22.ラスボスと仲良くしても悪堕ちではないよね!
「どうしたの、顔色悪いわよ。大丈夫?」
「あ、いえ。ちがってて……」
藤井くんのお母様という名のラスボスと遭遇して、勝手に萎縮して震えてるなんて、口が裂けても言えない。
「あ、福原? ごめん、来てくれたんだ。」
私に気づいた能天気な藤井くんが、ひょいと顔を出した。
「う、うん……。」
あ、ちょっと泣きそう。なんか顔見ると、安心した。
助かった。……のかな?
「俺の母さんなんだ。えっと、楓さん。こっちはクラスメイトの福原さん」
そうだよね。私にとってはラスボスでも、彼にとっては母親なんだ。
勇者の母といえば、始まりの街でいつも主人公の帰りを待っていて、タダで泊めてくれる聖母のような存在。……よし。私だってパーティーメンバーとして歓迎されるはず。……いや、でもやっぱりオーラが怖いです。
「あ、あの! 福原です、福原瑛里です!」
「あ……もしかして、お弁当のコ?」
「あ、はい! 藤井くんに食べてもらってますっ!」
緊張のあまり、声が思いっきり裏返った。
「いつもありがとうね。ちゃんとお礼しなきゃと思ってたんだけど、バタバタしてて」
あれ。……意外と、優しい?
「楓さん、お礼なんていいって。」
「いいわけないでしょ。アンタ、いっぱい食べるんだから。食材だってタダじゃないのよ、ねぇ?」
急に私に振らないでほしい。
「あ、それは大丈夫です。少し増えるくらいなら廃棄分が減るだけだと母も言っていますので。……あ、あと、私が好きでやっている事で、私も少しだけ家にお金を入れてますから」
お父さんのコネでもらったバイト代。1回のバイト代五千円のうち二千円を家に入れている。お父さんがいい人すぎて出世できていないという噂を聞くので、少しでも足しになればいいと思っている。
「まぁ、気遣いのできるいい子ね。」
楓さんは綺麗な人だけれど、どこか苦労人のような温かさがある。
「あ、その代わり藤井くんには、プラモのこととか色々教えてもらって……感謝してるんです。」
「あらそうなの? こんな玩具のどこがいいんだか、って思うけど。……あ、そうだ。瑛里ちゃん、だったわね?」
急に下の名前、しかもちゃん付けに昇格した。
「今日の晩ご飯、ご馳走するわ。いいでしょ?」
急だけど、断れない感じ。
「あ、はい。でも、母に聞いてみないと……」
「私からもお願いしてみる! 番号教えて!」
あれよあれよという間に楓さんは私のお母さんと話し込み、笑顔で電話を切った。
「大丈夫だって。お弁当代の代わりに、たまに瑛里ちゃんを、美味しいご飯に連れて行ってあげればいいって。」
……お母さん。
ボッチで引きこもり気味だった娘を心配して、外の繋がりを持たせようとしてくれているんだな。お洒落させたいっていう母の愛を感じて、少し鼻の奥がツンとする。
「じゃあ、夕飯にはまだ早いし、ちょっと待っててね」
楓さんは一度着替えに(?)家へ戻っていった。
「……ごめんな。ウチの母さん、強引で」
藤井くんが手を合わせて謝ってきた。
「ううん、大丈夫。パワフルなお母さんだね。」
「デザイナーやってて、独立したばっかで大変みたいなんだ。」
「へぇー、社長さんなんだ。すごいね。」
「でも家事は苦手だし、全然お母さんっぽくないだろ。名前呼びなのも、そのせいかな。」
「ははは、確かにこの年でママって呼ぶのも、ね。」
でも、名前呼びっていうのも、なんだか特別な距離感を感じてしまう。
本当なら、今日はスミ入れを教わるはずだった。
けれど、こうして二人で家族の話をしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。
日が暮れ始めた頃、戻ってきた楓さんがアトリエのドアを開けた。
「あら、仲いいわね。」
ちょうど、弟の洸也に無理やりゲームをさせられて、負けるとマジで悔しいんだっていう話を、私が笑いながらしていた時だった。藤井くんも笑ってくれていた。
「……悪いかよ。友達なんだからいいだろ。」
藤井くんがぶっきらぼうに答える。
友達。……うん、私達は友達なんだよ。
何気に、今、友達と呼べるのは藤井くんだけかもしれない。そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなるけれど……。
(……嬉しい。嬉しいんだけど……なんだろう、このモヤモヤは)
「……まぁいいわ。遅くなるといけないし、行きましょうか」
「「はい」」
ラスボスとの強制イベント突入。
……じゃなくて、友達の家族との初めての食事会が始まった。
今更なんですが、季節が逆でしたね。
毎日寒いけど、瑛里ちゃんのアツい恋で温めてくれるさ。




