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27.A君は、エイスケくん


一旦、き、気づかないフリをしよう……。

まぁ、負けたらさっと帰れるだろうし。


なにより、下着を新調して胸のラインがいつもよりハッキリしているのが、なんだか無性に恥ずかしい。

旧ザフからザフⅡC型装備に換装した直後に本人に会うなんて、どんな不運補強パーツだよっ…。


いや、幸運のパーツなのか?


準決勝は、洸也が圧勝した。

「おっと、瞬殺の魔術師の再来か!」

なんて実況されている。

けれど、決勝は一転して負けてしまった。


「あー、悔しい! デッキ事故だよ。最後までサラマンドラが出なかった」

舞台から降りてきた洸也は、顔を真っ赤にして悔しがっている。


「まあ、カードゲームだもんね。そういうこともあるよ。次があるって!」

「……うん。あ、表彰式と『A君』のデッキ診断があるから、もうちょっとだけ待ってて」

(……出た。瞬殺の魔術師・A君)


準優勝の特典は、マスターA君によるデッキ診断と、お勧めカードのプレゼントらしい。優勝賞品が、誕生日プレゼントに貰っていたゲームソフトだったから、洸也にとってはむしろ「カード貰えてラッキー」な展開になったようだ。


準優勝の賞状をもらって、嬉しさを爆発させている洸也。やっぱりこういう素直なところは可愛い。

……それにしても、藤井くんはどこへ行ったんだろう。表彰式には姿がなかったけれど。


「ねーちゃん、賞状持ってて。A君がプレゼントのカード準備してくるから、ここで待っててって」

「いいよ。……あ、優勝賞品、スモブラだったから、負けてよかったかもね?」

「……うん、まあ。負けてよかったとは言いたくないけどね」

そこは勝負師として譲れないらしい。いいね。そういう挫折が少年を大人にするんだよ。


「洸也くーん。福原洸也君!」

呼ばれた。けれど、その声は――。

「洸也君、準優勝おめでとう」

「ありがとう、A君!」

「……まあ、A君って呼ばれるの、いい加減ちょっと恥ずかしいんだけど。今日は、お姉ちゃんと来たの? って、えっ!えっ!」

私を見て、藤井くんが石像のように固まった。……ちょっと可愛い。


「ははは。こんにちは、『A君』?」

「……えっ! ねーちゃん、A君と知り合い? あ、そっか、彼氏か! 流石は俺のねーちゃん!」

「いやいやいや! 違うってば。藤井くんは、ねぇ?」

ただのクラスメイトと言いかけて、言葉が詰まった。今の私たちは、ただのクラスメイトじゃない気がするから。


「そうだよ、洸也君。福原……さんは、クラスが一緒で」

さん付け。……急によそよそしい。藤井くんの認識は、やっぱり「ただのクラスメイト」止まりなのかな。いや、違うよね。

「えー、ただのクラスメイトなのかぁ? ……ねぇ、A・スケ君!」


つい、口走ってしまった。A君と呼ばれるのを恥ずかしがっている彼を、少しだけ茶化したくて。本当は『瑛祐くん』って呼びたいんだけど。


「福原!? ……いや、まあ。あ、そうだ、デッキの話だよ!」

藤井くんは耳まで赤くして、慌てて本題に入った。


「洸也君、なんで決勝で負けたか分かる?」

「サラマンドラが引けなかったから……」

「そうだね。君のデッキは、サラマンドラの火力に頼りすぎているんだ。だから、このカードをあげよう」

「ファイヤーリザート?」

「そう。スキルでね、このカードが破壊された時にサラマンドラを召喚できる。逆転も狙えるし、これで事故が減るはずだよ。でも、君のデッキは凄くいい。この調子で頑張れ!」

「はい! ありがとうございます!」

藤井くんは説明が上手い。小学生にも分かるように、丁寧に、けれど対等に接している。


(……そういえば、私もプラモ作りでいつもお世話になっているんだよね。)

「あと、これ。……ちょっと迷ったんだけど、このカードも」

「あ! エリコだ。レアカードじゃん!」

「俺の『推しカード』だけど……。福原の弟なら、うん。良いよ、あげるよ」

「えっ、いいの!? これ、名前だけじゃなくて、ねーちゃんに似てるから欲しかったんだよー!」

「まあ、俺はもうバトルは引退してるから必要ないんだけど……大切なカードだったんだよ。でも、洸也君が持つべきカードだと思う。このカードがいれば、火属性を呼び込めるからね。」


エリコ、というカード。

確かに、どこか今の私に雰囲気が似ている。

(……え、私に似たカードが『推し』……?)


いやいや、たまたまだよね?


「えっと、じゃあ俺、撤収の手伝いがあるから。洸也君、またな!」

「うん、A君! 本当にありがとう!」

「……ふく……っ、瑛里も、また明日な!」

藤井くんが、福原と言いかけて――洸也にジッと見つめられて、とうとう『瑛里エリ』と呼んでくれた。


恥ずかしくて、でも、胸の奥が温かい。


「うん。また学校でね、エー君!」

照れ隠しに、また茶化してしまった。

「……っ! 学校では、A君っての絶対に内緒だからな!」

「えー、どうしようかなぁ~」

なんて笑い合ったけれど。


学校では「ボッチでコミュ障」の私が、彼の事を瞬殺の魔術師A君だと言うことを、今の私にはまだ、クラスの皆に説明できそうになかったよ…。

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