39.自転車というシールド
「ゴメンね。アトリエは、俺が生まれてから増設したらしいんだけど、こっちは昔のままで……。あまりキレイじゃないかも。」
瑛祐くんが自虐的に言うけれど、そんなことはない。キッチンは使い込まれているものの、隅々まで綺麗に片付いていた。
「そんなことないよ。大丈夫、十分使えそう。」
家のキッチンはIHだけど、ここはガスコンロ。瑛里として調理実習でしか使ったことはないが、前世の記憶が「火加減の調整なら任せろ!」と囁いている。
フライパンはここで、食器はあそこ……。調味料は……少し年季が入っているけど、まだ現役だ。
「じゃあ、ちょっと買い物に行ってくるね。瑛祐くんはプラモの作業を続けててね。」
「あ、俺も行くよ。荷物持つし。」
えっ、ついて来てくれるの、ちょっと嬉しい。
……あれ?
今、私なんでフライパンや調味料の場所が初見でわかったんだろ?
ま、キッチンなんてどこも似たような配置か。深く考えるのは、うん、よそう。
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さっき、喜んでくれた瑛里が、俺の手を握ってくれた。
柔らかくて、小さな手。俺の心は、とてもじゃないけど冷静ではいられなかった。
瑛里は気づいて、すぐに手を離して照れていたけど、案外、本人はあまり気にしていないのかな。
……恋人なら、手を繋ぐのは普通だよな。
瑛里と「友達以上」になりたいなら、手くらい繋いでも平気にならないと。
今日の瑛里は、いつもの制服とは違う私服姿だ。軽い素材のジーンズに半袖のTシャツ。お洒落とは言えないかもしれないし、色気も控えめかもしれない。
でも、夏だ。どうしても薄着になる。
今までは意識しないようにしていたし、制服姿だと正直、岸川さんや白川さんみたいに発育が良くないと目立たないけれど……。
今は「形」が、わかる。
……ぼ、僕には、かえってエロいです。
いつか、そう遠くない、いつの日か……。
いやいや、手を触れるだけで精一杯の俺にはまだ早いか。とりあえず買い物について行って、まずはもう一度手を繋ぐチャンスを――。
そう思っていたのに。
いざとなると、自転車を「盾」にして歩いてしまうヘタレな俺を許してほしい……。
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自転車を挟んで二人で歩く。
帰りに荷物を入れられるからと、彼が自転車を出してきたのだ。
この、銀輪に隔てられた距離がもどかしい。少年よ……なぜこんな障害物を持ってきたのだ。
とは言え、通学の時と同じ構図だ。この隔たりがないと、どう接していいか分からなくなるのも事実。今が楽しく会話できているのも事実。
ちょうどいい「盾」代わりのアイテムなのだろうか。
そういえば、ザフの肩についているのもシールドだったっけ。あれって、どのくらい意味があるんだろう。
グクには、左腕にちゃんとした盾が装備されているけど……って、今はどうでもいいか。
盾からミサイルを発射する機種も、物語の終盤に出てきたよなぁ。防ぐための盾に火薬を仕込んで大丈夫なのか、アレ。
まあ、謀略家のマックべさんの機体だから、そこは抜かりないんだろうけど。
「あの壺は良いものだ……」
あ、つい声に出ちゃった。マックべさん好きなのよね。
「え? 壺なんてあった?」
「ごめん、なんでもないです!」
何気に、同級生と食材の買い出しをするなんて初めてだ。
「えっと、合挽き肉と玉ねぎと卵……。パン粉に、あ、お出汁も買っておこ。」
「うん。」
瑛祐くんがカゴを持ってくれる。おかげで、ここでも手は繋げない。
ホッとしたような、なんだか少し残念なような。
「あのチーズ入りハンバーグ、も一回、作ってもいい?」
前回の失敗があるから、一応確認しておく。
「うん、ぜひ食べたい!」
目を輝かせる瑛祐くん。ちょっとカワイイじゃない。
「調味料はだいたい揃ってたから、あれ使ってもいいよね?」
「うん。大丈夫、どんどん使ってほしい。」
……それにしても、私が使いたい調味料が、なぜかあのアトリエには「おあつらえ向き」に揃っていた気がする。
なんでだろうな?
まあ、男所帯の調味料レパートリーなんて大体決まっているか。気にせんとこう。
二人での買い物は楽しかった。
いつものお使いとは全然違って、お肉一つ選ぶのすら特別なイベントに思える。
今日、朝から楽しいことばかりなのは、隣にいる瑛祐くんのおかげなのかな。
AIジェミー君に聞いたら、きっと「買い物もデート認定です!」「もう確実に好きになっていますよ!」なんて、お節介に騒ぐに決まっているから……。
今回は、絶対に聞いてあげないんだからね!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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