30.ねるとん紅鯨団といった番組がありました。
ーなんか、話あるらしいから先に行っててくれる?
ー…。わかった。
隣の席なのに、メッセージでのやり取り。
直接話せばいいんだけど、誰かに聞かれるのも嫌だし、何より今の私は、きっとまともに話せる状態じゃない。
どんなに心が揺れても、お腹は空く。
藤井くんはもう、私のお弁当抜きには生きていけない身体になっているはずだしね。
……お弁当の時間と、彼が誰を好きかは関係ない。これはあくまで、プラモ作りのお礼なのだから。
昼休み。私は校舎の裏で、三人の男子に囲まれていた。
「付き合ってください!」
「友達からでも、お願いします!」
「今度、ご飯でも行きましょう!」
三人の男子が、深々と頭を下げて手を差し出している。
(……これ、昔流行った『ねるとん紅鯨団』のやつだよね。)
おっとぉ! ここでエリちゃんを巡って同盟の三人がチェックインだぁ! とんねるずだったか……なんて、脳内の実況で茶化さないとやっていられない。
実際、女の子ってこういう時どう答えればいいの。大変すぎない?
ご飯くらいならいい気もするし、友達も欲しい。けれど、どうしてもアイツの顔が浮かんでしまう。白川さんのことが好きらしい、アイツの顔が。
……やっぱり、他の誰かも、友達も、今は要らない。
「えっと。……ごめんなさい!」
「なんで? 他に好きな人とかいるの?」
「……。」
「いないんなら、デートくらい……とりあえずID交換……」
「ちょっと待ったぁぁ!」
あ、その声は。
でも……タイミング、遅ぉぉい! 「お願いします!」の前に割り込まないと、成立しないでしょ!
…。って、そういう問題じゃないか。
「話は終わっただろ。福原、困ってるし。」
藤井くんが間に入ってきた。けれど、彼が口にしたのは「ちょっと待った、俺も!」ではなかった。
(……やっぱり、白川さん推しだからかな?)
「うん。……ごめんなさい。でも、ありがとうね。」
私が最後通牒を突きつけると、同盟の三人は「くっ……」と呻いて撤退していった。
「じゃあ、これで終わりな! 福原、行こう。昼休み終わっちゃう。」
藤井くんは私からお弁当の袋をひょいと受け取り、もう片方の手で、私の手を握った。そのまま、いつもの中庭のベンチへと引っ張っていく。
自然に、手を繋いだ形。
顔から火を吹きそうになって藤井くんを盗み見ると、彼も耳まで真っ赤になっていた。
「あのさ……手!」
「あ、ごめん! 咄嗟に……嫌だった?」
「嫌じゃ……ないけど。…あの、正直どうしようかと思ってたから、助かったよ。ありがと。」
「……そうか。いや、まあ、それなら良かった。」
何が「良かった」のかは分からないよ。
いつもなら下らない話で盛り上がるのに、二人とも無言でお弁当を広げる。
気合いを入れて作ったチーズインハンバーグは、お弁当だとチーズが固まっていて微妙だった。……こんな日に限って。
無言なのは、美味しくないからかな。いつも楽しみにしてくれているのに。
「ごめんね。」
つい、謝罪が漏れた。
「えっ、何が? アイツらがしつこかったのは、福原のせいじゃないよ!」
「いや、あの、チーズ固まってて、美味しくなかったかなって……。洸也のお礼だから、頑張ったんだけどな…。」
「えっ? ああ、大丈夫! 十全に美味いよ。こんなのレストランでしか食えないって感動してたんだ。……もっとアツアツなら、もっと凄いのか?」
「……うん。アツアツの時は絶品だったんだけど。」
「そうか、食べてみたいな……」
「今度、作ろうか? 楓さんも一緒に。」
「いいのか?」
「お寿司のお礼もしなきゃだしね。」
少しだけ、いつもの空気が戻ってきた気がした。でも、白川さんのことが頭をよぎる。
(……もう二人で会わない、とか言われたら、また泣いちゃうかも。)
「あ、そうだ。これ言わないと。」
藤井くんが真剣な顔で私を見た。
「あのさ、シア専ザフ。もう完成って言っていいと思う。初めてにしては、凄く上手くできた。」
あ、褒めてはくれるけど、やっぱり「完成=終わり」なのかな。
誤解させちゃいけないしね。頑張れ、私の涙腺。まだ泣いちゃダメだ。
「そうだね。おかげさまで、カッコよくできたよ。楽しかった。」
「でさ、昨日ショップの手伝いしてたろ。ご褒美に店長からこれ貰ったんだ。」
見せられたスマホの画面には、MS-07 グクのHGパッケージが。
「あ、グク?青い巨星の…。 しかも限定の、あんまり売ってないやつ?」
最近仕入れた知識が役に立つ。HG、MG、RG、PG……。
(……ハードゲイ、ミドルゲイ、リアルゲイにパーフェクトゲイ……いや、プレミアムゲイか)
下らないことを考えると、涙が引っ込む気がする。
「店長にこれ貰えるって言うから、恥を忍んで手伝ったんだ。だからさ……次は、これ作ろうぜ。また違うテク、教えるから」
A君って言われるの嫌だったのに?やっぱいいヤツだよ。
「ん? プラモ作り、終わりじゃなくて……?」
「あ、もう終わりにしたかったら仕方ないけど。……まだまだ色々教えられるし、続けてくれると、嬉しいんだけど。」
「……っ、いや、私も続けたくて。……うん。嬉しい、かも。」
涙が少し、溢れてきたけれど。
これは、さっきトイレで流した涙とは、全然違う、なんだか暖かい温度だった。
申し訳ございません。
投稿の話数を間違えていまして、修整させていただきました。28話が抜けていて、読み返していると話は繋がるようなのですが、瑛里ちゃんにハマーン様やって欲しくて、どうしても差し込みたくて、ちょっと無理やり修整しました。
ごっちゃになってしまった方、申し訳ございませんでした。
これに懲りず、この話を読み進めていただけますと、幸いに思います。




