表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/92

44.前哨戦


「あ、待たせた?」


プリズムでのバイトが終わるまで、瑛祐くんは待っていてくれたらしい。


「いや。人を撮るスタジオって初めてで、面白かったよ。」

「私は、瑛祐くんがいたスタジオの方が面白そうだったな。」

「あ、瑛里ちゃん、お疲れさま! 気をつけて帰ってね。……あ、瑛祐。瑛里ちゃんをちゃんと送っていってあげなさいよ!」


サクラさんが、私たち二人に声をかけた。

「「……?」」

二人の頭の上に、大量のクエスチョンマークが浮かぶ。


「バイト先のお洒落なオネエさん……?」

「親戚のお洒落なおにいさん……?」

瑛祐くんも同じことを考えていたようで、私たちは顔を見合わせた。

「アハハハ! バレちゃったわね。アタシが二人のデート服を裏で調整してたのよ!」

「「……!」」

「ま、今回はアタシ、何もしてないけど。大丈夫よ! 二人とも何か悩んでるかもしれないけど、心配はいらないわ。観覧車なんかで二人きりになるといいわよ。……大丈夫だからね。」


そう言って、サクラさんは私たちにウインクを飛ばした。

……何が、どう「大丈夫」なのだろうか。


そんな経緯で、帰りは一緒になった。けれど、電車は二駅。すぐに着いてしまう距離だ。

もう夕方だし、今日は瑛祐くんの家に寄る時間はないだろう。


「あ、いつもの瑛里だ。……なんだか、ホッとするよ」

瑛祐くんが私の顔を見て、ふと表情を緩めた。


いつもの私とは?


撮影用の高級なメイク落としを借りて、すっぴんに戻り、着慣れた私服に着替えていたからだろうか。


「まあ、すっぴんでブサイクかもしれないけどね。」

自嘲気味に笑う私に、瑛祐くんが真剣な顔で言った。

「いや、確かに撮影の時はめっちゃ綺麗だったけど……俺は、こっちの方が好きかな。さっきは別人みたいだったし……」


……ん?

めっちゃ、綺麗?

お世辞だとしても、嬉しい。メイクで作られた虚像だったとしても。


……いや、ちょっと待って。

今、「好き」って言った?

カッと顔に血が昇る。ちょっと。ちょっと待って。


……落ち着こう。

「こっちの方が好き」と言っただけだ。

リンゴとナシを比較して、リンゴの方が好みだと言った程度の、深い意味はないはず。

…ないはずだ。


……話題を変えなきゃ。


「そういえば、完成させたバーズアクス、撮ってたよね。」

「うん。キットの紹介用で、ショップの宣伝を兼ねて、雑誌に載るんだ!」

「えっ、凄いじゃん!」

「……瑛里の方が凄いよ。人気だって聞いたし。」

「私のは……まあ、メイクとかで別人になれるからで、私自身が凄いわけじゃないし。それより瑛祐くんだよ。カメラマンさんも褒めてたし。」

「まあ、ホビーラボの皆はじいちゃんの信者で、俺も可愛がってもらってるだけだよ。」


伝説のモデラー、藤井瑛。やっぱり、とんでもなく凄い人だったんだな。


瑛祐くんの降りる駅までは、あと少し。


途中の駅から人が大勢乗ってきて、車内は一気に満員電車と化した。

密着するほど距離が近くなり、私たちは無言になる。

電車が大きく揺れて、私は瑛祐くんの胸元に寄りかかってしまった。

「ご、ごめんね」

「あ、いいよ。大丈夫。」

前も電車で支えてくれたっけ。頼りになるなぁ。


優しくて、格好良くて、大人からも認められる確かな実力があって……。


今、何かが起きるたび、必ず浮かぶのは瑛祐くんの顔だ。


朝起きて、お弁当を作る時も。

学校へ行く時も。

授業中も、隣の席で一緒にご飯を食べる時も。

一人で帰る時も。

バイトでモデルをしている時も。

お風呂に入っている時も、眠りにつく直前までも。


……いつも、この人のことばかり想っている…。


私が持っていた「男」としての記憶や感情。そんなものは、もう関係ないのかもしれない。


思い出の中にあるアキラさんへの気持ち。あの暖かくて穏やかな気持ちが「恋」だと思っていたけれど。


今、こんなにドキドキして、四六時中、頭から離れない人がいる。


これが恋じゃないのなら――私は、俺は、何を「恋」と呼べばいいのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ