
まあ、いいけどね。サービスサービスってね。
ひっついて離れないこの大きな物体(瑛祐くん)に、そんな余裕は一ミリもなさそうだけれど。
「大丈夫だよ、怖くないから……。」
よしよし、と彼の頭を撫でてあげる。
「いや、怖いって! マジで怖いって……!」
去り際に、幽霊役の役者さんが私に向かってサムズアップしていった。
(グッドラック!)
そんなふうに口の動きが見えた気がして、私は思わず吹き出した。
「はははっ!」
「どうしたの瑛里ちゃん!? 気ぃ狂っちゃったの!?」
失礼な。おかしくなってるのは君のその口調(と腰の引け具合)だよ。
部屋を進むにつれて、少し落ち着いてきたのか、
「あ、ごめん……。」
と、抱きついていた体を離して、再び「手繋ぎ」の形に戻った。
……なんだろう、ちょっとだけ残念だと思ってしまった自分に驚く。
でもね。これ、多分クライマックスへの「フリ」だよ。
「ふぅ、次で最後かな。」
少し余裕を見せる瑛祐くん。でもね、その余裕が命取りになるのだよ。
最後の扉を開けようとした瑛祐くんが手を止める。
「あれ? 開かない……」
ふと後ろを振り返ると、暗闇から影が這い寄ってくる。
「瑛祐くん、後ろ。」
「えっ、えっ……開かない! クソッ、なんで!」
私たちが影に注目した瞬間、スッとそれは消えた。
「……終わったのか?」
あ、瑛祐くん。そんな隙だらけの状態で、不用意に振り返っちゃダメだよ。
また抱きつかれるかな。いや、いっそ今度は私から抱きついてみようかな?
なんて考えていた、その時。
カチリ、と扉のロックが外れる音がして、向こう側から現れたのは――。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
出口に向かって逃げればいいのに、パニックに陥った瑛祐くんは、再び全力で(私に!)抱きついて耐え始めた。
だから、当たってるって。……まぁ、ささやかではございますが(二回目)。
完璧だ。映画から抜け出してきたような、再現率120%のサダコさん。
凄い、カワイ怖い。
でも、瑛祐くん。早く逃げないと、サダコさんが……あ、動いた。
カサカサと、独特の動きで追いかけてくる。
「瑛里、早く行こうよ! 来る、マジで来るって! なんで笑ってるのさ!」
必死に私にしがみつきながら、出口へ向かおうとする瑛祐くん。
うん、サダコちゃんも可愛くていい仕事してるけど。
瑛祐くんも、なんだか必死でカワイイよ♡




