36.恋の狙撃手
テストも無事に終わり、MS-07B「グク」限定版が私を待っている。
「ザクとは違うのだよ、ザクとは!」と叫ぶ日も近いはずだったのだが……。
「思い出は〜いーつも、きれいだけど〜……」
今、私はマイクを握って、カラオケボックスで熱唱している。
メンバーは、白川優香さん、平川ゆかりさん、私、瑛祐くん。それにアイドル顔の浅野祐悟くんと、ラグビー部の渡瀬雪哉くん。あの遠足のグループが中心だ。
ちなみに岸川さんは彼氏とデート、佐伯くんと久野くん、西野さんは部活。西野さんに至っては、久野くん好きが高じてサッカー部のマネージャーになっていた。……うん、青春だね。
少し時間を遡る。
「テスト終わったね! 打ち上げしようよ」
と、ゆかりさんが声をかけてきたのだ。
最初は「グクが待っているから」じゃ無くて「少し用事が…。」と断るつもりだった。
けれど、ゆかりさんがグッと近付いてきて耳打ちした。なんだか柔らかい感触も伝わってきて……。
(……あの、私、中身はおじさんなので。可愛い女子高生とのこの距離感は、精神が保ちません。社会的にも死ぬ。あ、でも、柔らかい。それになんだかいい匂い……)
「ラグビー部が休みで渡瀬くんが来るのよ。優香(白川さん)が可愛くなるから面白いよ。来る?」
「行く。」
食い気味に返事をしてしまった。完璧美少女・白川さんが崩れるところ、見てみたい。
「瑛里が行くなら、俺も……」
隣でボソッと呟いた瑛祐くん。……聞こえちゃったよ。ゆかりさんにも筒抜けだよ。
まあ、でも、嬉しいものだ。白川さんが行くからじゃなく、「私が」行くから来てくれる。
……もう大丈夫、私。って何が?
カラオケに来て「何か歌って」と言われ、最初は尻込みしていた。
けれど、今の私なら女性ボーカルのあのアニソンが歌える! と思ったら、急に楽しくなってきた。
YUKIさんのあの声を出せる……! と思って挑んだものの、現実は甘くない。やっぱりあの独特のハイトーンは出ないし、テンポもズレた。
でも、男の声で歌うよりは100倍マシなはずだ。
「瑛里ー、うまいじゃん!」
ゆかりさんは、やっぱり良い人。
「そ、そんなことないけど。でも楽しいね。」
白川さんは可愛いラブソングを歌っていた。やっぱり可愛い、この人。
浅野くんは見た目通り、アイドルのようなキラキラした歌い方で、これもまた可愛い。
「よし、次は私の番かな。」
昔のアニソンといえば、これは外せない。男の声では逆立ちしても歌えなかった名曲。
「おぼえていますか〜、目と目があったとき〜」
ふぅ……歌いきったぜ。これで宇宙は平和に……。
ふと見ると、一同がポカンとしていた。
「よく知らないけど、いい歌だね」
白川さん……! どこまでいい人なんだ。いい歌なんだよ、これで宇宙から戦いが無くなったんだから。
「昔のアニメの歌で……めっちゃ流行ったらしいんだけどね」
「私も歌ってみたいから、今度教えてね」
白川さんに上目遣いで見られると、おじさんの心はキュンとしてしまう。
惚れてまうやろー!
瑛祐くんは、あの『バーズアクス』の主題歌を歌っていた。
結構売れているアーティストの曲らしく、歌いこなす彼は文句なしにカッコいい。
惚れてまうやろー。
……ち、違うよ。今のなし。
「瑛里。ほら、あれ見て」
またゆかりさんが耳打ちしてくる。だから近いって。いい匂い。あぁ柔らかくて気持ちいい。
視線の先では、ドリンクを取りに行った白川さんと渡瀬くんが、なんだかいい雰囲気だった。
無口な渡瀬くんがリードして、白川さんがそれをフォローして……。
「もう一押しなんだよね〜」
ゆかりさんがイタズラな笑顔を浮かべる。
「なんだか、ドキドキするね。」
「まあ、あんたたちも早くくっつけとは思うんだけどね!」
「えっ? 何か言った?」
「いーや、何も。……まあ、カップルができたらみんなで遊んだりできるしね。私は頑張るよ!」
……ゆかりさん。恋のキューピッドかなにかか。
恋の弓矢で狙撃……。
その高性能な射撃…。ただのシムではないな。
「ゆかりスナイパーカスタム」や。
閑話的な感じで1話作ってみました。
月曜日の朝は憂鬱ですが、こんなラブコメ読みながら、通勤・通学するのも悪く無いよね。
また夜も投稿予定です。よろしくお願いします!




