33.これまで通りか…。手強いな、エリー。
ー少しだけ会話が遡ります。
「それは……大丈夫。藤井くんが連れ出してくれたし。」
少し苦笑いしてしまった。でも、助けてくれたことが素直に嬉しかった。手を繋いじゃったしね。
「佐伯には……」
佐伯くん? 誰だっけ……。あ、あの剣道の。
「ん? 佐伯君がどうしたの?」
「……いや、なんでもない。昨日の朝、佐伯と一緒に登校してて楽しそうだったから。……ごめん、こんなこと言うつもりじゃなかった。」
思い出した。私のことを「面白い奴」認定してきて、つい笑っちゃったんだ。
……ちょっと。私、一応「可愛い」枠だよね?
やっぱ自惚れってやつかなぁ。
「ん? 楽しいとは思ったけど、なんか違うかなって思ってたんだ。」
「違う……?」
「あの、私、人を好きになるとかまだよく解らなくて……。あ、だから安心して。藤井くんの恋も、私、ちゃんと応援できるから。」
ようやく言えた。
だから、頑張ってね。
私は、お弁当を食べてもらって、お礼にプラモを教えてもらう。それだけで十分だから。
「……俺の恋ってなんだよ?」
「えっと、同盟?の人たちが言ってるの聞いたよ。白川さん推しだって。」
藤井くんの顔がみるみる赤くなる。
「違う! 違うよ。俺が好きなんは……!」
えっ、誰? 否定する声が大きすぎて、肝心の名前が聞こえなかった。
「違うの?白川さんじゃないんだ?」
「うん。白川さんは美人だと思うけど、それだけだ。」
「あれ、じゃあ誰? 応援するから教えてよ。」
白川さんなら身を引くしかないと思ったけど。あ、もしかして、ゆかりさん?
藤井くんは、なんだか諦めたような、呆れたような顔をした。
「応援はいらないから……特別なのは福原だから。だから、応援なんてしないで欲しいんだけど。」
……特別なのは、福原さん?
誰よ。……って、私か!?
「トクベツ……?」
「うん。だからこれからも、ふくは……いや、え、瑛里のお弁当が食べたい」
そうだよね。お弁当、気に入ってくれてるもんね。
胃袋、ガッツリ掴んじゃってるかな。
「いいよ。そのかわり、プラモ作り教えてね」
「うん。それに、また瑛里と映画観に行ったり、一緒に録画したアニメ観たりとかもしたい。」
……藤井くん、さっきから「瑛里」って呼んでくれてる? じゃあ、私が「藤井くん」のままなのも変かな。
「瑛祐くんっ。」
名前で呼んでみた。
「へっ、なに!?」
声が裏返ってるぞ、少年。
「わかった。応援っていうのは無しで、これまで通りだね。」
「……う、ん。これまで通り? お願いします。」
瑛祐くんは、なんだか腑に落ちない顔をしていた。
名前で呼び合うようにはなりそうだけど。うん、これまで通りだよね。
ーーーーーーーーーー
こ、これまで通りだと……?
瑛里が帰ったあと、僕はアトリエで呆然と立ち尽くしていた。
駅まで送っていく間、映画三部作を観たと言ったら、彼女は今日一番の笑顔を見せてくれた。
これだよ。この笑顔が見たかったんだ。改札で「またね」ってはにかむ顔。最高です。
自転車を押していたから手を繋げなかったけど、次こそは、また……。
なんて浮かれて帰ってきたのに、一人になって冷静になった。
「これまで通り?」
俺、好きだって言ったよな。
特別なのは福原だって。これからも弁当食べたいって。あれ、自分でも引くくらいのプロポーズ並みのセリフだったと思うんだが…。君の作った味噌汁が飲みたい的な?
頑張ったよ、俺……。名前で呼ぶのも、心臓止まるかと思いながら呼んだ。
…なのに、「これまで通り」?
……「人を好きになるとか解らない」って言ってたっけ。
そういえば昨日の朝、佐伯が言っていた。
『お前も頑張れよ。あのコ、相当手強いぞ』
手強いとは、こういうことか……。
とはいえ、彼女なんて出来たことがないから、僕もこれ以上どう押せばいいか解らない。
「好き」という決定的な言葉は、また今度ちゃんと言おう。
今度は……そうだ。瑛里の方から「好き」って言わせるくらい、頑張るしかない。
今日のところは、名前で呼べるようになったことで納得しよう。
今までのヤロー共と違って、振られたわけじゃないはずだ。無理とか嫌とかってバッサリいくらしいから。
「面白くない冗談だね!」って言われた奴もいるらしい…。
…。手強いよな。
でも「瑛祐くん」って呼んでくれたし。
……。
とりあえず、ティッシュどこだっけ。
あ、これ……瑛里が墨入れの時に使ってたやつ。
……は、捗ります。




