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29.この気持ちを恋と言うなら


アキラさんへの感情「敬愛」を恋と呼ぶのなら、藤井くんへの気持ちは、まだまだ分からない。


男の子に恋するなんて、元・男の私にはありえない話だしね。


お母さんの生温かい視線をスルーして、二人分のお弁当を鞄に詰め学校へ向かう。


今日から夏服。薄くなったシャツは心なしか防御力が低い気がして落ち着かない。昨日換装した「C型装備」って、もういいか。


下着のラインが透けていないか、形がわかってしまわないか。女子って、登校するだけで考えることが多すぎる。


「お、福原!」

不意に声をかけられ振り返ると、見上げるほど背の高いイケメンがいた。遠足の時に少し話した……。

「えっと。佐伯君だっけ?」

「なんで疑問形だよ。……まあ、噂通りか。」

剣道で県優勝し、インターハイに出るという佐伯君。彼と世間話をしながら歩く私の心は、驚くほど凪いでいた。

佐伯君は、女子なら誰しもがトキメキそうなスペックなのだが…。

ドキドキしないのは、なぜ?


「福原って、他の女子と違って面白いな。」

「面白いって……。女子には可愛いって言わないと。」

「そうだな。確かに。でも、なんか面白いんだよ。」

そう言って笑い合った瞬間、

「はよー。」

低く、少し不機嫌そうな声が横を通り過ぎた。自転車で私たちを追い抜いていったのは、藤井くんだ。


「あ……!」


一瞬で、顔が熱くなる。夏服のせいじゃない。

「……まあ、男の趣味も悪くない、か。」

「えっ、佐伯君、何か言った?」

「いや、別に。まあお互いに手強そうだけど、頑張れよ。アイツいいヤツだからな!」

「何の話?」

佐伯君はニヤリと笑って、そのまま校門へと消えていった。


藤井くんと目が合った時の浮かれる感じ。隣にいる時の、心臓の音がうるさくなる感じ。佐伯君相手には、微塵も感じなかった。……なんだろうね、これ。


教室に入ると、藤井くんと「同盟」の男子たちが何やら話し込んでいた。

「藤井は、白川さん推しだからいいじゃねえか!」

「だから、それは……とにかく、もうコソコソするのは無し。」

「じゃあ、俺がコクってもいいんだな?」


私に気づいて、会話がピタリと止まる。

(……藤井くん、白川さん推しなんだ?)

そっか。なんだ、そうだったんだ。

恋ってなんだろうなんて、一人で空回りするところだった。


……なんだか、すごくホッとした。うん、ホッとした。これで、余計なことを考えなくて済む。


「あ、ちょっとトイレ行ってくるね。」


逃げるように席を立ち、個室に駆け込んだ。


鍵を閉めた瞬間、なぜか、本当に自分でもわけがわからないけれど、涙が溢れてきた。

(……これも、女の子の体のせいなのかな。今までこんなに簡単に泣いたことなんてないのに。)

前世の時、「女はすぐ泣くからズルい」なんて、ほんの少しでも思ってしまってごめんなさい。なぜだか止まらないんだ、これ。


数分してようやく涙が収まり、教室に戻ろうとした時。

「福原さん。話があるんだ。」

さっきの同盟の男子が、真剣な顔で立っていた。

「あ、でも日直があるから……後で。」

「じゃあ、昼休みに裏庭に来てくれる?」

裏庭。いつもお弁当を食べる場所の近くだ。

「……わかった。」


教室に戻り、日直の仕事をこなしながら思い出す。

この流れ、中学の時にも何度かあったやつだ。

(うわぁ……正直、面倒くさいよ)


自意識過剰だったら恥ずかしいけれど、おそらくは「告白」だろう。


かつての私なら、興味のない男子からの好意には嫌悪感しか抱かなかった。

けれど、今の私は……。


「恋」というものかどうかわからないものの、痛みを知りかけてしまった今の私は、彼の好意をどう受け止めればいいのだろうか…。


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