43.とある出版社で。
『バーズアクス、完成したよ。ショップに持っていったらチケットをくれたんだ。』
瑛祐くんからメッセージが届いた。
私の心がこんなに踊っているのは、きっとイベントのチケットが嬉しいから……だよね?
『やったね! あ、でも私、明日はバイトなんだ。』
『そうなんだ。俺も明日は用事があるから大丈夫。いつにする?』
『うーん、日曜日は混みそうだし……』
『じゃあ、週明けの月曜日はどうかな?』
『うん、月曜ね。OK!』
……もう認めよう。このお出かけは、世間一般では「デート」と呼ぶのだと。
ガムダンのイベントなのだから、色恋沙汰には発展しないはず……。
けれど、どうしようもなく浮かれている自分を否定しきれない。
なにせ、あの日買った中で一番可愛い下着を月曜日に着ていこうなんて、無意識に考えてしまっているのだから。
「認めたくないものだな……」なんて、シア様のセリフを呟いている場合じゃない。
ちなみにAIジェミー君ときたら、
「ついに遊園地デートですね!」
なんて、余計なアドバイスを次々と送ってくる。
『指先に触れてみろ』だの、『観覧車で願い事をしろ』だの……。
デート前提で盛り上がるのはやめてほしい。本当に。
翌日。予定通り私はバイトへ向かい、瑛祐くんもどこかへ出かけているはず。
電車に揺られながら、お礼について考える。
年頃の男の子って、何を貰ったら嬉しいんだろう?
男だった頃の記憶を必死に手繰り寄せるが、出てくるのはウイスキーや焼酎といった「おじさん」の喜ぶものばかりで参考にならない。
恋人であれば、…キスとか。その先とか、キャー。ちょ違うって。
「瑛里ちゃん、お疲れ様。一旦休憩にしていいわよ。」
担当編集のサクラさんが声をかけてくれた。
「あ、そうだ。ちょっとお使いをお願いしてもいいかしら?」
サクラさんは何だか楽しそうだ。何か良いことでもあったのだろうか。
サクラさんの「お使い」は、機材を同じビル内の別のスタジオへ届けることだった。
「『ホビーラボ』っていう雑誌、知ってる?」
「いえ……でも、興味あります!」
ホビー誌か。プラモデルの特集とかがあるなら覗いてみたい。
「今日、あっちでプラモデルの撮影をしてるみたいだから、覗いてきたら? 大丈夫、あそこは男所帯だから、瑛里ちゃんみたいな可愛い子が行ったらみんな喜ぶわよ。」
可愛い子って……。中身はこれ(おじさん)なのにね。
でも、今日は撮影用にメイクもバッチリだし、衣装も「Kaede」というブランドのスタイリッシュな服を着ている。少しはマシに見えるかもしれない。
指定されたスタジオは、普段私が使う場所よりこじんまりとしていた。
中から男たちの話し声が漏れてくる。
「良いねぇ。本当に一週間で仕上げたのかい?」
「はい。今回はキットの紹介用なので、改造なしの素組みですが……頑張りました。」
「いやあ、天才少年モデラーの復活は、うちとしてもありがたいよ。」
「じいちゃんのおかげですよ。俺なんてまだまだ……。」
「謙遜しなさんな。でも藤井君、中学の頃にはもう独力でもっと凄いものを作っていただろ。」
ん? 藤井くん?
聞き覚えのある、穏やかで優しい声……。
「あ、サクラちゃんから聞いてるよ。機材はこっちに置いて。」
スタッフの方が私に気づいて声をかけてくれた。
「あ、はい! 」
私に気づかず、瑛祐くんはカメラマンと話し込んでいた。
そのカメラマンは、以前私をすごく格好良く撮ってくれた人で、今日は別の仕事だと言っていたのを思い出す。
私が機材を運んでいくと、カメラマンさんが顔を上げた。
「ありがとう。いや〜、今日は男ばかりの現場だから、モデルさんが来ると緊張しちゃうな。」
「そ、そうですね。モデルさん……って、えっ……!?」
ようやくこちらを向いた瑛祐くんが、石のように固まった。
これ、以前弟のカードゲーム大会で遭遇した時と同じ顔だ。……ちょっと可愛いと思ってしまう。
「こんにちは。……A君」
からかうように呼ぶと、彼はようやく我に返った。
「ちょっ、その呼び方はやめろって……! っていうか瑛里、なんでここに!?」
「あれ、藤井くん。瑛里ちゃんと知り合いだったの?」
「「クラスメイトです」」
声が重なる。やっぱり、ただのクラスメイトだもんね。
「あー……サクラが言ってたのは、このことかぁ」
スタッフさんがニヤリと笑う。
え、サクラさん。一体何を吹き込んだんですか……?




