21.新しい出会い。
遠足以来、たまに平田ゆかりさんと話すようになった。
「瑛里。お昼はいつもどこかに行ってるよね?」
「あ、うん。教室だと、あんまり……」
居心地が悪いとは言えず口ごもると、ゆかりさんは藤井くんの方をチラッと見て、勝手に納得したような顔をした。
「うんうん、そう言う事か。あ、そういえば。私、『プリズム』って雑誌を買ってるんだけど……」
急な話題の転換にホッとする。けれど『プリズム』?
「瑛里に似た感じのコが載ってて。瑛里もあんな感じで着こなしたら、きっと可愛いよ」
……似たコというか、それ、本人です。
「ふ、ふーん。でも、それ……。」
カミングアウトすべきか迷っていると、予鈴のチャイムが鳴った。……助かった。のか?
週二日は藤井くんのアトリエでプラモ、週二日は雑誌社のバイト。
残りの日は家で母さんに料理を教わったり、弟の洸也とゲームをしたり、お父さんの肩を揉んだり。
前世では考えられなかった「充実」というやつを、私は今、全力で楽しんでいる。毎日が、楽しい…。
藤井くんへのお弁当作りも続いている。
「美味しい」と言ってもらえるのは純粋に嬉しいし、中庭で二人、プラモの話をしながら食べる時間は、一人でボッチ飯をしていた頃とは比べものにならないほど楽しい。思わず笑顔になっている自分に気付く。
(……相手が藤井くんだから楽しいのか、それとも趣味が合うからなのか。……。いや、今は深く考えるのはやめよう。今が楽しい、それ以下でもそれ以上でもないよ。)
ま、藤井くんからは、前回の「サービス」以来、なんだか意識しちゃってる様な視線を感じるのは、自意識過剰だろうか。
プラモの方は、藤井くんの指導のおかげでランナー跡も消え、ツルツルの「美脚シア専ザフ」が形になった。
「やっぱり赤はいいよね。でも、まだ何かが足りないような……。」
「スミ入れ、してみようか」
スミイレ? また新しい専門用語だ。前世の私、本当にプラモ作ってたのかな。
そんな期待を胸に、今日のアトリエへ。
数学の再テストのせいで、到着がいつもより遅くなってしまった。瑛里になってから、どうも理数系が苦手になった気がする。
アトリエの扉を開けようとしたその時、中から話し声が聞こえた。
「全く興味がなくなったんだと思ってたのに。そんなんじゃ、あの人みたいになっちゃうわよ!」
鋭い女の人の声。揉めている……?
「あの人って言い方。じいちゃんは、楓さんのお父さんだろ!」
「アンタだって、ママのこと『楓さん』って……」
(か、帰ろう。これ、聞いちゃいけないやつだ)
慌てて引き返そうとした拍子に、カバンが戸のガラスに当たって「バンっ!」と派手な音を立てた。
「ふ、福原!?」
「あ、藤井くん。き、今日は帰るね!」
逃げようとした私の前に、一人の女性が姿を現した。
「あら……どなた?」
「あ、いえ。あの……」
話の流れからして、藤井くんのお母様、だろう。
……美人だ。
きっと私のお母さんと同世代、四十代のはずなのに、驚くほど綺麗で「デキる女」のオーラを纏っている。
なんだ、この威圧感。
……。
あ、あれだ。
「コイツ、動くぞ!」なんて調子に乗っていた主人公が、シア様と遭遇してガツンとやられる、あの絶望感。
私は主人公ではないけれど、序盤でラスボスに出会うのは「負けイベント」でしかない。
私の高校生活。……始まったばかりで、もう詰んだのか?
今日は、ちょっと用事あって早めに投稿します。
毎日決まった時間の方が良いのか悩ましいところですが、よろしくお願いします。




