31.私は、応援するよ。
藤井くんが自転車を押し、私はその隣を歩く。
お昼休み、あの場から逃げるために手を繋いだ。でも今は彼が両手でハンドルを握っているから、手は繋げない。
(……じゃなくて! 男の子と手を繋いで歩くなんて、あり得ないから。私は友達として、彼の恋を応援するって決めたんだ。)
よくわからない感情は、朝、涙と一緒にトイレに流した……はず。
コイツとは、ただの「ガムプラ友」。
告白される機会がある身としては、正直「私に気があるのかな」と思っていた時期もあったけれど、白川優香さん推しなら話は別だ。
正統派美少女、白川さん。女の子の私でさえドキドキするあの可憐さ。
(元・男の私には絶対無理なムーブだよ。あんなのハイスペックすぎて勝てっこない。でも藤井くんも男前だし、お似合いなんじゃ?)
「あ、着いた。……今日は、あんまり話せなかったな。」
アトリエの扉の前で、藤井くんが少し申し訳なさそうに言った。でも、多分原因は私…。
「ごめん。ちょっと考え事してて。」
(あーもう、友達なんだから、そんな気遣い要らないのにね!)
「今日は、仕上げにコーティングしよう。」
「こーてんぐ?」
「うん。このままじゃ、いかにもプラスチックって感じだろ?」
「うーん。今回は『半光沢』がいいかな。」
半光沢。……半分、光沢。確かに、私は外見だけの半分女の子だけどね。
「光沢を出すと金属っぽくなるし、つや消しはリアルだけど少し質感がくすむ。半光沢はその中間で、俺、好きなんだよな。」
「好き」という言葉に、心臓が跳ねる。
(……ダメ、もうそれはもういいって決めたんだから。どっちつかずが好きなんて、まるで私みたいだけどね。)
塗装ブースの電源が入り、ブロワーの音が響く。
「あった、このスプレー缶を使って。」
「うん。……どうするの?」
「こうやって、全体に吹き付ける感じで。」
見本を見せてくれる彼の手付きは、相変わらずスムーズで綺麗だ。
「やってみる。……あっ、吹きすぎたかも!」
「大丈夫。裏側や脇の下も意識して吹くといいよ。」
「はい、師匠!」
「……っ、師匠ってなんだよ!」
「ふふっ。でも、先生だもんね。」
ただの友達。こうやって作業している時間は、確かに楽しい。
(うん、やっぱり勘違いするところだったよ。これくらいが丁度いい。)
「乾いたら完成だ。仕上がりは明日以降に見に来ればいいよ。」
「うん。そうする。」
「じゃあ、次に作る『グク』は、その時に開けよう。」
「あ……でも、藤井くん。そろそろ期末テストだね。勉強しないと。」
「お、そうだった。じゃあ、次のお楽しみ、かな。」
家に帰り、夕食の片付けを手伝いながら、お母さんと並んでお皿を洗う。
「そろそろ勉強しないと、期末テストなんでしょ?」
「あ、うん。明日からは早く帰ってくるよ。」
「そうなの? てっきり彼氏に教えてもらうのかと思ってた。」
「……彼氏なんていないし!」
「瑛祐くん……だっけ? あのA君。勉強はできるらしいわよ。」
「はぁ? なんでそんなこと知ってるの?」
本人からも聞いていない情報を、なぜお母さんが。
「楓さんが言ってたもの。『勉強しか取り柄なくてごめんなさい』って。」
「え、どういうこと?」
なんと、カード大会の日の「内緒の用事」というのは、楓さんとの食事会だったらしい。いつの間にそんな情報交換を……お母さんの行動力、恐ろしすぎる。
「でも、藤井くんは彼氏じゃないよ。……これからも、無い、かな」
「でも、瑛里、めっちゃ好きでしょ?」
(……うわ、顔に血が上る!)
「そ、そんなことないもん。それに、彼には気になる子がいるらしいし…。」
「瑛里じゃない子に? それ、何かの勘違いでしょ。楓さんも言ってたし……」
「でも、男子たちが『藤井は白川さん推しだ』って言ってたんだよ!」
「それ、直接本人から聞いた?」
「……聞いてないけど。」
「じゃあ、絶対に違うから!」
エスパーのお母さんが言うと、妙な説得力がある。
「……もう、わからない!… お風呂入って寝る!」
ベッドにうつ伏せになり、枕で頭を抱え込む。
(藤井くん、私のこと、好きなのかなぁ……?)
足をバタバタさせて、このモヤモヤを振り払おうとする。
……。
(……待て。これ、端から見たら『恋する乙女の可愛い仕草』そのものじゃないか!)
ハッと動きを止める。
(男の時って、こういう時どうしてたっけ……?)
(……筋トレ? 腕立て伏せとかして、気を紛らわせてたっけ……?)
この華奢な腕で今さら筋トレをしたところで、この高鳴る鼓動が収まるとは思えなかった。
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