37.夏休み…。
カラオケは思ったより楽しかった。
「とまぁ〜らない未来を目指して〜」と、これまた古いアニソンを歌って締めた。
さあ、今日から夏休みだ。
女子高生になっても、ボッチで引きこもり体質だった私には、予定なんて週2回のバイトくらいしかない。
プリズムでのモデルの仕事は、水着のシーズンなのに「露出はダメ!」というお父さんのNGが出てしまい、最近は雑誌の裏方の仕事が多い。
水着に関しては「減るもんじゃないのに。」とやってみたいと思う自分と、「恥ずかしくて無理。」と拒否する自分が同居しているが、今の編集の仕事は意外と楽しい。
コラムの執筆を少し任されるようになった。女子高生モデルの日常的な内容なのだが、陽キャムーブをしないところが逆に受けているらしい。
「瑛里ちゃんの飾らないところが良いみたいね。」
編集者のサクラさんに褒められたが、飾らないというか「飾れない」だけなのにね。
「そういえば、彼氏くんとはうまくいってるの?」
か、彼氏? 何それって、思いつくのは一人しかいないが…
「付き合っている人は……いないです。」
「あれ、そうだっけ。じゃあ前はデートしただけ?」
「はい……。」
「ふーん。でも、好きなんでしょ?」
「えっと、そういう気持ちがまだよく解らなくて…
。」
すると、サクラさんは悪戯っぽく微笑んだ。
「でもさ、瑛里ちゃん。今、一人の人を思い浮かべながら話しているでしょ?」
「……は、い」
「それはもう、好きってことなんじゃない?」
ど、ドキッ…。
「ま、ウチの従兄弟も煮え切らない感じだったし、今どきの高校生なのかしらね!」
同士がいるのか…。
って、おしゃべりしないで仕事しましょうよ!
恥ずかしくなってきた心を隠すように、私はパソコンの画面に没頭した。
家に帰って、夕食の用意を手伝っている時。
「こうして見ると、我が娘ながら可愛いのよねぇ。」
着替えるのが面倒で制服にエプロン姿。確かに、前世では憧れた風景。
「ぶっ! 何言ってるのよ。」
我が母ながら、相変わらずぶっ飛んだ会話を仕掛けてくる。
「そうだ。瑛祐くん、やっぱりあなたのこと好きだったでしょ?」
「ぶっ! ……し、知らないよ…。」
「そっかそっか。晴れてお付き合いがスタートしたと。」
「してない、してないから!」
「……?」
「そんな顔しても、付き合ってないから」
「えっ? 好きって言ってくれたんじゃないの?」
「…知らない。……私のことは『特別』だとか、私のお弁当を『これからも食べたい』とかは……言ってくれた、かな。」
母が黙った。
「……何よ?」
「え?」
「だから、何その沈黙は」
「いや。……なぜその流れで付き合わない?」
ぐうの音も出ない正論。
「付き合うとかよく解らないし、今まで通りでいいよねって言ったの。」
「……。やっぱり、どこかで育て方を間違えたのかなぁ。……ゴメンね、瑛里。」
「……。なんで謝るの…?」
「いや、ちゃんと立派に育てていただいていますよ。」というのは本心だ。
中身がニセモノかもしれない私を、愛情いっぱいに育ててくれている。
「うーん。瑛祐くんには、お母さんからちゃんと謝らないとだわ……。」
何お。何を謝るというんだ、この母は。っというツッコミはココロにしまっておこう。
それでも、母との会話は楽しく、笑いが絶えない。
予定のないボッチの夏休み。けれど、今の私には「瑛祐くん」という友達がいる。
勇気を出して、メッセージを送ってみる。
『明日なんだけど、プラモ作りに行ってもいい?』
即座に既読がついた。
『おう。いいよ。グク開けよう。』
『やった。楽しみ。何時くらいから行っていいかな?』
『明日は俺も作業してるから、朝からいるよ。9時くらいなら大丈夫!』
『あ、邪魔だったら悪いし……。』
付き合っているわけじゃないからね。邪魔しないという気遣いは大事だ。
『邪魔なんかじゃないよ。来てくれたら嬉しい。』
おぉ、マジか。じゃあ行こう。
よし、お昼ご飯は、チーズインハンバーグのリベンジしてみたいな。




