42.オネェさんのセンス
今日は、読者モデルのバイトの日。
瑛祐くんがペアチケットを手に入れてくれたお礼に、何か気の利いたお返しがしたくて、私はいつも以上にバイトに気合を入れていた。
季節はまだ七月。けれど、露出多めの水着撮影が(お父さんのNGで)不可能な私は、汗をかきながら秋物の先取り撮影に臨んでいる。
「瑛里ちゃん、モデルの仕事は久しぶりだけど、やっぱり良いわねぇ。」
「サクラさん、ありがとうございます!」
具体的に何が良いのかは自分でもよく分からないけれど、褒められるのは素直に嬉しい。
「あのコラムも良かったわよ。『届きそうで届かない想いだけど、今が楽しいからいいか』ってやつ。あのもどかしい感じが伝わってきて、キュンキュンしちゃうわ。」
編集者で私を担当してくれるサクラさんは、見た目こそ格好良いお兄さんだが、中身は私よりよっぽど乙女だ。それでいて優しく、頼りになる存在。
「あ、サクラさん。今度、友達と遊園地に行くんですけど、この格好どうでしょうか?」
前にサクラさんに「バイトに来る時の服も気を使いなさい」と釘を刺されて以来、最近は少し意識している。今日はTシャツにキャミワンピ、下はスパッツを合わせた「お洒落な活発系女子(自称)」スタイルだ
。
「悪くないわね。……そういえば、私の従兄弟も遊びに行くって言ってたわ。あ、遊園地ねぇ……。瑛里ちゃんって北高だったわよね?」
サクラさんの笑顔が少し怖い。なんだろう、何かを企んでいるような……。
「瑛里ちゃん、よく分かっているじゃない。瑛祐は『ドーテー君』だから、そういう格好、大好きだと思うわよ。お化粧は控えめに、日焼け止めとリップくらいで十分。貴女は素が良いんだから。」
まくしたてられたけれど、どうやら合格点らしい。
……あれ? 今、サラッと「瑛祐くん」って言った? それにドーテー君だなんて……。
まあ、楓さんも「女の子に慣れてない」って言っていたし、実際そうなんだろうけど……。
でも、万が一経験済だったら、かなり凹むな。
前世40代童貞をナメるなよ…。
……ん? そもそも私、瑛祐くんの名前、サクラさんに教えたことあったっけ?
ーーーーーーーーーー
「曜一朗にぃちゃん」
瑛里と遊園地に行く日を数日後に控え、俺は従兄弟の兄……もとい、姉?の元を訪ねていた。
「あ、瑛祐。来ると思ってたわよ。……って、サクラねーさんと呼びなさいって言ってるでしょ!」
「あのさ……曜一朗にぃちゃん。今度、遊園地のイベントに行くって言っただろ? この格好で大丈夫かな?」
シャツとジーンズを合わせた、ごくシンプルなスタイル。
「ぶっ……! やっぱり瑛祐だったのね。」
なぜか兄ちゃんは吹き出している。笑いが止まらない様子だ。
「え、やっぱり変かな。……ごめん、サ、サクラねーさんだけが頼りなんだ。」
「ふふっ、大丈夫よ。瑛里ちゃんは、きっと貴方の服なんて見てないから……。」
「でもさ……アイツ、意外とお洒落なんだよ。隣にいて恥ずかしくない格好でいたいだろ!」
「そうね。その子はきっと、シンプルで動きやすい服で来ると思うから……うん、それで問題ないわ。色合いもちょうどいいし、きっとお似合いよ。」
「よ、良かった……。曜一朗にぃちゃんに一発OKもらったの、初めてかも。」
「もう、二人とも素がいいのに勿体ないんだから。…まあいいわ、頑張ってきなさいな。」
「……?」
……あれ? 今、兄ちゃん、瑛里の名前を出したか?
俺、アイツの名前なんて教えたっけ。
なんだか気になる口ぶりだったけれど、まあいいか。
明日は、少しでも……。
まずは、手を繋ぐところからかな。
もし手汗をかいたらどうしよう。……こればっかりは、いくらなんでも兄ちゃん、…ねーさんには聞けないよな。




